
「このカレーなら毎日でもイケる」と家人言う。
これは大変「珍」なことである。雪ふる砂漠で虹がかかるほど、異例中の異例だ。
そもそも、家人はカレーが好きだ。日式、スパイスカレー、インド式、ネパール式、タイ式、カンボジア式——どれも比較的「好き」の部類に入る。そして「毎日でも」と言わしめたのは、インドネシア式のカリ・アヤム(Kari Ayam/Kare Ayam)だ。Kari(Kare)がカレー、Ayamが鶏肉。つまりは、チキンカレーだ。
カリ・アヤムとは
カリ・アヤムとはいささか怪奇の料理である。画像検索すると、実にさまざまな色のカリ・アヤムが現れる。調べるほどに奥が深いのも当然だ。インドネシアは、大小合わせておよそ17000の島と、数百の民族が集まる多島国家。イスラム教が多数派でありながら、歴史的・地理的な背景から、キリスト教やヒンドゥー教からアニミズムまでもいり混じる多文化国家である。
ひと口に「チキンカレー」と言っても、隣の島どころか隣町ですらスタイルが変わる。たとえば——
- マレーシア風●
- スマトラ風(パダン Padang)●
- ジャワ中〜東部風●
- ジャワ西風(スンダ)●
ほかにもまだまだあるんだろうが、追い切れない。ちょっと地図にしてみよう。

自由研究のノリで味の傾向もまとめてみた。
| 地域 | マレーシア風● | スマトラ風(パダンPadang)● | ジャワ中〜東部風● | ジャワ西風(スンダSunda)● |
| 味 | スパイシーで濃厚、リッチ | 濃厚で香ばしく辛い | 甘辛くマイルド、香り重視 | あっさり爽やか、ハーブ系 |
| 辛さ | ★★★☆☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ |
| 甘み | ほんのり(ココナッツ由来) | 少ない | やや甘め(ケチャップマニス) | 自然な甘み |
| ココナッツミルクの量 | 多め・濃厚 | 多め・濃厚 | 中程度 | 少なめ |
| 食感 | クリーミー・とろみあり | 重厚・オイリー | スープ状で軽い | さらっとスープ状 |
| 香り | カレーリーフ+スパイス香 | レモングラス+ガランガル+シナモン | レモングラス+ショウガ+甘香 | レモングラス+ハーブ香 |
| スパイス | カレー粉、アニス、シナモン、クローブ | レモングラス、ガランガル、ターメリック、チリ | ターメリック、コリアンダー、ケチャップマニス | ターメリック、ショウガ、パンダン、ハーブ類 |
| 油分 | 多め(ギー使用) | 多め(炒め油が分離) | 少なめ | ごく少なめ |
| 味の重さ | ★★★★☆(リッチ) | ★★★★★(最も重厚) | ★★☆☆☆(軽め) | ★☆☆☆☆(最も軽い) |
| 地域文化 | インド系マレー文化の影響 | ミナンカバウ(スマトラ西部) | ジャワの家庭料理文化 | スンダ(自然派・ハーブ重視) |
| イメージ | 南国インド風カレー | 濃厚なスパイス煮込み | 家庭カレー | ハーブ系スープカレー |
「毎日でも食べたい」と家人を言わしめたのは、西ジャワ風、マップでは緑色で示した地域のカレーである。スパイスよりもハーブを効かせた、優しい味わい。辛さの刺激ではなく、香りと後味の軽やかさで食欲を誘うタイプだ。
ところで、「ジャワカレー」といえば、1968年に発売されたハウスの『ジャワカレー』が有名だ。発売当時、ジャワ島でCMが撮影され、「強烈な太陽と青い海を連想させる」「爽快な辛さと刺激のある大人の味」といったキャッチコピーが使われていた。しかし、どうにも核心を突かない、ふわっとしたコンセプトに思える。
家人もこのジャワカレーで育ったというので、試しに買ってみたことがある。たしかに自分が常食していたS&Bとはまったく違い、家庭内に“文化の壁”を感じたものだ。
だがその夜、事件が起きた——二人とも、放屁が止まらないのだ。
症状は一晩じゅう治まらず、寝室にはジャワ島の爽やかな風どころか、玉ねぎが腐ったような臭気がとどまった。お互い様ゆえ罵ることもできず、背を向けたままひたすら眠気を待つ、いたたまれない夜だった。ジャワカレーのCMに出演していた夫婦も、実はこんな夜を過ごしていたのだろうか? この臭いを共有してこそ、真の夫婦なのだろうか・・・・・・まぁいい。紹介する西ジャワ風カリ・アヤムならそんな心配は無用。夫婦円満の西ジャワカレーだ。
