由比ヶ浜に、ドイツの素晴らしき古城あり。
「孤独のグルメ」Season8で登場するドイツ家庭料理「シーキャッスル」は、気に入りのエピソードだ。本場仕込みの料理もさることながら、何より印象的だったのは、かたせ梨乃演じる女店主のどこか哀愁を漂うたたずまい。「極道の妻たち」を彷彿とさせる静かで毅然とした客のいなしかた。そして静寂を切り裂いて唐突に鳴り響くワゴンの異音。不思議の国のドイツに迷い込んだような感覚にとらわれ、没入する。
原作者の久住氏が店を訪問するのが当番組のお約束だが、店主がドイツ人だったことは、このエピソード最大のサプライズであった。かたせ女史の女優魂、恐るべし。ワゴンから機関銃が飛び出してくるかちょっと期待してた自分が恥ずかしい。
カーラ・ライフ女史が長年切り盛りしてきた店は、残念ながら2022年11月に閉店したそうだ。その時点で彼女は90歳を越えていたという。
90年前のドイツといえば、ナチスが静かに、けれど確かに足音を響かせていた時代。東西が分裂する前のドイツではあったが、世界恐慌の余波がヨーロッパ中を揺らしていた頃だ。政治も経済も混沌とし、毎日の食卓にも、その影は落ちていただろう。
そんな時代に、彼女はどんな料理を食べていたんだろう。
いやそもそもだ。
なぜ彼女はこの国へ、遥か海を越えてやって来たのか。
なぜ湘南・由比ヶ浜という地で店を構えることになったのか。
なにかのっぴきならない事情があったに違いないが、彼女の足跡には長編一本分くらいの壮大な物語が眠っていそうだ。


改めて映像をくまなく観察する。店の看板には、二頭の黒い熊。そして店内の壁に、Tシャツにも潜む熊、熊、熊。井之頭五郎が熊に囲まれている。
「ドイツ」「黒い」「熊」で検索をかけてみると、ビンゴ。
熊はベルリンの紋章だったのだ。あの「ベルリンの壁」のベルリンだ!となれば「シーキャッスル」で提供されていたのは、ベルリンの家庭料理と考えるのが自然だ。そういえば久住氏が食べていた「カリーヴルスト」もベルリン名物だ!ついでにベルリン映画祭は金熊賞だ!
では今日のお題。スペアリブについておさらいしよう。

意外にもトマトソース?よーし。
おぉ、これは、間違いない。
ケチャップっぽいのもすごくいい。
大胆に。
うん、うん、ガツンときたぞ。肉の衝撃。ジャーマンスープレックスだ。
骨なしのスペアリブ、はじめて
脂抜きってのも、はじめて
これ最高じゃん
・・・・・・(省略)
五郎式ジャーマンスープレクスサンド。
うぉ、これは殺人技だ。うん、リブ、マッシュ、ザワー
うまいドイツの三重奏
サンドイッチ伯爵もこれは思いつかんだろう
・・・・・・(省略)
ドイツパンのサンドも良かったが、このリブはライスで追っかけたい
絶対米に合う。絶対に
スペアリブが、こんなはいっていくはいっていくって
ポイントは、
ケチャップっぽいトマトソース。
骨なしスペアリブ。
脂抜き。
ではとりかかろう。
妄想ベルリン風スペアリブ

材料
| スペアリブ(骨付き) | 800g | |
| 玉ねぎ | 1個 | みじん切り |
| にんにく | 2片 | みじん切り |
| ローリエ | 1枚 | |
| 乾燥タイム | 小さじ1 | |
| ケチャップ | 50cc(大さじ3強) | |
| トマトペースト | 18g(大さじ1) | カゴメトマトペースト |
| 白ワイン | 100ml(または水) | |
| 砂糖 | 小さじ1/2 | 酸味調整用 |
| 塩・こしょう | 適量 | |
| オリーブオイル | 大さじ1 | |
| カレー粉 | 小さじ1/2 |
つくりかた
下処理


鍋にスペアリブを入れ、水を加えて沸騰させ、10分茹でる。
茹でたら取り出して、余分な脂やアク、血を流水で洗う。
脂抜きをする


鍋を一度洗い、そこにスペアリブと水を加え、沸いたらポコポコ沸くくらいの中火に落として30分茹でる。灰汁がでる都度、取り除く。
ちなみに、スペアリブの脂こってりが好みなら、この作業は必要ないかもしれない。自分は胃弱王なので念のため。
炒める
別鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎとにんにくを軽く色づくまで炒める。
スペアリブに焼き色をつける

湯がいたスペアリブを、フライパンで焼く。
煮込む



香味野菜を炒めた鍋にスペアリブを加え、白ワインを加えて半量になるまで煮詰める。
ケチャップ、トマトペースト、ローリエ、タイム、水をひたひたに加え、蓋をして一時間半。肉が軟らかくなるまで煮込む。残り30分くらいで塩で味を調える。ここで肉の味を強くするか、ソースに味を濃くつけるかは好み。
少し本家のソースよりオレンジ色になってしまったので、塩の代わりに鮮烈な赤のマッサ(パプリカのペースト)を忍ばせた。
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煮込んでいるあいだに、マッシュポテトと簡易ザワークラウトの準備をする。
骨を外す

肉が柔らかくなったら鍋から取り出し、骨を抜く。ソースにカレー粉、胡椒で風味を調え、スペアリブをもどして軽く煮込む。
肉を煮込んでいるあいだに、付け合わせをつくっておこう。
簡易ザワークラウト
本来ザワークラウトは発酵させてつくる酢キャベツだが、すでに時遅しなので家庭料理っぽく手軽にいきたい。
まずキャベツを千切りにする。豚カツにそえるようなふわふわよりも、若干太めのほうが食べやすいと思う。
それを塩で揉み込みしんなりさせる。
ぎゅっと水分を絞ったら、キュウリの発酵ピクルスの液大さじ4(これは以前つくったものだが、すでにスパイスも発酵も馴染んでいるので話が早い)、白ワインビネガー大さじ1を加え、お好みで塩と砂糖を加え、酸味と塩味のバランスを調え、冷蔵庫で保管。
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ざらざらマッシュポテト
本来なら丸ごと湯がいたジャガイモを網で漉して滑らかにしたいところだが、今日はパス。簡単にいこう。やや口当たりにざらざら感は残るが、たまにはいい。
皮をむいたジャガイモを1cm幅くらいに切り、しばらく水にさらし、ジャガイモのでんぷん質をなるべく流す。
鍋に水、塩、ジャガイモを加え、芋が柔らかくなるまで静かに茹でる。
ジャガイモが柔らかくなったら湯をすて、同じ鍋で水分を飛ばすように煎る。粉ふき芋のような感じになったらOK。
熱いうちにマッシャーでジャガイモを潰す。なければフォークでいい。なるべくジャガイモを錬らないように、潰す。
食べる直前にバター、牛乳を加えて芋をゆるませ、かき混ぜながら火にかけて、ぽってりしたら出来上がり。塩味は好みだが、ソースのことを考えると薄味推奨。
ザワークラウトとマッシュポテトを皿に盛り、骨なしスペアリブとソースをかけて完成だ。
さて、比べてみようか。


うーん、ちょっとビジュアルは違うかなぁ。おや、ちょっと待てよ。

シーキャッスルのスペアリブ。断面にまったくソースがついてない、のでは!?
もしかして、あらかじめ焼くなり煮るなりして柔らかくした骨なしスペアリブに、ケチャップっぽいソースを直塗りしただけなのでは?という疑惑が浮上。ここまで読んでくださった皆さまには大変申しわけない。
まぁ出来上がってしまったものは仕方ない。妄想ベルリン風スペアリブとしておけばいい。温かいうちに食べよう。
もともとケチャップ味が大嫌いな家人が食べた感想を残しておこう。
「意外にやさしーいケチャップ味だね。砂糖いれた?」
「いや、今回はいれてない」
「いつものトマトベースの肉に比べると、けっこう甘い。でもカレー粉の風味おかげで受け入れられる」
カレー粉など呪い程度にしか混入していないというのに、どんな嗅覚してんだよ。
「それにしても柔らかいなぁ。骨がないのもいい。マッシュはもっとバターたっぷりで大歓迎」
せっかくだから、井之頭五郎さんが切望していたライスを付けるかい?
「いやぁ、芋で腹一杯でしょ。あの人の胃袋やばいよ」
たしかに。スペアリブ一本でこちとら腹いっぱいである。とはいえ、脂抜きの効果だろう。あっさり最後まで美味しく食べられるスペアリブだった。
「たまには妄想ってのもいいね」って〆の言葉をいただき、スペアリブをライスで追っかけるは未遂となった。