
お盆の真っ只中。新卒でお世話になった上司たちと会うことになった。久しぶりの上京だから、冷やかしに高級スーパーでも覗いてみるかと、前のりしたのが功を奏した。発見したのだ。あの豆腐干絲を。しかも国産じゃないか。
まさかこんなところで再会するとは。非加熱のワサビを土産に忍ばせてきたので、保冷バッグも持ち合わせているという自分の有能さを褒めたい。
豆腐干絲に初めて出会ったのは、御徒町でふらりと入った小さな中華居酒屋でのことだ。10年ほど前のことだが、記憶が甦ってきた。あの日は見事な五月晴れで、伊藤若冲の展覧会へ意気揚々とでかけたのだ。現場に到着して震撼する。永遠とも思しき長蛇の人、人、人。たしかに人気だとはきいていたが、これほどまでかと。なす術はなかった。上野のパンダ、上野のモナリザ、上野の若冲なのだ。ようやく入館できたのは閉館ぎりぎり。全集中で鑑賞し、あっさり外へ追い出された我々は、精も根も尽き果てていた。一刻も早く、腹になにかいれなければと、目にとまった期待値ゼロの店に飛び込んだのだ。
ジョッキのビールを半分流し込み、作戦会議にはいる。ここは刀削麺の店だから、〆は決まりだ。前菜のメニューに目を走らせる。「干し豆腐の和え物」で引っかかった。干し豆腐・・・・・・高野豆腐みたいなものだろうか? 得体の知れないものを拒む性質の家人を押し切って、ささと注文する。
運ばれてきたのは、平皿にこんもりと盛られた白い麺である。面食らった。「これが干し豆腐ですか?」と店員に確認すると、そうだと言う。半信半疑で口にいれる。大豆の香りはさほどしない。ばさばさと乾いた、歯切れよい麺だ。これは豆腐なのか。麺の姿をした豆腐に脳がバグっている。だがしかし、噛みしめるごとにその味わいの虜になっていった。麺を食べているのか、豆腐を食べているのか。そんなことはもうどうでもいい。ただ旨いものを見つけてしまったという歓喜に包まれた。
興奮さめやらぬまま、知り合いの料理人に豆干絲について話すと、「そんな面白い食材があるのか。和食でも使えそうだな」と大いに盛り上がったものだ。
中華食材店で探してはみたものの、なかなか巡りあえずにいた豆腐干絲だが、最近になってようやくその姿をみかけたのが業務スーパーだった。ここでは板状のものと麺状のもの、二種類がある。だが問題は、1kgという大容量パックの冷凍食品なのだ。そんなに喰えないだろう。にわかに豆腐干のブームが再来している好機だったのだ。


我が猫のように大事に持ち帰った豆腐干は、「おとうふ工房いしかわ」が出している「豆干絲(トウカンスー)」という商品だ。
軽井沢の友人から山ほど届いたゴーヤを使って、さっそく一品つくってみよう。
豆干絲
中華食材としてポピュラーな豆干絲(別名:押し豆腐・干豆腐・豆腐麺)を国産大豆100%で作りました。お豆腐を極限まで薄く伸ばし、水分をきって作った豆腐シートを細切りにして麺状に加工。台湾などで前菜としても人気で、和え物やサラダの具、炒め物にも。アレンジも様々で、油で揚げればバリそば風に。低糖質・高たんぱくなので、主食として蕎麦やパスタの代用品にしてダイエット食、糖質制限食にもおすすめです。(おとうふ工房いしかわのHPより)
豆干絲の中華風和えもの

材料
| 豆干絲 | 200g | おとうふ工房いしかわ |
| ゴーヤ | 1/2本 | 薄切り |
| 生キクラゲ | 3枚 | 湯がいてから千切り |
| 塩 | 小さじ1/2 | |
| 胡麻油 | 小さじ1 |
つくりかた

- ゴーヤを2%の塩水に浸しておき、しんなりさせる。
- キクラゲはさっと湯がいて、千切りする。
- 湯700mlに付属の調理水(食塩、炭酸水素ナトリウム、PH調整剤)を加え、豆干絲を湯がく。ほぐしながら、今回は2分半茹でた。ザルで湯切りする。(アルミニウムの鍋で湯がくと変色する恐れがあるのでステンレスの鍋がベター)
- 豆干絲、水気を軽く絞ったゴーヤ、キクラゲを合わせて、塩少々と胡麻油で調味する。
- お好みで辣油をかけてもおいしい。

非常に優しい、シンプルな味わいの一品だが、これに自家製の麻辣油を流用した簡単なソース、麻辣汁(マーラージー)をかけると、熱海の花火のごとくテンションのぶち上げの肴になるので、参考までに。
麻辣汁(すべてをよく混ぜ合わせる)
| 花山椒(粉) | 小さじ1~ | 軽く煎ったのち、ペッパーミルにいれて保管している。お好みの痺れる量を |
| 生姜 | 小さじ1 | ごくみじん切り |
| ネギ | 小さじ1 | ごくみじん切り |
| ニンニク | 小さじ1 | ごくみじん切り |
| 濃口醤油 | 大さじ3 | |
| 黒酢 | 大さじ1/2 | |
| 紹興酒 | 小さじ1 | |
| 自家製麻辣油 | 大さじ1 | 底からよくかき混ぜて使う |
| 胡麻油 | 小さじ1/2 | |
| 胡椒 | 少々 |
麻辣汁は冷やし中華や冷や奴にかければ、大人が喜ぶガチ中華に大変身する。
「昔だったら絶対食べなかったのになぁ」と、穏やかに家人は豆干絲をつまんでいる。時間とともに変わるのは、味覚だけじゃないのかもしれない。今美味しいと感じるならば、それでいい。