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時速1kmの思考

ソーメン神7

素麺といえば「揖保の糸」の一択。
というのも、母の故郷は兵庫県。親戚が贈ってくれた夏の中元といえば、もれなく素麺かカルピス、ときどきゴーフルだった。

トップ当選はカルピスだ。
カルピスが嫌いな子供が昭和にいただろうか。そもそもジュース類をあまり飲ませてもらえなかった家庭の事情もあって(母手製の生々しい野菜ジュースは飲み放題だったが)、カルピスは圧倒的正義。
箱に鎮座する厚紙に巻かれた茶色い瓶はまぶい「神7」みたいな存在だった。

次点はゴーフル。

そして落選は素麺だった。
当時叔母から贈られてきた素麺・揖保の糸は、いわゆる「ヒネ」とよばれる熟成された高級品で、桐箱に品よく一糸乱れず密やかに整列していた。

そんな大人たちのこだわりを子供に理解できるわけもなく、自分にとっては味も素っ気もない麺類だなと苦々しく思っていた。
夏休みともなると今日も、明日も、明後日も、エースの頻度で素麺が登板する。うんざりだ。
文句を言ってはいけないこともわかっていた。母も働いていたし、暑いし、時短したいし、三度の食事はできるかぎりもろもろ割愛したいだろう。これはいま身をもって知るところとなっている。

でも子供にとって素麺ほど気乗りしない食事はなかったのだ。
食べても食べても腹が膨れないし、膨れたところですぐに腹が減る。燃費の悪い食事ナンバーワンである。あまつさえ、醤油味で飽きる。
年頃になって素麺に油が練り込んであると知ってからは、あまり食べないように心掛けてきたくらいだ。

素麺が密かにリバイバルしたのは家人と一緒に住んでからだ。
ある晩、飲酒後のハイで空腹に耐えきれなくなった傍若無人の自分に家人がつくってくれた素・素麺が五臓六腑に染みたのだ。
実家よりもやや固めに湯がいてあって、一本一本のプチっとした麺の食感と摩ったショウガが脳を刺激したせいか酔いもさよなら「素麺ってこんなに旨かったか!?」と覚醒。

そんなこんなで、素麺とよりを戻し現在にいたる。
偶然にも家人も「揖保の糸」推しだったが、思い立って、いま素麺市場はどうなっているのだろうと、スーパーを覗いてみた。

三輪素麺、半田めん、小豆島素麺、揖保の糸(特急と普通)島原手延素麺、島の光、華色素麺、スーパー大麦素麺……。

夏においての素麺は、売り場面積的にもエースだった。
某社の調査によれば、夏の麺消費量一位はやはり素麺という結果がでている。
やっぱり「日本の夏、素麺の夏」なのだ。

梅雨の合間。
汗だくで起床。
夏日の一食目。

前年から繰り越したひねた素麺に決める。
冷蔵庫に常駐している食材を吟味。

  1. 紅生姜
  2. あかもく
  3. 小ネギ
  4. 納豆
  5. 錦糸卵
  6. 蒲鉾
  7. 紫蘇

出汁:薄口醤油:みりんを8:1:1でさっと沸かして、急冷。
氷で閉めた素麺の水分をしっかり切って、7つの具材を盛り、タレをかけまわす。

神7降臨したかのような昼食だった。