宮古島ではいつも平良を拠点にしている。というのも、宮古島の繁華街・西里にほど近く、どれほど深酒しても歩いて帰ってこられるという酒飲みのわがままと安心感の狭間の地なのだ。
ドミトリーと個室一室の小さな宿だが、こざっぱりとして風通しのいいその場所は、全国・世界各地から島移住者予備軍となった人々で賑わっている。
そんな宿だから、週末に部屋がとれなかったのも仕方がない。シギラにあるホテルへ移ることになった。
さて、問題は夕飯だ。西里からシギラまでは代行で3000円ほどかかる。
残りあと二日。毎日中心街へ出れば単純に6000円かかるわけだが、軽く一食分にはなる。最終日は西里で友人と会うことになっていたから、一日はシギラで済ませることになった。ところが友人にすすめられたリゾート内のイタリアンはすでに満席。さすがに梅雨明けシーズン真っ盛りの宮古島で前日の予約は無謀だった。となると、ホテルの室内で食べるほか選択肢がない。ワールドカップも終盤にさしかかっているから、それも悪くはないんだが。
夕陽を背に車を走らせた先は、地元の友人が通い詰めているというマルヨシ鮮魚店だ。店内に入ると、ちょうど青年が巨大な魚の頭からほほ肉を切り出しているところだった。左手には椅子並んでいて、診療所の待合室のようでもある。
「500円分の刺身をお願いします」
これがこの鮮魚店で頼む流儀だと教わっていた。
「はいよ〜」
いかした麦わらハットの親父が包丁を握る手をとめて振り返る。
ほどなくして持参していったクーラーボックスに刺身を詰める。白ワインも買った。総菜も買った。醤油も買った。シギラへとんぼ返りだ。
発泡スチロールのトレイにはいった500円分の刺身は、魚が4点、イカ、それになぜか貝が一切れだけという謎の盛り合わせだったが、とにかく豪快である。ただひとつ、白いトレイはあまりに色気がない。そうだ、いまここで土産をあけてしまおう!
壹岐幸二(いきこうじ)氏の皿は、前日に琉球 COLLECTION 叶で一目惚れしてしまった皿だ。いま使わなくていつ使う! そんな気分にさせる刺身だった。ていねいに梱包をはがし、さっと洗って刺身を移し替えた。
我ながら上出来。500円が1500円くらいには化けたんじゃなかろうか。
今日のオススメはヤイトガツオ、関東ではスマガツオと呼ばれる鰹だ。口に入れた瞬間は鰹独特の鉄分のような香りがするんだが、その食感と後味に中トロのようなまろやかさが残る。
学名をEuthynnus affinisというが、これはギリシャ語で「eu(=good、良)+thynnos(=tuna、マグロ)+affinis(近似の、他種と関連ある)」となるらしい。近年はクロマグロの代替として研究が進められているというが、たしかに食べて納得、マグロの遠戚といわれても違和感がない。
たまにはこんな旅飯も悪くない。いや、最高だ。
2019年再訪〜マルヨシ鮮魚店本気の刺盛り
下地空港がオープンした2019年。観光客が大幅に増えることを予想して、早めに宿をとる。知り合いが宮古島の会社に就職した祝いも兼ねて、宿で宴会をすることになった。
マルヨシ鮮魚店へ車を走らせ、2000円分の刺盛りをお願いする。店主の親父さんは変わらずのようで、焼けた肌に麦わらハットがダンディすぎる。
これで2000円! 予想を上回る豪華な刺盛りに、一同歓喜! 各自が持参した白ワイン、スパークリングワイン、泡盛、日本酒がみるみるうちになくなっていき、夜がふけた。
マルヨシ鮮魚店