
インド洋に浮かぶビーチアイランド、モーリシャス。日本からは飛行機で平均約31時間30分、腰痛持ちの身としては、なかなかハードモードな旅程である。
ところがだ。熱海から15分、車を飛ばしたところにモーリシャスがある。湯河原のKitchenオリマンだ。
元和食の店を居抜きで買い取ったんであろう。黒を基調にした店内には、所々に原色のアフリカンな雑貨やスパイスが飾ってあり、それが和風と妙にマッチしている、まったり空間だ。
店内に貼ってある地図は、フランス語表記。今はイギリス領だから、なんとも歴史の坩堝を感じる。
名物はチキンビリヤニだ。モーリシャスにビリヤニがあるのかと尋ねると、「ある」という。その昔、交易のハブだったモーリシャスでスパイスがとれないはずもないし、さまざまな人種が入り混ざっていたんだろうなと想像する。

ビリヤニには、ひよこ豆の揚げ物(Gato Pima)、ピクルスや生野菜がたっぷりのっていて、見応え、食べ応えともに元気になる味だ。一般的なインド系のビリヤニよりも優しいスパイス使いが、モーリシャス風なのだろう。
ビリヤニ以外にも、ルガイ(Rougaille)というトマトベースの煮込み、肉や豆のカレー、カリ(Cali)などがメニューに並び、どれも相掛けセットで頼むことができる。単体で食べても旨いが、皿に散らばる四方八方のおかずをちょっとずつ混ぜながら、口の中で七変化させるのが楽しい。


ひとしきりスプーンすすめ、水を飲みほし、一息ついて顔をあげる。
「もっと刺激がほしい方へ。マザバル100円※激辛注意」という黒板の白い文字が目に入る。
ほどなく運ばれてきたのは、れんげに載せられた深紅のペーストだ。
「辛いので気をつけて召し上がってくださいね」と優しく警告を受けたにもかかわらず、使命という名の下にフォークの先でぺろりとやってしまうのは悪いクセだ。
「あれ、思ったよりも辛く・・・・・・」といった刹那、どすーんとカプサイシンが牙をむいた。
昔、チュニジアではまって大量に機内に持ち込んだハリッサを彷彿とさせるが、どことなく違う。
「かれぇな」眼前のおじさん、もとい家人は額からは汗が粒としたたる。
これまで凪いだ青い海のように平らかなモーリシャス料理だったはずが、マザバルの導入で俄然、闘いの火ぶたが切られた、といった状況か。辛いのにスプーンが止まらない。というか加速している。
「さすがにご飯大盛りはやりすぎだろう」というのが初見だったが、マザバルによってブーストされた我々は、マラソンを完走したかのごとく爽快に、大盛りカレーたいらげたのだ。
マザバルは、少し余ってしまった。この調味料の正体をぜひに知りたいものだ。店員にテイクアウトできるか頼んでみると、小さなカップに包んでくれた。
oleemun.com
モーリシャスの激辛調味料マザバル(Mazabaroo)とは?

「マザバル」で検索しても、めぼしい情報はでてこないので、マザバルのスペルを探すところから調査がはじまったわけだが、ほどなくマザバル=Mazabaroo と綴ることが判明した。マザバル~と伸ばして発音するんだろうか?もしくはフランス風に口をすぼめてマザバルゥ~か?まぁいい。
世界の郷土料理に詳しい tasteatlas をざっと要約してみる。
マザバルはモーリシャスのチリペーストのこと。唐辛子(赤でも緑でも、混ぜてもOK)、ニンニク、ライムかレモン果汁、塩、植物油からできている。
オプションで、生姜、シナモン、酢、クミン、ターメリックなどを混ぜてもよい。材料をブレンダーでなめらかにしたのち、油でさっと炒める。この辛い調味料は、パスタ、焼き魚、ライス、Shisa Nyama(焼いた肉、BBQ)に使える。
taste atlas---Mazagaroo より
内容物はチュニジアのハリッサと変わりはないが、ライム・レモンの果汁が入っているのがモーリシャスオリジナルなのかもしれない。
ライムやレモンといえば、熱海だって負けてはいない。ちょうど熱海ライムも手にはいったばかりなので、肉でも焼いてみよう。
マザバル(mazabaroo)風味のチキンソテー

つくりかた


つくりかたは至って簡単である。
- 鶏肉に塩~ニンニクまでをすべて加え、ヘラでよく和える。危険なので手で和えないように。ラップをして常温で(冬場)1時間ほど放置。
- 中火に熱した鉄板で、じっくり焼く。火が強すぎると焦げやすい。(串に刺して焼いてもいいかも)
- パクチーを飾る。
以上だ。
「マザバル~チキン」かなりいい。マザバルが効いてる。肉も軟らかいし、香りは清々しく、ピリ辛が食欲を刺激する。
セネガルに「ヤッサ」というライムとチキンを合わせた料理があるが、柑橘と肉の合わせは相性がいいし、一気にアフリカンな風が吹くのかもしれない。
湯河原のオリマンでは「マザバルを添えるべし」が家訓となった。
