七夕。イオン熱海店の特売は、シイラの刺身だった。
漢字では、魚へんに暑いと書いて鱪、もしくは鬼頭魚などと書く。
角が生えたような頭でっかちの魚で、ふだんは南の海に生息しているが、産卵を控えた季節、つまり夏になると日本の近海にやってくるという。熱海と同じ相模湾沿いの平塚では市をあげてシイラを盛り上げており、料理や商品開発に励んでいることを、このほど知った。
ビーチリゾートが好きな人にとっては、シイラよりも「マヒマヒ」と言ったほうが通りがいいかもしれない。ハワイ語で「強い」の意味だが、レストランではフライにしたものをよくみかける。グアムではグリルやフィッシュバーガーをいただいたが、身がふっくらしてうまい魚だった。
つまりは、熱海にも夏がやってきたということだろう。
味は淡泊。いい意味でクセもない。ただし肉質が水っぽいため、生で食べられるのは海の街に住む者の特権だ。
ちょうど八百屋で仕入れた青唐辛子が風味よく、辛さも上々だったので、晩酌のお供はセビーチェに決定だ。
ペルー生まれの魚のマリネ、セビーチェはつゆだく系で魚がしっかり白くなるまで酢締めされたイメージだが、メキシコ出身の友人のシェフがつくってくれたセビーチェはマリネというより和え物に近い料理だった。個人的にはこの締めすぎない、あっさり系セビーチェが気に入っている。
ありがたいことに、刺身には本物の菊の花が添えてあった。これも一緒に混ぜこめば、彩り的にもいっそう南国風情ただようではないか。いや、七夕の笹飾りのような賑やかさもある。シイラのセビーチェ【七夕風】と銘々しよう。
都内のスーパーではたいていプラスチック製の菊が刺身にのせてあったが、あれはいったいどういう了見ななんだろう? そもそも刺身に菊を添えるのは毒消しの意味がある。単なるお飾りではない。食えもしない造花の価格が刺身にのっかていると思うと、「だったら実質値下げしてくれよ」と思ってしまうのは、心に余裕がなかったせいだろうか。
熱海の坂を上下して、がっつり汗をかいたのだろう。追いレモンで爽快に、セビーチェを食べきった。