
「苺飯」というものを知ったのは、数年前のことだ。古本屋で手に入れた『日本料理四季盛付』を眺めていたとき、有馬籠の雅なおひつに盛られたアワビ飯のページにひと言、添えてあったのだ。
因みに、鮑と生の雲丹を入れたものを「苺飯」と言います。
「苺飯」とはいったいどんな食い物なのか。強烈にそそられるネーミングだ。期待に胸ふくらませ検索をかけたところ、フルーツの苺を炊いたピンク色の米や、白米に苺ジャムをかけた飯がずらずらとあがってくる。心がざわついた。まさか栃木が県を背負っていちご飯バーガー、いちご飯チャーハン、いちごカレーを推しているとは。というか、よもや元祖いちご飯、存亡の危機と言わざるを得ない。
後日『にほん料理名ものしり辞典』にあたってみると、「苺煮」が見つかった。
「苺煮」とは、青森や八戸など東北地方の郷土料理で、生の雲丹と鮑を出汁で煮た汁物だという。加熱された生雲丹がくるっと丸まって、その姿が木苺のように見えることから、苺煮と名付けられた。日本料理らしい奥ゆかしさは、ひるがえれば回りくどいとも言え、これが全国区になれない理由かもしれない。
そしてその苺煮で米を炊き込んだものが「苺飯」で、彼の地ではハレの日に食べるご馳走だという。
なんて豪奢な一品なんだろう。そんなの旨いに決まっている。いつか食べたいリストのランキング上位に君臨していた炊き込みご飯だった。
すっかり忘れたころに、苺煮が缶詰で販売されていることを知った。ひとつ1500円と、缶詰にしては高い気もするが、生のアワビと雲丹を揃えればもっと値が張るだろう。秒でカートにいれる。

原料は、「蒸しウニ(チリ産)、ロコ貝、アワビ・・・・・・さまざまなエキス」。
不明な貝が混じっているのが安い理由かと納得する。ちなみにロコ貝は、その昔「チリアワビ(アワビモドキ)」と称して昭和の日本で流通していたそうだが、近年は乱獲により漁獲量も輸入量も減ってきているそうだ。
白く濁った汁を舐めてみると、磯の香りが強く、ホタテのエキスのせいかやや甘ったるい。吸いものとして喰うには、いささか悩ましいところではあるが、目的は「いちご飯」であるから、目をつぶる。
この缶詰は水分量が400ccなので、土鍋で炊くなら、米2合に缶詰ごとぶち込み炊けばいい。なんとも手軽だ。今回は、翌元日に親戚に届ける第二の目的もあるので、薄口醤油とオリーブオイルを忍ばせ、冷えても美味しく食べられるように呪いをかける。
炊きあがり直後に味見したが、汁で喰うよりも断然旨い。キツいと思っていた香りも米に馴染んだのか、絶妙に、品よく鼻から抜けていく。冷やしてウニやイクラでばら寿司のように飾れば、正月のメインをはれる一品となった。
それにしても、これだけ旨かろうが栃木のいちご飯には勝てる気がしない。素直に「アワビとウニの炊き込みご飯」と銘打ったほうがいいのだろうか。
いちご飯

材料
| いちご煮 | 1缶 | |
| 米 | 2合 | 洗って水気をきっておく |
| 薄口醤油 | 小さじ1 | |
| オリーブオイル | 小さじ2 | |
| ウニ | 適量 | |
| イクラ醤油漬け | 適量 | |
| 紫蘇 | 適量 | ごく千切りにして水に放ちアクをとったのち、水気をとる |




