
居酒屋で頼むモツ煮は味噌味であることが多い。たしかに味は染みているし、じっくり煮込んだのだろうと推察するが、野菜を殺すまで煮込んでしまった風のものが多い。茶色に染まったいちょう切りの大根を囓るたびに、残念だなと感じていた。塩っ辛いばかりで歯ごたえもない哀れな大根。肝心のモツよりも多く盛られた日には絶望しかない。
そんな経緯で、モツ煮は、出汁の効いた醤油系。具もモツと蒟蒻のみとした。
ちょうど九州産のゆでた豚モツが半額だったので秒でカゴにいれた。
豚料理といえば、やはり沖縄料理だろう。「鳴き声以外はすべて食べる」と言われるほど、豚の扱いを熟知している。
中味汁という郷土料理はその最たるものだ。中味とは、豚の内臓(大腸、小腸、胃袋)のことで、これをすまし仕立てにした汁物である。調理用語辞典では、中身の御汁(なかみのおしる)とある。
中身はおからでよく洗い、ショウガ、ミカンの皮などとともに下煮して、せん切りのシイタケを塩、醤油で調味した出汁の中に入れて煮る。仕上げにヒハツを振り入れる。祝い事に欠かせない料理である。
手元にある季刊誌「考える人」の2011年秋号を開くと、現役の料理人がこの中味汁について詳述していた。彼はおからではなく、小麦粉でもみ洗いをするという。どちらかというと中華の技法に近いような気がするが、琉球と大陸の各国との関係を考えると、さもありなん。
どちらにせよ、あの臭いモツを澄んだ和風の出汁で食べようっていうんだから、臭み抜きは親の敵ほど徹底的にだろう。
① 塩でもみ洗い
②小麦粉でもみ洗い
③水から茹でて数回ゆでこぼす
④香味野菜で茹でる
こんな手順で下ごしらえをしていく。
豚モツの臭みをとる
やわらか豚白もつ今回はすでに湯がいてある豚の白モツパック、250gを使用。
① 塩でもみ洗い
ボウルに豚モツ、塩を匙大盛り一杯入れて、よく揉み込む。
ぬるま湯でよく洗い流したら、モツを両手でぎゅっと絞り水気をとる。
②小麦粉でもみ洗い
小麦粉をひとつかみ加えてよく揉み込む。モツの水分と馴染んで、小麦粉はヨーグルトくらいのテクスチャーだ。
全体がどろりとしたら、水が透明になるまで、ぬるま湯でもみ洗う。これを2回行う。
2回目になれば、手にべったりついていたモツの脂がだいぶとれているから面白い。
③水から茹でて数回ゆでこぼす
鍋にモツとたっぷりの水を加えて火にかけ、沸騰したら捨てる。一度目はかなりアクがでるし、煮汁の臭いがもわぁ~っとするがここは我慢だ。
今回はこれを2回繰り返した。臭いがモツに戻らないよう、とにかく沸いたら捨てるだ。
④香味野菜で茹でる
モツと水に香味野菜も加えてゆでこぼす。
和食なら、ショウガ、ニンニク、ネギの青いところ、イタリアンならレモン、月桂樹、セロリの葉など、好きなものを組み合わせるといい。
今回はショウガ、ネギ、レモンを加えて、ゆでこぼしを2回繰り返した。モツの個性もあるゆえ、臭いが気にならなくなくなるまで繰り返してほしい。
あら熱がとれたら、食べやすい大きさに切る。
醤油味のあっさりモツ煮
板蒟蒻を縦三等分に切って、蛇腹に包丁を入れ、一口大に切りそろえて茹でる。
飾り包丁を入れておくと、短時間でも味が染みやすい。
出汁:薄口:みりん:酒を8:1:1:1の割合で沸かす。
21cmのやっとこ鍋使用。
出汁480cc、その他調味料を60ccずつ。
下ごしたえした豚モツ、蒟蒻、ショウガ薄切りをいれ、落としぶたをして煮る。
火加減は煮汁がぽこぽこ浮くくらい。モツと蒟蒻が常に出汁に浸るようにしておくこと。
自分なりのコツといえば、ここで大根や人参の皮などを一緒に放り込むことだ。モツが柔らかくなるし、大根の皮などは落としぶたにもなる。
煮汁が減ってきたら味見をし、よき塩梅で火を消し、そのまま味をふくませる。できればこのまま一晩ほっとけば、しっかり味が染みる。
だいたい1~1.5割ほど煮詰めていくので、煮汁の分量を覚えておくといい。どちらかというとモツの歯触りがしっかりめのモツ煮だ。あらかじめ出汁を多めにして長時間煮てとろとろにするのもよし、日ごとに煮て食感の変わりようを楽しむのもよし、途中で水を加えて味噌を足すのもよしだ。
どちらにせよ、薬研堀の七味とネギをたっぷりかけて食べると、酒泥棒と一品となる。
