GENさんのスパムステーキ
沖縄の県民食ポークランチョンミート、通称SPAM(以下スパム)。知りあった沖縄出身のハーフ美女は、実家では日々の食卓にかかせない食べ物だと説明してくれた。小ぶりで淡いその唇が、スパムがない人生なんてと強烈なスパム愛を矢継ぎ早にまくし立てる。「沖縄ではSPAM派とチューリップ派で分かれるんです!」。そのへんの事情はよくわからんが、彼女の熱量に押されてこっちはもう頭を縦にふるしかない。
だが内地ではどれほどSPAMが浸透しているのだろう。かくいう私も、スパムが食卓に出たことはなく、初めて口にしたのも大学生か社会人になってからだ。あのぐにゅっとした緩い肉質と独特の匂いはまるで猫缶のようだったし、スパムにぎりなんて寿司への冒瀆かと思ったほどだ。ところが先日、目覚めてしまったのだ。スパムの魅惑に。
恵比寿の路地裏のビルの二階にある小さな居酒屋、博多・大王にいたのは、男性四人組だ。歳は60代半ばだろうか。芋焼酎を片手に盛りあがっている。みな身なりがよく、金回りもよさそうだ。
メニューを見ていたロマンスグレーの男性が手をあげた。
「スパム玉子じゃなくて、スパムステーキってできる?」
「いいですよ」
メニューにはないが、軽く頷く店主のGENさん。どうやらスパムというものは、ある年齢層には絶大な支持がある食べ物らしい。しかもわざわざステーキを指名するあたりがこなれている。
運ばれてきた小さな楕円形の皿には、スパムが四切れ、その上に目玉焼き、そしてキャベツの千切りとケチャップが添えられている。なんのことはない、焼いたスパムだ。
ただなぜだろう、鮮烈なひと皿だったのだ。赤とオレンジと黄色のコントラスト。好きでもないスパムを、どうしても食べてみたくなってしまったのだ。
「こっちもスパムステーキいい?」
「いいよ、でもキャベツがきれちゃったから、レタスでいい?」
十数分後、目の前におかれたスパムステーキ。さっそくスパムを一口大に箸で割り、半熟の目玉焼に浸けて食べる。きっちりと焼いて水分が飛んでいるせいか、食感もさほどにやわらかくない。これは庶民の豚のテリーヌだ。赤ワインを一口すすり、またスパムを口にいれる。うん、クセになりそうだ。
GENさんが使っているのは減塩スパムだ。オリジナルよりも塩分が20%控えめだとはいうものの、それなりにしょっぱいので、ほかの食材には味つけをしないという。スパムの塩気で目玉焼きと野菜を食べるのだ。シンプルなんだが、これがなんとも素朴でうまい。
「つくりかた教えてよ」
「いいよ」
かくして厨房への潜入に成功した。
スパムステーキ
材料
スパム | 適量 | Homel SPAM 減塩 |
玉子 | 1個 | |
野菜 | 適量 | レタスでもキャベツでも |
つくりかた
- フライパンに油をしき、スパムを焼いていく。焦げやすいので中弱火くらいだ。
- 片面が焼けたタイミングで玉子を入れる。
- スパムをちょくちょく返しながら、いい色になるまで焼いていく。
- 付け合わせの野菜を添えてスパムを盛りつけ、目玉焼きをおく。ケチャップはお好みで。
まさかいまさらスパムに目覚めてしまうとは。イベリコ豚のランチョンミートもあるようだ。けっこういい値段なんだが、これは気になるぞ…。