
二人で暮らしているから、魚の切り身は二切れのパックを買うのが常だ。先日は皮のピンと張った鰆が半額だったので、迷いなくかっさらって味噌床につけておいた。明日の献立はほぼ内定ということで、のらりくらり過ごすはずが、そんな時に限って来客襲来である。いや、来客がイヤだと言っているのではなく、問題は魚の数なのだ。客と家人には鰆を、自分はへそくりの塩鮭を焼いて、なんとかその場しのぎとした。
そうして残ったのが、鮭の切り身が三つである。一切れ残しておくのもガス代もろもろ不経済だし、焼いてしまうか・・・・・・と冷凍庫を漁っていたところ、発掘したのだ。忘れ去られし宝、イクラを。
鮭とイクラ。合わないはずがないだろう。マリアージュどころか、親子なんだから。
浮き足だって米を炊く。もう出汁やら薄口やらを使わない。塩と昆布でいいか。いや、米油は忍ばせよう。
塩鮭はふんわり焼いてから、丁寧に骨を抜く。少しでも骨に当たれば家人の口撃が炸裂するだろう。
これを炊きたての米にのせて、しばし蒸らす。鮭の塩気と旨味がほんのり米に染みていく。仕上げに刻んだ紫蘇とイクラを散らせば親子飯のできあがり。副菜は夏野菜で豚汁だ。落ち込んでいる自分を鼓舞してくれるかのように、友人が送ってくれた野菜だ。
ここ数日、どうにも参っていた。やはり八百屋の一件が、尾を引いている。街を歩けば銀色の軽バンとすれ違い、息が止まりそうになる。つい運転する人とその荷台を確認する癖がついていた。そしてギュッと生の心臓を握られるような感覚に陥る。喪失感というものは、心理学でいうところの段回にそって、ひとつずつ克服していくものなんだろう。いまは、痛いは痛いままに、放ってある。
そんなときこそ、人は旨いものを食べればいい。旨いものに集中すれば、少しのあいだ忘れられる。それを何度も積み重ねていけば、そのうちに新たな日常に慣れていく。
「うんまいなぁ。やばいな、これは」
間違いないと大きくうなずきながら、家人は飯を頬張っている。そうだろう、そうだろう。自分も負けじと飯を、汁を、かきこむ。これでいい。
鮭とイクラの親子飯

材料
| 塩鮭切り身(甘口) | 3本 | |
| 紫蘇 | 10枚 | ごく細切り。水にさらして灰汁をとる |
| 米 | 2合 | |
| 昆布 | 5cm角1枚 | |
| 塩 | 小さじ1/2 | |
| 日本酒 | 大さじ1 | |
| 米油 | 小さじ1/2 | |
| イクラ | 好きなだけ |
長谷園の土鍋を使用。
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つくりかた
- 鮭の切り身を焼く。皮はパリパリに。骨を抜いておく。
- 研いだ米に水と日本酒を合わせて400cc、塩、米油を混ぜ、昆布をのせて炊飯する。土鍋だと11~12分くらい。
- 炊飯後10分くらいして湯気がおさまったら、鮭をのせて、また10分ほど蒸らす。
- 紫蘇とイクラをまぶしたら出来上がり。食べるときにざっくりとほぐしていただく。