やむにやまれず、今年から紅ショウガは自分で漬けることになった。というのも、いまは実家から離れた土地に住んでいるからだ。毎年5月の終わりごろになると母の漬けた紅ショウガをもらい受けるのが恒例となっていたが、以前ほど気軽にいける距離でも状況でもない。しかも難病を患った母は頭も真っ白になり、いつまでも頼っていられないという現実的な側面もある。
母はいつも丸のまま紅ショウガを漬ける。どうせ食べるときは刻むのに、なぜなのか? と理由をたずねてみると、「だって天ぷらにするときにこっちのほうが便利でしょ?」
なるほどなぁと納得してしまったんだが、母は滅多に紅天を揚げない。
丸のままの紅生姜の不便な点は、毎度「切る」という作業がつきまとうことだ。しかも一度切ったら瓶からは取り出して、なるべく早く食べなくてはカビが生えてしまう。
そこで今回は、あらかじめショウガをスライスして、梅酢につけることにした。
新ショウガは節ごとに大まかに切り、土をこすって洗い流す。薄切りにしたら熱湯にさっとさらし、重量の3%の塩で重石をして下漬け。水分が出てきたところでぎゅっと絞って一日干す。
熱湯殺菌した瓶にショウガを詰めて、市販の梅酢をたっぷり注いで冷蔵庫で3日ほど放置すればできあがり。ときどき瓶をひっくり返したりしてショウガの隙間にもしっかりと梅酢がいきわたるようにするのが肝だ。
漬けあがりを見はからい、味見をしてみると、ややしょっぱいがしっかり紅ショウガになっている。爽やかな風味に味見が止まらない。ということで、その日の朝うどんの具は紅生姜をメインに据えることにした。
出汁300ccに、塩を小さじ1/3、みりんと薄口を少々加え小鍋に煮立て、カトキチの冷凍うどんを入れる。隙間に玉子も落としておこう。
うどんを煮ているうちに、紅生姜と小ネギを刻む。ここぞというときのために冷凍しておいた天かすの出番がやってきた。
器によそえば立派な紅天うどんの出来上がりだ。紅天うどんといっても、紅ショウガと天かすのうどんであるが、とろけた天かすを紅ショウガにまとわせて食せば、紅ショウガの天ぷらと遜色ない。
すっかりこの省エネ紅天うどんにはまってしまい、紅ショウガがどんどん瓶からなくなっていくので、新ショウガがまだでまわっているうちにもう一度漬けておかないと一年もたなさそうである。