筍を湯がくときは糠と唐辛子を入れる。
ワラビの灰汁をとるには灰の上澄み液を使う。
干し椎茸をもどすときは少量の砂糖を加える。
料理にまつわる、こうしたちょっとした技を知るのは面白い。
脈々と受け継がれた先人たちの知恵。
古くから職人のあいだで継承される技。
時代遅れで、忘れ去られた技もあるのだろう。
現代においてはナンセンスな技もある。
科学的根拠なんて蘊蓄はそっちのけで、料理人がただひたすら実験と検証を繰り返し、ここまで辿り着いたのかと思うと感慨深い。
ちょっとかいつまんだだけでも肴になるネタ帳としてオススメしたい『割烹の宝庫』。
しかも国会図書館のデジタルアーカイブで無料で読めるのである。便利な世の中になったもんだ。
『割烹の宝庫』
著者:清水福一郎
出版社:大金出版部
刊行:大正12年
dl.ndl.go.jp
料理虎の巻
- 『割烹の宝庫』
- 料理虎の巻
- 長芋の結び方
- 長芋の白髪の打ち方
- 豆腐の結び方
- ちぢれ独活
- 氷冷やし魚の刺身の法
- 銀杏の甘皮のむき方
- 魚の塩焼きの皮の縮れを防ぐ法
- 栗等を軟らかく色よく茹でる法
- 玉子の黄身を真ん中におく法
- 煮抜き玉子(ゆで卵)を殻ともに切る法
- 玉子の黄身と白身の返しかた
- 玉子の染め方
- 鷹の爪の辛みを取る法
- 芥子の灰汁の抜き方
- 高野豆腐の戻し方
- 古いそば粉を新の如くする法
- 干鮑を急に軟らかくする法
- 蒸芋の皮をはじけるのを防ぐ法
- 蒸銅壺(どおこ)の湯が炊き上がるのを防ぐ法
- もろこを柔らかく煮る法
- 飯の腐るのを防ぐ法
- 飯の心(芯)の出来るのを防ぐ法
- 新飯櫃等の器具の木渋を防ぐ法
- 漆器のうるし気を抜く法
- 肉の油つきたる器の洗い方
- 茸類に毒の有無を知る方
- 醤油の善悪を見分ける法
- 白米の臭みつきたるをなおす法
- 揚げ置き油を新しくする法
- 鯛の目玉を潰さぬように煮る法
- さや豌豆や隠元豆等の茹で方
- 干海鼠を軟らかく茹でる法
- 素麺の油気の抜き方
- 焼き干鮎を生の如く煮る法
- 鱗のとりがたきを取る法
- 百合根の苦みを去る法
- 玉子を久しく貯える法
- 小豆または晒し餡の灰汁の抜き方
- 勝栗を軟らかく煮る法
- 豆に衣をかける法
- 硝子瓶の洗い方
- 酢の防腐法
- 根芋、はす芋の茹で方
- 大根を軟らかく煮る法
- 山葵水の取り方
- おろした山芋が黒くなるのを防ぐ法
- 梅干しの酢味を抜く法
- 茶粕佃煮の法
- 茶粕の効用
- 大根茎の鷹の爪
- 四季煮出し汁の作りわけ
- 生貝を早く柔らかくする法
- 壺または樽の飲み口のカビの取り方
- 茄子ぬか味噌漬けを色よくする法
- 豆腐を永く保たす法
- 蓴菜の器に盛り方
- お多福豆を黒く煮る法
- 大根、山葵のおろし方
- 食物の腐るのを防ぐ法
- 醤油の味色の陰りたるを直す法
- 醤油のカビを防ぐ法
- 干瓢の早煮方
- 干鰊を柔らかく渋みを取る法
- 棒鱈を軟らかく煮る法
- 刺身に銀の出る法
- 鰹の刺身に血の溜まらぬ方
- 玉子の善悪の見分け方
- 筍ほか野菜の苦みのとり方
- 蜜柑の筋のとり方
- おごの茹で方
- 鳥の油の取り方
- 胡桃の皮のむき方
- 干椎茸を生にする法
- 塩筍、松茸の塩の出し方
- 占地類の砂の取り方
- 胡麻の皮のむき方
- 料理虎の巻
長芋の結び方
長芋を長くせん切りにし、塩水にしばし浸しおいて水の中で結ぶ時は思うままなり。
長芋の白髪の打ち方
長芋、山芋等はぬめぬめとして切りがたい物なので、塩水にミョウバンを溶いてしばらく浸しおいて切るべし。ぬめりはとれて思うままに切れるべし。切ったのちに水に晒せば生のごとくなる。
豆腐の結び方
豆腐を長くきり、少しの酢を加えた湯に浸しおいて湯の中にて結ぶべし。自由になり水に晒せば酢気は去る。
ちぢれ独活
ウドを大根の剣のごとく平たく桂剥きにし、斜めに切って水につけるべし。一時に縮れるべし。
氷冷やし魚の刺身の法
頭と腸をとって尾の方を上として釣り置いて刺身にするべし。上等の刺身と味変わらず。
銀杏の甘皮のむき方
銀杏の殻皮をとって鍋に入れ、水を少し入れて茹で、金杓子等の背で押しまわし茹でるべし。見事に皮がむけるなり。
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魚の塩焼きの皮の縮れを防ぐ法
皮に酢を塗って焼くと縮むことなし。
栗等を軟らかく色よく茹でる法
糠を入れて茹でるなり。
玉子の黄身を真ん中におく法
玉子を茹でる時に皿等にて浮かないよう押さえて茹でるべし。
煮抜き玉子(ゆで卵)を殻ともに切る法
湯の中に酢を加えて茹でるべし。自由に切れる。
玉子の染め方
煮抜き玉子(ゆで卵)は染まりがたき物なり。紅に酢を少し加えて玉子に塗るべし。色はとまるものなり。
鷹の爪の辛みを取る法
茹でて種をとり去る。または丸のまま焙烙で塩をたくさん入れてその塩と共に炒りたてを水に移して晒せば、辛みは去るなり。味醂にて旨煮とする。
芥子の灰汁の抜き方
よく水を指して練り、布巾に包んで湯炊きするもよい。また茶碗等で練って水でどろどろとし白紙を載せ、その上口より熱き灰をかけて火の脇にしばらく置くもよし。
高野豆腐の戻し方
桶や鍋等に入れ炭酸を少しふりかけて落としぶたをし、軽く重量を加え置き、熱い湯をたくさん差して冷水を少し加えて20分ほどおくべし。どんな高野豆腐もよくもどし過ぎたり、またもどし損なうことなし。もちろん高野豆腐は湯に浮き上がらぬように注意し、もどした高野豆腐は水をたびたびかえて搾るべし。
古いそば粉を新の如くする法
古そば粉をこねる時に熱湯にてこね、タデの葉の搾り汁を入れるべし。新そばのごとし。
干鮑を急に軟らかくする法
鍋に水を入れて砂糖を入れ、干しアワビを水から茹でるべし。すぐに軟らかく煮える。
蒸芋の皮をはじけるのを防ぐ法
蒸し湯の中に油を差すなり。
蒸銅壺(どおこ)の湯が炊き上がるのを防ぐ法
どおこの底に皿を一枚ふせて蒸すべし。また吹き上がった時は油を差すべし。
もろこを柔らかく煮る法
もろこに生の居りて塩と酢をふって、よく漉しおいてのち、鍋に入れて湯炊きを十分にする。姿つぶれず骨も軟らかくなる。そのうえで味をつけるなり。
飯の腐るのを防ぐ法
お櫃の中に梅干、または塩梅を入れて飯を移すべし。
飯の心(芯)の出来るのを防ぐ法
飯を煮る水の中へ米一升に酒をお猪口3杯の割合で入れて煮るべし。芯のできることなし。
新飯櫃等の器具の木渋を防ぐ法
そば粉を少し入れて煮え湯を注ぎ、蓋をしてよく冷めるまでおいたのちに洗うべし。
漆器のうるし気を抜く法
豆腐からの熱きを入れて蓋をしておくなり。2、3度このようにする。
肉の油つきたる器の洗い方
菜の花の汁にて洗うべし。油はすぐにとれるべし。
茸類に毒の有無を知る方
一文銭と茸と一緒に煮るべし。銭の黒くなるは毒あり。色が変わらねばよしとする。
醤油の善悪を見分ける法
青地の茶碗に少し醤油を入れて箸にて泡だつほどにかき回し、泡だってその泡がしばらく消えずに泡の琵琶色になるは上等。薄赤き色の泡にてすぐ消えるは中以下の知るべし。
白米の臭みつきたるをなおす法
日光に晒し磨く時に塩を入れて洗うべし。
揚げ置き油を新しくする法
胡麻油を用いて残った時は、ふるいで漉して5合あれば新しい油を3,4合加えて貯えるべし。たびたびこうする場合はかえって油がよくなるべし。
鯛の目玉を潰さぬように煮る法
大根をおろし、置いた鯛の目玉を取り出す。白紙に大根おろしを載せて目玉を置き、湯炊きし、湯の中で紙を解くなり。
さや豌豆や隠元豆等の茹で方
塩を入れて湯炊きすべし。青くよい色が出る。
干海鼠を軟らかく茹でる法
きんこを水に浸してよく洗い、鉄鍋に入れて稲藁を入れて水よりとろとろと弱火で煮て茹でると思うように軟らかくなる。
素麺の油気の抜き方
素麺の茹でたるに油臭きものあり。茹でる途中に焼け火箸をシュゥと刺して素麺を湯より水に移してよく晒すべし。臭みなし。
焼き干鮎を生の如く煮る法
干鮎をきんこの如く藁を入れて水から湯炊きして用いれば生の如くなる。
鱗のとりがたきを取る法
大根を切り、切り口で魚の鱗をさかに押し上げる。鱗は見事には剥けるなり。
百合根の苦みを去る法
百合根を湯炊きして熱い間にザルに引き揚げて、うちわで扇いで冷やすなり。
玉子を久しく貯える法
石灰または灰水に混ぜ入れて貯えるべし。久しく腐敗せず害なし。
小豆または晒し餡の灰汁の抜き方
煮るときに馬鈴薯の皮の剥きたるを2,3個入れて茹でるべし。灰汁と臭みは妙に抜けるなり。
勝栗を軟らかく煮る法
勝栗を水と酒と等分にした水で気長にとろとろと煮て、軟らかくなればザルに揚げて2,3度湯をかけて冷やしおき、砂糖漬、または甘露漬となすべし。
豆に衣をかける法
豌豆、空豆等を炒って鉢に入れおき、鍋に白砂糖を入れて水を少し加え、絶えずかき回しながら煮て、飴のごとくとろとろした時に豆のうえにかけて広げて、冷やしおくべし。
硝子瓶の洗い方
ガラス瓶の中に切った馬鈴薯、または玉子の殻を入れて、水を少し入れて、振り回すべし。
酢の防腐法
酢に塩を少し入れておくべし。
根芋、はす芋の茹で方
根芋、はす芋は縦にいくつも割って鷹の爪を5,6個入れて茹でたのち、蒟蒻のごとく湯より引き揚げて、せき板等の板にほり落としたのち、水に入れて冷やして用いるべし。苦みさらになし。
大根を軟らかく煮る法
大根に白大豆を少し加え、ことこと煮るべし。味もよく軟らかくなる。
山葵水の取り方
山葵の砂をとって小口より薄く輪切りにし、徳利等に入れ水を加え、詰めを堅くなし鍋に入れて徳利なり水煮をよくして冷やし、貯える。らんびき山葵ともいう。
おろした山芋が黒くなるのを防ぐ法
山の芋をよきほどに切って、一夜ミョウバン水に晒しおく。よく洗ってからすりおろすべし。
梅干しの酢味を抜く法
よい梅干漬を針でちくちくと一面につき2,3度刺す。湯炊きして水に晒す。
茶粕佃煮の法
当日の茶粕(前日のは悪い)を細かに刻んでよく茹でて、湯を流し、醤油、砂糖で甘辛く煮詰める。辛子粉を少し加え煮あげ、貯える。
茶粕の効用
蛸、大蕗、牛蒡の葉や茎等を茹でる時に少し入れると軟らかくなる。
大根茎の鷹の爪
大根の茎の堅いところを鷹の爪の如く包丁で削り切り、梅酢の中へ食紅を溶いて、置くべし。鷹の爪の如くなり、味良く、焼き物等のあしらいによし。
四季煮出し汁の作りわけ
煮出しは四季によって取り方を変えるべし。すなわち、夏期は腐敗しやすいため、煮出しなるべく薄くとって煮出汁一升に醤油をお猪口に一杯半くらいいれて混ぜおく。冬期は煮出しは味と水が冷えて別れるものなので、なるべく煮出しを濃くとりおく。春と秋は中間をとるべし。
生貝を早く柔らかくする法
鮑貝なら貝の目と目の中より、赤貝なら肉の中へ酢に浸した針でちくちくと突き刺して茹で、または煮るか蒸すべし。
壺または樽の飲み口のカビの取り方
焼酎にてふけばとれるべし。
豆腐を永く保たす法
豆腐を葛をといた水で茹でておくべし。堅くならずしてもつべし。
蓴菜の器に盛り方
塩をふりかけて盛るべし。
お多福豆を黒く煮る法
炭酸湯に一夜豆を浸しおいて湯炊きすべし。黒くなるなり。
大根、山葵のおろし方
大根は根の下端より、山葵は葉の方よりおろすべし。いずれもよくきて辛い。
食物の腐るのを防ぐ法
水飴230匁、醤油1升の割合で煮詰めた醤油で煮る時は、何品によらず腐ることなし。
醤油の味色の陰りたるを直す法
醤油を鍋に入れて烈火にて煮えたたしたのち、とろ火にして煮ると、泡とともに汚物が浮き上がるので、捨てたのち冷やし、貯えるべし。
醤油のカビを防ぐ法
唐辛子を袋に包んで中へ入れておく。または芥子を麻に包み入れて塩の黒色になるまで煮たものを加えるもよし。醤油1升に塩5勺の割合。
干瓢の早煮方
干瓢を塩水に浸しおいてよくもみ、水気を切って煮る。干瓢は色が白くなって早く煮えるべし。
干鰊を柔らかく渋みを取る法
干鰊を米のとぎ汁に2,3日浸しておく。よく洗って適当に切り、茶かすを入れて湯炊きし、途中で炭火を注すか、焼火箸をシュンと注して湯炊きすべし。渋みはとれて軟らかくなる。
棒鱈を軟らかく煮る法
棒鱈を4,5日、米のとぎ汁につけたのち、適当に切って少しの炭酸を加えて湯炊きして、2,3度湯を捨てて湯炊きし、酒や砂糖、醤油で煮る時に、鯛の中骨を入れて煮るべし。棒鱈は冷めても堅くなることなし。
刺身に銀の出る法
刺身につくる肉に美濃紙をもんでしばらく張りおいたのち、紙を取って作るべし。つやつやと銀光りするなり。
鰹の刺身に血の溜まらぬ方
鰹の腸と頭を取り去ってよく洗い、紐で尾のほうを結んでつるしおく。切って刺身にするときは血が溜まることはなし。
玉子の善悪の見分け方
玉子の光沢あるは古く、光沢のなきは新しい。また水5合に塩30匁の割合で溶いた水に玉子を浸し、浮き上がってくれば腐敗し、中途にあるは中等にて、沈めば新しい物なり。
筍ほか野菜の苦みのとり方
鷹の爪を5つほど入れて茹でるべし。えがらい場合もまた同じ。
蜜柑の筋のとり方
皮のまま熱い湯に浸しおいて皮をむき、湿った布巾で拭けば美しくとれるべし。
おごの茹で方
細いおごをよく洗って、おろし金、赤銅杓子、笹の葉等をそえて共に茹で、引きあげて灰で洗うべし。色よく味もよし。
鳥の油の取り方
油皮のところを鍋に入れ、水に浸し、南京を横に二つに切って鍋の中に伏せ、浮かして煮るべし。よく煮たのち冷やしておけば、油は自然と固まって南京の中に集まるなり。
胡桃の皮のむき方
熱い湯に入れ、楊枝の先でぬれた布巾で拭きむく。栗や椎も同じ。
干椎茸を生にする法
砂糖水に浸しおくべし。
塩筍、松茸の塩の出し方
大根を輪切りにして水と共に浸しおくべし。塩は早くぬけるべし。
占地類の砂の取り方
箸で竹の茎を挟んで右手で箸を一本持ち、軽くぽんぽんと打つべし。妙に砂は落ちるなり。