熱海に移住して無事に1年がたった。
生活は一変した。なにより、マンション暮らしから平屋になったところが大きいのだろう。
窓にのぞむ相模湾の絶景、癒やしの温泉、階下を気にせず走り回る猫・・・・・・移住のメリットはたくさんあったが、もちろんいいことばかりではない。
最大のデメリット。それは害虫および害獣との闘いだ。春夏秋冬、あらゆる者たちに襲撃され、あらゆる生き物たちと対峙した。東京生まれ、東京育ちには刺激的かつ困惑する日々だった。
ネットで注文した物リストを振り返ると、ほとんどが害虫対策グッズばかりで、本など一冊も買う余裕がなかった。
虫初心者から始まった熱海での生活。まだ対応しきれない者たちもいるが、来年への戒めも含め、まずはこの一年で施した対策を紹介したい。
屋内の基本対策
まず前提として、我が家は保護猫が2匹いる。そのため室内での強い薬剤やハーブ類は極力避けている。
家のなかに迷い込んだ一般害虫、たとえば蚊や羽虫、ゴキブリ等においては、この2アイテムが活躍した。
蚊トリーヌ
ラケットの形をしたカトリーヌは、蚊だけでなく、3センチくらいの羽虫にいたるまで退治できる。柄のボタンを押すとラケット面に電流が走るしかけで、羽根さえラケットにあててしまえばやや焦げた臭いはするものの、安全に抹殺することができる。
これを購入したときは「またそんなもの買って」と、鼻で笑っていた家人だが、いまは蚊トリーヌの虜である。手ではたくよりよっぽど効率がいいし、触らなくてもいいし、ちょっとひるんでしまう青蜂くらいの大きさでも対処できる。
冷凍ジェット
ゴキブリにおいては後ほど詳述するが、室内でみつけた場合はマイナス85度の冷気を噴射してくれるこの冷凍ジェットに頼っている。キンチョールほど即効性がないが、十数秒あてれば凍ってくれる。
使うコツとしては、ゴキブリやムカデは後退ができないので、進行方向をふさぐようにして頭から噴射することだ。
害虫別の対策
ムカデ
ふと目を覚ましたある朝、ムカデが寝床を這っていたときのあの阿鼻叫喚は忘れがたい。速攻でポチったのは冷凍ジェット。殺虫成分がはいっていないので室内でも安心して使えるのがポイント高い。
全長8cmくらいのものをよく見かけるが、冷凍ジェットを噴射するとだいたい5cmくらいに縮む。ついさきほども一匹、外で捕殺したが、いまごろ解凍されているだろう。
コツは頭のほうから噴射することだ。ムカデは前にしか進まないから縁起がいいという理由で、戦国武将が兜のモチーフにしていたが、正直、趣味が悪いとしか言いようがない。
6月ごろは産卵期らしい。ムカデは子育てをするレアな昆虫で、母親は卵が土に触れないように抱きしめ、飲まず食わずで3カ月も世話をやく。「すばらしい母性ですね」と賞賛したいところだが、キモいものはキモいし、怖いものは怖い。
ムカデを見つけてから対処するのでは追いつかない。そこで屋外対策として、バルサンの「ムカデ こないもん」を家の周りにぐるりと設置、防護結界をはった。
これがかなり効いたようで、その後、家のなかでムカデを見かけることはなくなった。紫色のパッケージがダサいが、文句は言えない。
屋外ではキンチョールで対処。
ヤスデ
移住したての頃はわいて出るヤスデに苦慮していたわけだが、いまでは「ヤスデなんてかわいいもんよね。動き鈍いし」などどずいぶん格下扱いになっている。
刺激すると臭いを発するので、葉書などの厚紙にそっとのせて、ゴミ箱にポイする。
ゴキブリ
Gことゴキブリも様々な種類が生息している。そして熱海のGはなかなかデカい。ただ、動きが鈍い。見つけてから、ごそごそ新聞を探し回っているあいだも、その場でじっとしている。なので、叩きやすい。
「なんだかここのGはおっとりしてるよねぇ」と呆れていたら、「田舎もんだからね」と返ってきて、ちょっと困惑している。都会ではGまでも忙しいってか。
屋外にはブラックキャップ、屋内にはゴキちゃんグッバイ+を設置してからはほとんど見かけなくなったので、なんとか効いているのだろう。
唯一注意は、オオゴキブリだ。彼らは市場で取引されるほどの貴重なGで、豊かな森にしか生息しないのだそう。見た目がキモいだけで害はない。
アシナガバチ
4月某日晴れ。
納屋の入り口に蜂がいた。なにやら勤しんでいる。小さな巣がぽっこり。
柑橘の花に夢中なミツバチかと思いきや、なんだかちょっとデカい。まさか女王蜂か⁉︎ 調べると、ミツバチは女王を1人には絶対しないらしく、巣作りも皆でやるそう。
つまり、スズメバチ系統か!これはまずいぞ!
とりあえず蚊取り線香で燻してみたが、意味なし。
しばらく観察したところ、内なる野生が囁いた。今ならまだ、ヤレる!
防護メガネに長袖、フードをかぶりその上に帽子、マスク。左手に蚊トリーヌ、右手にキンチョールを携えいざ出陣。
噴射! 逃げた! 棒で巣を壊す! 城陥落!
ネットがなかったらもう死んでるかもしれない。
6/14。ご近所でもアシナガバチが巣を作り始めていた。まだ小さいうちに巣ごと撤去するのが常套手段。
ニホンミツバチ
6月、梅雨の晴れ間。
布団を干しに外へ出て腰を抜かす。一夜にしてミツバチの大群が引っ越してきたのだ。
もう柑橘の花は咲いていないので、蜜を集めるためというより、これが分蜂ってやつなんだろうか?
たしか去年、家をリフォームしている最中にもいたが、いつのまにかいなくなっていた。また同じ穴に帰ってくるとは。
TBSの屋上でミツバチを育てるプロジェクトを見学したことがあり、ミツバチは生態系には欠かせない存在と知ってから、見かけても生ぬるい目で見守ることにしていた。
ところが秋になるとミツバチを狙ってスズメバチ系統がやってくるようになった。これには参った。毎朝殉死したミツバチを掃除する羽目になる。
今年は巣が出来る前になにかしらの対策が必要だ。
スズメバチ
玄関の戸をあけた朝、スズメバチと鉢合わせした。出会い頭で足がもつれて見事にすっころんでしまった。
観察していたアシナガバチに比べて、腹がデカい。顔もデカい。ぱんぱんにふくれあがっている。刹那にスズメ!とわかるようになった。
おそらくミツバチの巣も原因だろう。時折、斥候が偵察にうろついているのは知っていた。
熱海で柑橘農家を営んでいる人が、スズメバチに襲われたときの対処法をTwitterにのせていた。
「騒がず、慌てず、ただ木のようにじっとしている」といいと言う。スズメバチだって、木を刺すほどバカじゃないという理論で、実際それで回避している。
いや、無理だろ。一匹でものけぞりたくなる。いや、のけぞってしまう。なんならマトリックスばりに反れる。
心を無になんてできない。僧侶ならできるんだろうか?もっといい対処法がないものか?
秋になると、スズメバチの大群がミツバチの巣を襲うようになっていた。多いときで20匹ほど。ミツバチも物量で応戦しているが、やはり力の差は歴然だ。我々も手がでない。だがスズメバチが1メートルほどに近寄ってきても微動だにしない胆力はついていた。
瀕死のオオスズメバチ♂が玄関でのたうちまわる朝。前足を一本、やられたらしい。
ミツバチからしたら一矢報いた形か。犠牲の数が半端ない。玄関を掃除する。
スズメバチが団子になってケンカしているように見えたのは、女王蜂の交尾飛行かもしれない。9~11月の風のない日にはじまるらしい。たしかに、その日は無風。
午後にまた一匹。雌なので働き蜂か。頭が食い破られている。さすがにミツバチの仕業じゃないだろう。内輪もめか。
雌には針があって、雄にはなし。顔の差では判別つかない。
日暮れに、玄関に晒しておいたスズメバチをスズメバチが回収。カチッ、カチッって始終響いてた音は、解体する音だった。血の気がひいた。固い頭と羽根を残して、ボディを丸めて、飛んでいった。
凶暴な顔しているが、彼らは肉食ではない。うちの完熟柿をむさぼっている姿も見た。実は幼虫が肉団子を食べるのだ。その日に限って、晩御飯を肉団子にしてしまい、ひどく後悔する。
暖冬のせいか、熱海では通常運転なのか、12月の中旬までスズメバチは往来していた。隣人に相談すると、もしかしたらミツバチの巣でスズメバチの女王が越冬している可能性ありとのこと。今年は気合いをいれて駆除せねばならない。
クモ
1匹だと思っていたアシダカグモは、実は2匹我が家に住んでいた。この家を内見した時、手のひらほどあるアシダカグモを見て、マジ住めるのか⁉︎と怖じ気づいたことを思い出す。リフォームの工事でおそらくどこかへ引っ越したと思われたが、子孫なんだろうか?
玄関の虫を食べてくれるだろうからと、飼うことにして、名前をつけてやろうと話していた。ホニャララシスターズがいいんじゃないか?と相談しながら、留守番を頼んで買い出しへ。
帰宅すると一匹、仰向けで息絶えていた。シスターズじゃなくて、ライバルだったんか? 箒で外にはいた。どうやら縄張り意識の強いクモだ。
アシダカグモは、見た目こそ仰々しいが、ゴキブリを食べてくれる益虫だ。つまり彼らが家の中を徘徊しているということは、家の中にゴキブリもいるということだ。
熟考した結果、彼らとは共存の道を選ぶ。あまりに大きく育った場合は、外へ逃がす。秋以降はほとんど姿を見せなくなった。
その他、小さいクモはたくさんいるが、基本は放置プレイだ。小さな虫をとってくれることを期待している。
ノミ
9月頭。まだまだ暑いが、猫たちはなでておくれよと寄ってくる。抱っこしてふっと顔をさわると、なにか蠢くものを発見。ノミだった。速攻で風呂へいれ、ノミ取り櫛で毛をとかす。黒猫においてはどこにノミがいるのかさっぱりわからない。
翌日には病院へ。医師いわく、平屋あるあるらしい。医師がおもむろに取り出したのは、手のひらサイズのドーム状をした、透明色の文鎮だった。目をこらすと、胡麻粒が入っている。標本だった。
「これがノミの卵で、こちらが第一形態、これが第二形態、成虫になると・・・・・・」とノミの一生を語り始めた。細目で静聴。
猫たちには薬を散布してもらい事なきを得たが、問題は、ノミの標的が我々ヒトに向かうことだ。
とにかく掃除するしかない。買い込んだのは、ノミとりホイホイと粘着クリーナーだ。
粘着クリーナーはいわゆる「ころころ」と言われるヤツだが、腰痛を鑑みて、柄の長いものを購入(すでに短いものもあるが)して正解だった。
板の間と布団、ソファ、畳は毎日、粘着テープで掃除。ひとつ注意なのは、付属の「ハイブリッド粘着 」は粘着力が強すぎて、フローリングや古い板の間を傷つけてしまう恐れがある。実際、古い板の間は木材が剥がれてしまった。逆に、畳などにはちょうどいい塩梅だった。フローリングには粘着力の弱い「激コロ スゴ技 斜めカット 」がオススメだ。
ノミとりホイホイは点滅する光でノミをおびき寄せ、粘着テープの罠にかける仕掛け。こちらも殺虫成分がないのが嬉しい。多少はとれるが、効果絶大というほどでもない。主に和室を重点に設置。
ピョンピョン跳びはねるノミとりは気が狂いそうになるほど辛い作業であったが、一ヶ月ほどしてなんとか駆除できた。
カメムシおよび夏の小さな虫たち
真夏の夜は数多の羽虫、謎の甲虫、カメムシ等が無礼講の乱痴気騒ぎをしている。
全国的にカメムシが大発生した2023年だったらしいが、夏以降、昼夜とわず窓に張り付いていた。洗濯物や網戸にも産卵している始末で、カメムシがでたら外に洗濯は干さないほうがよさそうだ。
猫がよりつかない網戸にはハーブの虫除けを内側から噴射。
窓はスクラビングバブルで外側だけ拭き取った。散布直後は急激に虫が減る。かなり強い薬剤なのだろう。香りも海外の柔軟剤ほど強烈なので、ペットがいる室内で使うのは憚られる。
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そして、根本対策として網戸を張り替えた。より目が細かいメッシュで防虫効果を高め、景色を邪魔しないという触れ込みの網戸だ。設計士に「素人が網戸をはるのは難しい」と言われていたが、初心者用のキットを利用したところ、なんとかなった。
害獣の対策
熱海はいまだ自然がたくさん残っている。それゆえたくさんの動物が生息していることだけは確認できたが、まだなんの対策もできていない。ある飲み屋のおかみさんいわく、数年前は大通りにもサルがでていたらしい。
ひとまず我が家に現れる動物を、24年に対策するつもり。
ハクビシン・アナグマ
春以降、庭にちょくちょく現れるようになった動物たち。
アナグマはかなりのんびりした動きだが、ごつい爪は鋭く、触る者みな傷つけそうだ。我が家に住み着くというよりも、通り道になっているようだ。
ハクビシンは確実に、我が家の床下に侵入している。引っ越した当初から家屋の土台をカバーする板が壊れており、ひとまず仮板を立てかけてごまかしていたのだが、最近はその板をわざわざどかして侵入する知恵がついたらしい。時折、部屋をのぞき込む大胆さもみせるようになった。我が家の黒猫に白い化粧を施したような顔をしており、愛嬌はあるものの、楽しみにしていた柿はすべて食べられてしまった。
アナグマもハクビシンも、直接的な被害は柿くらいだが、怖いのは糞やマダニといった類だ。ただ野生動物は鳥獣保護法により認可がないと捕獲できない。熱海市も特に対策をうっていないようで、業者に頼むしかないようだが、いかがしたものか。
ハクビシンの弱点は唐辛子に含まれるカプサイシンなので、臭い袋をつくってばらまくのもいいかもしれない。こんな商品もあるので要検討だ。
ネズミ
屋根裏でドングリが転がったような、乾いた音がするようになったのは冬間近。「トトロでも住んでるんじゃない?」と談笑していたのも束の間。ついに「ちゅぅ」という音が漏れてきた。
「猫がいる家にネズミはでないわよ」と義母は信じていたし、元野良であったうちの猫たちにも期待を寄せていたが、アテが外れた。
義父に相談したところ、金網でできたネズミとり器を手渡してくれた。餌でおびき出すクラシカルなタイプだ。罠にかかったらどうすればよいのかと尋ねると、「このカゴごと水に沈めるんだよ」という生々しい返答に一同絶句。いまのところ使う勇気はない。
数日後、玄関にひょっこりキジトラmixが現れた。しっかりネズミを咥えており、そのマズルは頼もしい。外の猫たちはしっかり働いてくれるているようだ。ネズミといっても、恵比寿の路地にいるようなデカいドブネズミではなく、絵本にでも登場しそうなファンシーサイズだった。
超音波でネズミを追い出せる商品もあるようなので、検討してみたい。
台湾リス
近くの森に生息しているようで、電線や我が家の軒先をつたってはしゃいでいる。かわいい顔をしているが、鳴き声は泥酔のオッサンがゲロを吐いているような音で耳障りだ。
いまのところ直接的な被害はないので様子見。
訪問者が絶えない毎日だ。
熱海はまだまだ自然が豊かなんだろう。クレヨン王国はたしかにここにある。いい距離感で、虫や動物たちとつきあっていければいいと思っている。