カスベを見るたびに、いつかフカヒレに昇格させてあげたいなと思っていた。
カスベとはつまり、エイヒレのことだが、同じヒレにもかかわらず、その価格は月とすっぽん、雲泥の差だ。
北海道ではメジャーな食べ物で、紋別で世話になった知人の奥さんは、骨までとろとろに煮付けるのが大変うまいと評判だ。
煮付けに留まらず、学校給食ではカスベの唐揚げも人気だという。
骨が軟らかく、丸ごと齧れるから栄養価も高く食べやすいと、老若男女から愛されるご当地食材。しかもコラーゲンも豊富なので、最近では美容方面からも熱い眼差しを送られている。
真偽のほどはわからぬが、フランスでは高級食材とされ、シタビラメよろしくムニエルにして食べるとうまいそうだ。
都内のスーパーでも近頃、カスベをよく見かけるようになった。ただ、いつも売れ残っている。魚の全体像がいまいち不明なことがその原因のひとつと睨んでいるが、道民以外にとってはハードルが高い食材と言わざるを得ない。
物珍しさに一度、大崎のスーパーで入手し、煮付けたことがあったが、家人からの評判はすこぶる悪かった。おそらく煮付け方にも非あったと思われるが、やや骨が口にあたるのが気に入らなかったと見える。無理に食べる魚でもない、というレッテルが貼られてしまい、カスベには申し訳ないことをしたと思っていた。
今度こそはカスベに一矢報いる逸品をと思っていた。狙うはフカヒレスープならぬエイヒレスープ、いやカスベスープだ。
このほど2年ぶりにカスベを入手したので、迷いなく調理にとりかかる。
西太后が愛したフカヒレのようにはならないだろうが、レトルトパウチのフカヒレスープくらいにはなるんじゃないだろうか?
下茹でして、酒と香味野菜で圧力かけて、中華出汁に加えて味付け。
とろみをつけ、卵を落とせば、濃厚フカヒレっぽいエイヒレスープの出来上がりだ。
味は、うん、悪くない。
悪いのは、つまらん噓をついてしまったことだ。
「フカヒレスープだよ」と食卓にあげてしまった。
妙な緊張感でもって、口にスープを運ぶ家人を見守る。
「これはフカヒレじゃない」
そりゃそーだ。エイヒレだもの。フカヒレのようなプチプチとした食感ではなく、ふにふにしている。「エイヒレはエイヒレだな」というのが正直なところで、詐欺にあった家人の不満はごもっともだ。
だが庶民のヒレスープとしては、ちょうどい塩梅じゃなかろうか。
手にベタつくコラーゲンは未来への投資だと思うと、今後もちょくちょく買ってしまいそうである。