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時速1kmの思考

見切り野菜のスープ

食材の買い出し前に古本屋を散歩するのが最近唯一の運動だ。
つま先立ちで腕と首を伸ばして上段の棚を眺め、中段は足を肩の位置まで開き腰を捻る。下段ともなればなかばスクワットの状態まで腰を下ろすから、長居すればするほどじわじわと効いているはずだ。

こうしてくまなく棚をチェックしていたある日は『ハーバード式野菜スープ』なる本に目がとまった。

残念ながら「頭が良くなるスープ」というわけではなく、「身体が良くなるスープ」のようだ。
ざっと眺めたところによれば、キャベツ、玉ねぎ、にんじん、かぼちゃを煮込んだスープとあり、そもそもは心臓疾患のある患者に手術しようとしたら肥満すぎてメスが入らなかったので、まずはダイエットをさせるべく、患者に投与したという食事療法だ。

癌や糖尿病など体のあらゆる方面になにかと効用があるとかで、ややシャーマン的な怪しさも孕んではいるが、まぁ野菜スープが健康に悪い影響を与えることはなかろうに、というしごく納得の感想でもって手ぶらで退店。階下のスーパーへ向かった。

すぐに使える食材があればと軽い博打気分で見切り品コーナーへ直行するのが常だが、その日は半割のキャベツが棚を占拠していた。ビニールに包まれたキャベツは青い結束テープがぐるぐる巻かれて窮屈そうだ。
半殺しされて縛られて息もできないのか、切り口は萎れている。半割だと劣化が早いので仕方ないのかもしれないが、この物価高騰のご時世になんとも物悲しい情景ではある。

そういえばハーバードスープにはキャベツが入っていた。野菜の補給にはちょうどいい。
見切り品はまだまだある。
ばら売りのトマトとニンジン、それに茶色のエノキダケもカゴに入れる。


見切り野菜と中途半端に残っていたタマネギ、野菜室で干し椎茸化していた生椎茸、冷凍庫に避難させておいたセロリ。
刻んだそばから圧力鍋に放り込み、野菜ひたひたに水を加えて点火。

沸騰したら灰汁をとり、ベイリーフを加え圧力をかけて20分。自然に圧力が抜けたら塩で調味して完成だ。
とりあえず「見切り野菜スープ」と名付けよう。ハーバードに比べて偏差値が劣りそうな、なんの捻りのない命名だ。

口に入れた瞬間は「薄いな」と感じた。それでも食べ進めるごとに野菜の味がわかるようになってきたようで、おかわりする頃にはしっかりと塩味を感じるようになってきた。

超旨い!というシロモノではないが、味を感じる舌の細胞が蘇ってくるような、若返っていく感覚とでもいえばいいだろうか。
ほとんどがキャベツなのでめいっぱい腹に溜まり、その溜まり具合ももたれるような重たさがない。
「うまい」とか「まずい」なんてことを越えたところに、滋味ってものもあるのかもしれない。

何度かつくってみたところ、キャベツ半玉なら1.5リットル。ひと玉なら3リットルの水がいい塩梅だ。
なので、ひと玉買ったキャベツが手に余るようだったら、スープにしちゃうのは一手なのかもしれない。
胡椒やハラペーニョの酢漬け、カレー粉、チーズ、自家製タバスコなんかをトッピングすれば変化が出るし、ソーセージや鶏肉などタンパク質を加えれば腹持ちもいい。

週の半分はサンドイッチなため、この野菜スープがあれば健康的にも経済的にも良さげだ。これからも積極的に見切り品コーナーをパトロールしていきたい。