
八百屋が空へ旅だって、数日がたつ。幸いにも通夜に間に合い、最後のお別れをすることもかなった。
だが、冷蔵庫の野菜室はすっからかんだ。渋々スーパーへ足を運んだものの、野菜を見るとどうにも思い出してしまうし、どの野菜も魅力的に感じられず、あまつさえ、八百屋よりも割高だ。
自分の好みを熟知している八百屋がいるというのは、ありがたいことだった。「●●が好きだ」と伝えておけば、春は筍からはじまり、山菜、キクラゲ、新生姜、レモン、紅芯大根、なめこなど、あまり売れないけれど好みの野菜を、季節ごとに、確実に手元に届けてくれた。
たとえばパプリカもそのひとつだ。今年は豊作だったようで、瞬間風速10個のパプリカが冷蔵庫を占拠していた。パプリカを大量の消費する方法のひとつはマッサ。もうひとつは、オーブン焼きだろう。
今回は生の肉を直接パプリカに詰めるのではなく、一度煮たフィリングをパプリカに詰めることにした。バルカン地域、特にマケドニア、セルビア、ブルガリアなどよく見られる調理法の一つだ。
バックパッカーをしていた頃、マケドニアの民家に泊まったことがある。部屋の木製の窓を開け放つと、陽をさんさんと浴びた真っ赤なパプリカが干し柿よろしく大量に吊り下げられていた。あの絶景は今でも忘れない。
この料理が一般的な肉詰めと違うのは、パプリカを半分に割ったときに、肉のソースがとろりと流れ出るところだ。フォンダンショコラのようにやわらかくジューシーな仕上がりになる。
八百屋には、なるべくつくった料理の写真を見せるようにしていた。「どうやって料理するの?」と尋ねてくる客もいるから、何かしらのヒントになればいいと思っていたのだ。
残念ながらこの写真を見せることは出来なかったし、こんなにパプリカが手に入ることも、今後なかなかないかもしれない。
丸ごとパプリカのオーブン焼き
材料
パプリカ | 4〜5個 | |
豚ひき肉(合い挽きでもOK) | 300g | |
玉ねぎ | 1/2個 | みじん切り |
ニンニク | 2片 | みじん切り |
白ワイン | 120cc | |
トマト缶 | 400ml | トマト2個+トマトペースト大さじ1でもOK |
スパイス | パプリカパウダー、クミン、タイムを各小さじ1 | |
冷や飯 | 100g(茶碗に軽く一杯) | |
卵 | 1個 | 軽くほぐしておく |
塩 | 小さじ2/1~ | |
胡椒 | 少々 | |
オリーブオイル | 適量 |
つくりかた


- パプリカの頭を水平に切って(蓋にする)、種や筋を取り除く。
- オリーブオイルを大さじ2を加え、玉ねぎとにんにくを軽く色づくまで炒める。
- 挽き肉を加え、パチパチとはぜるくらいまでしっかり炒める。
- 白ワインを加えてアルコールを飛ばす。
- トマト缶とスパイスを加え、蓋をせずにしばらく煮込む。
- 水分が飛び、全体がとろりとまとまってきたら、冷や飯を加えてよく混ぜ、塩・胡椒で味を調える。パプリカに下味がついていないので、やや濃いめが美味しい。
- 火からおろし、生卵を加えてよく混ぜる。
- 具をパプリカに詰め、切り落としたヘタで蓋をする。
- 耐熱鍋にパプリカを立てて並べる。もしパプリカが倒れる場合は、底に丸めたアルミホイルを詰めて支えるとよい。パプリカにオリーブオイルを30ccほどまわしかける。
- 180度に予熱したオーブンで40分焼く。パプリカがこんがり焼き色がつけば出来上がり。
おまけのコツ
- 詰め物にとろけるチーズを加えると、さらに美味しくなる。
- パプリカを割ったときに中からジューシーなソースがあふれるのが特徴だが、もし固めの仕上がりが好みなら、パン粉やレンズ豆を加えてつなぎを強化するとよい。
- ヨーグルトやサワークリームを添えるのもおすすめ。
後日、残しておいたフィリングでもう一品リメイク。
耐熱鍋にフィリングを敷き詰め、軽くほぐした茹で卵、チーズをたっぷりのせて、230度のオーブンでこんがり焼ければ出来上がり。