「生姜焼き用」と称して売られている豚肉は、生姜焼きにするには厚すぎるというのが家人の見立てだ。なぜスーパーがこの3mmくらいの厚さを生姜焼き用に推しているかは不明だが、「生姜焼きは吹けば飛ぶようなボロボロのこま肉が最強」だと譲らない。
生姜焼きには厚すぎ、とんかつには薄すぎる、この帯に短し襷に長しの豚肉をどう食べるか。
ひとつの解決策は、以前紹介したピザ風のポークソテーだが、実は密かに、自分はとんかつにして喰うのにはまっている。
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世間的には、とんかつは分厚ければ分厚いほど誉れな風潮があるが、駄菓子のビッグカツを彷彿とさせるこの薄いとんかつはなかなかいいぞ。薄いので揚げる時間は短いし、二度揚げなんて気遣い無用、しっかり火が通る。
そしてなにより、薄いとんかつには夢がある。


ペラペラのとんかつは、骨董屋で求めた五寸皿に盛るのが好みだ。カウンター席しかない居酒屋で、女将が「揚げたてひとつどうぞ」と差し出してくれるようなたたずまい。これは一杯目のビールをアクセル全開で楽しむための佳肴なのだ。軽い衣をサクサク囓り、ビールで流し込む。これ最上である。〆は白米にのっけて、ミニソースかつ丼でバシッと腹を決める。
残った、というか残したとんかつは、アルミホイルにくるんで後日に備える。


翌日はカツカレーにしてはどうだろう。別にレトルトのカレーだってかまやしない。むしろ具がごろごろはいっていないチープなカレーこそ、カツカレー向きと思うがいかに。
カツサンドも捨てがたい。パンには辛子マヨネーズをたっぷり塗りたくり、ソースでびちゃびちゃにしたカツを挟む。薄いのでパンへの収まりよく食べやすいのもポイントが高い。

仕上げはカツ丼といこう。
醤油とみりんで味つけた出汁にタマネギ、とんかつをのせて火にかける。すべてが温まれば卵でとじて出来上がり。
日々の食事にささやかな幸せを運んでくれる食べ物、それがペラペラのとんかつなのだ。『にっぽん洋食物語』によれば、昭和初期の大衆食堂や学食では、「紙カツ」という愛称で親しまれてた懐かしいメニューだという。当時の若者の旺盛な食欲にまかなってきた紙カツ。彼らにとっちゃ、もはや「神カツ」だったんじゃないだろうか。