友人から忘年会の報せ届く。「明日から本気出そう」ともがいているうちに、もう11月か。カレンダーをめくる手が震える。お節も射程圏内にはいってきた。今年のお節は、叔母直伝のなますを忍ばせる予定だ。
コロナ前は、親戚一同が集まる持ち寄り新年会が恒例だったが、叔母の料理は毎年、手の込んだすばらしいものだった。なかでも一線を画していたのは紅白なますだ。
紅白なますは、お節初心者が十中八九手を出すお節のアイコンだと思う。千切りした大根とニンジンを甘酢に漬けるだけだ。参入障壁が低いがために、なますが被りまくる年もあったが、叔母のなますだけは完売御礼だ。
いままで食べてきたどのなますよりも、酸味が穏やかでまろやか。とにかく食べやすいのだ。ふわっと胡麻が香る。その奥から何やら謎の香ばしさが漂ってくる。思わず「これは誰のなます?」と声をはってしまった。
「それね、珍しいでしょ」
当ててご覧なさいと叔母はほくそ笑んだ。酒浸しの脳みそからは、なにも出てこない。
「油揚げはいってるのよ。おとうさんの郷里の味みたい」
お節におけるなますは、口の中を引き締める、箸休めの役割を担っていると思っていたが、おばちゃんのなますはすり鉢をかかえて食べたい、おかずのような立ち位置だ。油揚げの油分でここまで味が変わるとは驚きだった。
酢の物が苦手な家人にも叔母直伝なますは好評なので、正月料理だけにしておくにはもったいない。常備菜のレパートリーに加えることにしよう。