「今日は飲んでくるわ」
もう夜の8時をまわっている。いまさらメールされても、あらかた夕飯の準備は済んでいるというに。ちっ。舌打ちだって出て然るべきだ。図らずも、今晩はひとり飯になってしまった。
今日はラーメンを食べようと、昼過ぎから鶏ガラ出汁をとっていた。鶏ガラを茹でこぼし、くず野菜をいれて弱火でことこと、ひたすら3時間。
ラーメンというのものは、なかなか手の込んだ食べ物だ。スープはもちろんのこと、トッピングだって一からつくればそれなりに時間がかかる。だからみなラーメンは外で食べるものだと納得しているんじゃないだろうか。
さて、ここまで時間をかけたラーメンを一人で食べるのもなんだか癪である。鶏ガラにこびりついた肉片を剥がしながら、何を食べようかと考えあぐね、指先についた肉をぺろっと舐めた。うまっ。
なじみの店主にゆずってもらったブランド鶏だったから、そりゃうまいに決まっている。次に醤油をつけて食べてみた。もう身震いするほどうまい。ただの肉カスが黄金に見えてきた。どうせ一人なんだから、これを丼にしてやろうじゃないか。
いつもより丁寧に鶏ガラから肉をこそげとり、出汁醤油に漬ける。熱々の飯に肉をかけ、小ネギを散らす。先着一名様、ひとり一羽の贅沢飯!
3時間煮込んだ骨の周りの肉は、歯など必要ないほどほろほろだ。ほどよく肉汁をまとった肉片はどこまでもしっとり。軽く台湾名物の魯肉飯(ルーローハン)を飛び越えてしまったのではあるまいか。いや、これは和風魯肉飯だ。スパイスの風味ではなく、和食のもつ「うまみ」が口のなかで大行進、驚異のうまさである。七味をかけるとまた絶品。茶碗に口をつけてかき込み、あっという間にひとり飯は終了。馳走になった。