初めて河豚の煮こごりを食べたときの感動は忘れがたい。まるで一口サイズの水族館。ぷるぷるむっちりしたフグのゼラチンが口の中でするりと溶けていく。
「これが(市販の)ゼラチンを一切使わない正式の煮こごりだよ」と板長がいうのも、最近は河豚をケチって料理用ゼラチンを大量に放り込むけしからん料理屋も多いという苦言なのだ。
また、調理上におけるゼラチンと寒天の使い方を混同している料理人もいるというから、ここでまとめておこう。
ゼラチンと寒天の違い
ゼラチンをたくさん入れたのに固まらない! という場合は、溶かしかたを間違えているからかもしれない。ゼラチンと寒天の性質を理解すれば、おのずとその使い方も導き出される。
ゼラチン | 寒天 | |
原材料 | 肉や魚の骨や皮に含まれるたんぱく質コラーゲン | テングサやオゴノリなどの海藻 |
溶ける 温度 |
40〜50℃ | 90℃以上 |
固まる 温度 |
10℃以下 →冷蔵庫で固まる |
33〜45℃ →常温で固まる |
融点 | 8~35°C →口の中で溶ける |
85~93℃ →口の中で溶けない |
使い方 | 加熱し過ぎると凝固力が落ちるので、火からおろしてから加える。 | 沸騰した液体にいれて、表面が静かに躍るくらいの火加減で、ゆっくりかき混ぜながら煮る。 |
河豚の煮こごりは、フグの皮から溶けだした天然のゼラチンを煮詰めて固めたものだ。
機会があればぜひつくりかたを拝見したい! と懇願したところ、そのチャンスが巡ってきた。
そもそもフグ免許をもっていないので、フグが手に入ってもつくることは叶わないが、最近では皮の部位だけを売っている場合もあるし、貴重な体験だったのでここに残しておく。ポイントは、煮詰めかたと、冷やしかただ。
河豚の煮こごりのつくりかた
フグをさばく
皮と身を解体していく。
今回は、身欠きフグなので、毒を含めてあらかたの処理はしてあるが、取りこぼしもあるようなので、確認しながらよりきれいに整形していた。素人目には、さっぱりわからない作業だ。
「ここが腹で、ここが背ね・・・」と皮を開きながら説明いただいたが、やはり素人にはそのつなぎ目がわからず、まるで立体パズルを見ているようだった。
皮も腹や背などそれぞれの部位ごとに湯がいたのち、水にさらす。
水気をしっかり拭った皮を金串にさして干す。そのあいだに、身を、刺身用、唐揚げ用、鍋用にさばいていく。
皮を細かく切る。ものすごい弾力なため、素人にはなかなか難しい。ゆっくり、確実に、なるべく細く切るよう心がけた。
それぞれの部位ごとに分けられた皮がこちら。
煮こごりを炊く
フグの皮と同量の水で炊いていく。
今回はフグの皮3合、水3合、酒少々、昆布一枚だ。
火をつける前に、竹串で水の高さをはかっておき、その部分を折って印をつける。
水が半量になるまで、アクを丁寧にとりながら、ことこと煮ていく。
煮汁が半量まで減ると(先ほどの竹串で確認)、煮汁はべたべたと手にひっつく。ゼラチンが溶けだしている証拠だ。
みりんと薄口醤油で味付けをする。ごく千切りにした生姜を加え、常温にさます。
煮こごりを冷やす
流し缶を水で濡らし、煮こごりを流しいれたらフグを満遍なくならす。流し込んだ勢いで泡がたつのでライターの火で消して、ネギを散らしたら、巻きすをのせて冷蔵庫へ(水滴がたれるのを防止している)。しっかりかたまったら、巻きすをラップに取り替えて蓋をする。
今回使っているのはこちらの流し缶。仕切りは使っていない。
すっかり固まったら、型の四隅に包丁を入れてひっくり返し、適当な大きさに切りわける。