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時速1kmの思考

丹波の黒豆

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丹波の黒豆

年に二回届く丹波の黒豆。早生とよばれる若い黒豆は8月、そして秋深まる10月にはさらに完熟したものが送られてくる。
今年も叔母から、東京の母経由で送られてきた。日照りがよかったせいか豊作だそうで、あいかわらず見事な大粒だ。

丹波, 黒豆, 枝豆, 兵庫母からの手紙
2023年秋きたる

完熟してきた黒豆の薄皮は紫色をしており、それゆえに「紫頭巾」の異名があるが、緑色の豆に慣れ親しんだ者の目には奇異にうつるのだろう。
友人などにこの枝豆を振る舞うと、みなその土俗的ビジュアルに「本当に食えるのか?」と訝しがるのは毎度のことだが、「これが正月の黒豆になるんだよ」と説明するとだいたい納得してくれる。

昔から枝豆といえば黒豆なゆえ、居酒屋などで出される小さな緑色の豆には物足りなさを感じていた。うまいはうまいんだが、やはり黒豆は別格だ。

豆なんだが、ほくほくとした、どこか芋のような趣もある。ただ芋と違ってこの粒形状である。一度食べ始めると止まらないように、山の神が用意周到に設計したにちがいない。
リスの如く口の中を豆でいっぱいにして、一気に噛みちぎるという贅沢かつ下品な食べ方も習得した。
ザルに山盛りされたこの豆を、ひっきりなしに咀嚼していたので、「馬のように食べるんじゃない」と叱咤されるたびに「午年だからねぇ」と不明な言い訳を繰り返す子どもだった。

無心で口に放り込みつづけ、目の前に積み上がった山が空の鞘だと気づいたときにはオーバードーズ。はちきれそうな腹を抱えて、慌ててコソコソとゴミ箱へ隠蔽する。その後の夕食はたいてい苦行となる。

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鞘の端をひとつひとつを切るのが一番めんどうな作業だ

枝豆は鞘の片方をハサミで切り、塩ふたつかみほどでよくもんでから茹でるが、黒豆の場合は皮も分厚く硬いので、塩で揉んだくらいでは味が入らない。なので、茹でたてに少量の追い塩をする知恵もついた。

ゆで時間も長めで、5〜7分ほどだ。鞘が割れて豆が出てきそうになったらザルにあげる。余熱で火が通るので、硬めに湯がくを心がけている。

母も老いてきた。
つまりは叔父と叔母はもっと老いているだろう。
あと何回、黒豆が食べられるだろう。
今年は一粒を大事に食べようと思う。