
週に一度は函南のスーパーをパトロールしている。
伊豆・村の駅は地物の新鮮な野菜と沼津漁港から直で仕入れた魚が並んでおり、ディズニーさながらのワンダーランドである。
静岡ならではと思うのは、ワサビコーナーが常設されている点だ。もちろんチューブのヤツではなく、生の本ワサビである。
以前、タイの友人が来日した際、ワサビを持って帰りたいというので、スーパーで求めタイ大使館へ届けたことがある。細く萎びたワサビが1本1000円を優に超えていた。普段気軽に買える代物ではない。

村の駅ではもう少しお安く手に入るが、狙うはさらにお手頃な「茎」や「花ワサビ」だ。
「花ワサビの辛みを引き出すには、砂糖の使い方が肝なんだよ」とかつて師匠は話していた。
彼は、これでもかと辛みの効かせたワサビや辛子で女を涙させるのが趣味なのだ。もっといい趣味はないのかよと口からこぼれそうになったが、文春砲にすっぱ抜かれるようなクズ野郎の泣かせ方ではないので、よしとしよう。
師匠のワサビの辛みの出し方は、まず砂糖を揉み込んでから、塩や醤油で好みに調味をしていくというものだった。
ところで実は、ワサビの茎はそのまま生で食べてもさほど辛くはない。ふんわりとワサビの風味がするだけなのだ。食えなくもないが、舌にえぐみも残り特にうまくもない。もしかしたら、沢で直に囓ったらうまいのかもしれない。
ではなぜワサビは辛いのか?
これにはアブラナ科・ワサビならではの特殊な物質が関係している。
あの鼻にツンとくる刺激は、ワサビ自身が持っているイソチオシアネート類(ワサビの場合はアリルイソチオシアネート)という化学物質によるもので、しかもワサビの組織が破壊されたときにしか生成されないのだ。
傷つけられたワサビが、防御反応として辛み成分を噴出しているとすれば、実に自然の理にかなっている。スカンクは敵に襲われれば屁をこくし、トリカブトは毒をつくる。動物から食べられぬよう、刺激臭を繰り出し自衛するワサビ。しかしワサビの思惑は大いに外れることとなる。人間という動物はこの刺激が大好きだった・・・・・。
砂糖に話を戻そう。砂糖を揉み込むという行為は、ワサビを傷つける行為ほかならない。さらに砂糖には脱水効果が期待できる。同じく脱水効果のある塩よりも分子が大きいため、傷もつきやすいだろうし、同時にアクも染み出しやすくなるだろう。また脱水を塩ばかりに頼りすぎれば塩抜きせねば食えぬという問題も持ち上がる。
どこの誰がワサビと砂糖の組み合わせを試みたかは不明だが、実は「ワサビが辛すぎたから砂糖で甘くしようとしたら失敗してもっと辛くなっちまったよ」というポンコツ説に期待している。
ワサビの茎の塩漬け

「みんなの料理」奥村 彪生氏を参考。
材料
ワサビの茎 | 洗う前に重さを量っておく | |
砂糖 | ワサビの重量の2% | |
塩 | ワサビの重量の3% | |
保存瓶 | 煮沸しておく |
つくりかた


- ワサビの茎をよく洗い、2cmくらいに切る。
- ワサビと砂糖を合わせ、手でしっかり揉み込んでいくと、水分と滑りが出てくる。ラップをかけて30分おく。
- 湯を沸かして80度に調整しておく。
- ワサビを一回り小さいザルに移し、ボウルにのせて、80度の湯をかけまわし、2分おく。
- 湯を流し、水気をよく絞ったワサビを瓶に入れる(けっこう熱いので注意)。
- ワサビに塩を加え、瓶のふたを閉めたら、塩が溶けるまで振りまくる。
- 色止めするなら、瓶ごと氷水にいれておけばよいだろう。2、3日目が食べ頃。