
梅雨明けがはっきりしない7月中旬。逗子にあるAirbnbに召喚された。夏を待ちきれないせっかちな友人がタコスパーティをやるぞと言うのだ。語気からしてすでに決定事項のようだったから、4時間ラードで煮込んだカルニタス、大量のライム、パクチー、自家製タバスコなどを携えて、電車とタクシーを乗り継いで湘南国際村へむかう行商人だ。
古民家を改装した宿は、オーナー自らの手でコツコツとDIYしているそうだ。開放的なウッドデッキ、ムーディな間接照明、メキシコ製のハンモックをはじめ、しつらえた調度品は隙がなく、センスの塊といった空間だった。鳥のさえずりと青々とした山に囲まれて、タコスを頬張り、テキーラをあおりにあおる。帰宅直前に熱中症になるという不祥事をのぞけば、最高のラテン日和であった。


残ったライムはあまさず持ち帰ってきた。実はもう一品作りたかったのだ。
「ユカタン風チキンとライムのスープ」だ。
孤独のグルメSeason7 第3話、「東京都港区南麻布のサルシータ (SALSITA)」で井之頭五郎が啜っていた Sopa de Lima。Limaとはライムのことなので、直訳すればライムのスープとなる。酸味よりも甘みと香りが立つ独自のライム(lima ágria)が育つユカタン半島の名物だ。



へぇ、これがユカタン
おぉ、下にお宝ザックザク
アボカド、トマト、あっ、チップスまで
ほうほう、食感が陽気。口の中が小躍りしてる
熱いがスプーンが止まらない
具だくさんなのに味はすっきり
なんだかクセになりそうな
チップスがナイスだ
うーん、ユカターン。お茶目なユカタン
きっと人気者だ
酸っぱ辛いスープといえば、酸辣湯とかトムヤムクンとかラッサムが王道だけど、ユカタン風スープはさらにあっさり野菜たっぷり夏向きのチキンスープだと思う。
ググってみると、澄んだ液体にライムと鶏肉のみというプリミティブなものもあれば、アボカドや揚げたトルティーヤなどゴロゴロと具がはいった観光客むけっぽいものまでレシピはさまざま、ラテン気質の大らかさがみてとれる。
となれば、友人が送ってくれた福耳唐辛子を登板させよう。ハバネロの代打だ。トッピングはトウモロコシにした。酸味のなかにコーンの甘味がダイレクトに浮かび上がってくる。
クローブ、シナモン、オレガノ、ベイリーフというスパイスの組み合わせも新鮮だ。ちょっと不思議なんだけどクセになるフレーバー。ちなみに、クローブとシナモンではなくオールスパイスを使うレシピも散見される。たしかに、オールスパイスは「シナモン、クローブ、ナツメグをミックスしたような香り」と評されるし、中南米が原産なのでこれも納得だ。
北海道では40度を超える猛暑を迎えていると耳にしたが、ここ熱海も例外ではない。暑いというより、地球の上で炙られているように熱い。熱いのにスプーンが止まらないという五郎さんの呟きがなるほどよくわかった。火照った身体にすぅ~っと染みいり、汗をふきふきもう一口、もう一口とやってるうちに背筋がしゃきっと立ち上がり、食欲なかったはずだけどもっとがつんとしたもの食べたいな、と思わせてくれる、そんなスープだ。
ユカタン風チキンとライムのスープ~ Sopa de Lima~

材料
鶏肉(ドラムスティック) | 8本 | お好きな部位で |
水 | 1リットル | |
スパイス(出汁用) | ベイリーフ1枚 | |
タマネギ | 1個 | 出汁用に半割、もう半分は大きめの賽の目切り |
トマト | 1個 | ざく切り |
福耳唐辛子 | 1本 | 種は取り除いてざく切り。ハバネロを使うならみじん切り |
ニンニク | 2片 | ひとつは出汁用に半割、もうひとつはみじん切り |
スパイス(スープ用) | シナモン3cm、オレガノ小さじ1、クローブ4個、胡椒 | |
ライム | 1個 | |
蒸したトウモロコシ | 1本 | 芯から外すと食べやすい |
トッピング | 揚げたトルティーヤ、パクチー、アボカド、ライム薄切りなど |
つくりかた
- 鍋にドラムスティック、水、半割のタマネギ、ニンニク1片をいれて、沸騰させたら弱火にする。灰汁は適宜取り除く。肉が骨から箸で外せるくらいまで、ゆっくり火を通す。今回は深い土鍋を使ったので、1時間弱火で煮たのち、火を切ってそのまま冷ましておいた。
- 冷えた肉は骨から取り外し、割いておく。スープはザルで漉しておく。
- 新たな鍋に油少々を加え、シナモン、クローブ、賽の目のタマネギ、ニンニク、福耳唐辛子を炒める。
- タマネギがごく軽く色づいたら、トマトを加え、軽く炒める。トマトの原形は残しておきたいので、潰さない。
- スープを加えたらオレガノを加えて沸騰させ、鶏肉をもどして弱火で10分ほど煮る。
- 塩、胡椒で味を調え、最後にライムを搾る。ライムを1個入れると酸っぱくなりすぎる場合があるので、8つ割りくらいにして様子をみながら加えるといい。もしくはライムを別盛りにして各自で酸味を調えるのもあり。