初出:2017.04.20
更新:2017.11.28 調理の手順を一部変更しました。
チャーン島で学ぶタイ料理
十数年前、バンコクから一時間ほど北上したアユタヤで出会ったのはスイス出身のTだ。スイスといっても「ドイツ側だ」と彼は強調していた。フランス語を話すスイス人とは何か深い溝のようなものがあるらしい。アルプスの少女ハイジを見る限り平和そのもののその国の内情はなかなかにややこしいことを、そのとき初めて知った。
毎年のようにタイを訪れているTは、毎食のように鶏肉のバジル炒め(ガパオ)を食べる。あきれるほどガパオしか食わないので、彼をガパ男と呼ぶことにした。意気投合した私たちが流れついたのは、カンボジア国境近くにあるチャーン島(Ko Chang)だ。
タイ料理の名手だという女性オーナーが経営する宿では、料理教室が盛況だ。ガパ男がどうしてもガパオのつくりかたを学びたいというので、つられて私も入門することになった。敷地内には畑が広がり、川も流れ、新鮮な食材がいつでも手に入る。
まずはタイの食材を知り、選ぶところから教室は始まる。指導してくれたのはニューハーフのシェフだった。顔にはうっすらと白粉がのっている。誤解しないでほしいが、別にニューハーフがどうのこうの言う気はさらさらない。ただまさかタイにきてオネエに料理を教わることになるとは、想定外だった。
旅とはそういうことが関連性もなく次々と起こってしまうものだけれど、まさかこんな辺鄙な島でスリコギを手にハーブを潰しているとは。
いま思えば、どんなに絢爛な遺跡より、どんなに美しいビーチよりも、この料理教室のことが頭から離れない。
食べ物を育てて食べるという当たり前の行為と、見知らぬ人たちと料理をする一体感、見知らぬ土地の新しい味、なにもかもが行き当たりばったりで鮮烈だった。
鶏肉のバジル炒めのほかにもパッタイ、カレー、トムヤムクンなどタイ料理のフルコースを堪能したが、やはり畑でつんだホーリーバジル、あのガパオの香りが強烈に残っている。
帰国前夜、バンコクに戻った私は屋台で一人ガパオを噛みしめていた。ひと皿100円くらいだ。とても美味いと言える代物ではなかったが、無言でたいらげた。なにやら雑多な感情がどっとこみあげてきて、喉のあたりが締め付けられた。
以来、私はコチャーンで学んだガパオをつくり続けている。ホーリーバジルはなかなか手に入らないけれど、「おいしい」と言われるたびにあの島を思い出し、あの島のガパオをみんなに食べさせたいと思ってしまうのだ。
チャーン島の本格ガパオ
材料
鶏もも肉 | 100g | *1 細切れにして少量塩で余計な水分を出しておく |
ホーリーバジル | たっぷり | *2ざく切り |
ニンニク | 2片 | みじん切り |
生唐辛子 | 2〜3個 | みじん切り |
ピーマン | 1〜1.5個 | *3 肉の大きさに合わせて粗みじん |
パプリカ(赤) | 1/8個 | 肉の大きさに合わせて粗みじん |
パプリカ(黄) | 1/8個 | 肉の大きさに合わせて粗みじん |
タマネギ | 1/8個 | 肉の大きさに合わせて粗みじん |
目玉焼き | ||
合わせ調味料 | ||
ナンプラー | 小さじ2 | カタクチイワシのみでつくられたナンプラーがオススメ。すっきりクリアな味わいで香りも強い。クセが気になる場合は、普通の醤油を混ぜる |
オイスターソース | 小さじ1 | |
きび砂糖 | 小さじ1/2+α | 本場では固形のパームシュガーを使う。粘度があり沖縄の黒砂糖にそのコクが似ている |
チキンスープ | 大さじ2 |
つくりかた
- 油をしいたフライパンを熱して、野菜をさっと炒めて取り出しておく。
- 改めて油をしきなおし、ニンニクと唐辛子を炒めて香りがでたら、肉をいれる。豚肉なら透明な肉汁が浮き出るまで、鶏肉なら七分くらい火が通れば大丈夫。
- 野菜を戻して軽く炒めたら、合わせ調味料を入れて汁気を飛ばすように煮詰めていく。ご飯にかけるので多少濃い味を目指そう。
- ホーリバジルを入れて軽くひと混ぜしたら出来上がり。皿にご飯を盛り、ガパオをかけて目玉焼きをのせる。
ガパオをパンに挟んでみる
夕飯は昨日の残りの豚肉のガパオで済ませようと思っていたんだが、「マツコの知らない世界」の「袋パンの世界」(TBS 4/18日放送)を見ていたら、完全にパンモードに突入。メディアの影響力というものは恐ろしい。無意識化にねじり込んでくる。
ちょうど大崎のリラック(福島屋)で買った田舎パンがあるから、これにガパオを挟んでみよう。
パンを半分に割り、軽く焼いてレタスをしき、マヨネーズをちょっと垂らしてガパオを山盛りにし、目玉焼きをのせる。
ぼろぼろと肉が崩れてきて非常に食べづらいが、味はいい。ガパオ味のパテがあってもいいのかもしれない。