ふきのとうと違って年中出回っているふき。平安時代にも栽培されていた記録があるそうだが、それを世に広めたのは豊臣秀吉だったという説がある。
そういえば、先日読み終わったばかりの吉川英治の新書太閤記(九巻)にもふきの一節があった
山崎の合戦で明智光秀を討ち、ようやく姫路城に帰還したときのことだ。待ちわびた秀吉の母は、息子の好物である蕗味噌をつくろうと、雪が残る庭にでて、嫁の寧々とふきのとうを探す。
時期が早すぎたこともあり、やっとのことで見つけた12個のふきのとう。母はそれを側にいた家臣の瀬尾金五郎に分け与える。
そなたの家のご病人は近頃どうじゃの。この寒さでは持病も募ろう。蕗のとうは、痰持ちには無二の薬と聞いておる。煮るなと、汁に入れるなとして喰べさせてあげたがよい
金五の喜びは一入で、神棚に供えるほどだった。もちろん秀吉も、蕗味噌を前歯で味わうように噛みしめて、湯漬けをもう一杯おおく食べたという話。
日本の四季と家族の健康と愛を綴った美しいエピソードだった。
くさかんむりに路で蕗。昔はその辺の道端に生える雑草のようなものだろう。もともと極貧だった秀吉一族がこういった野草の効能を熟知していたとしてもなんら不思議ではない。秀吉がふきの栽培を奨励したのは、領民の健康を願ってのことなのか、それともただ自分が腹一杯になるまで食べたかったのかは謎である。
せっかくいつでも手に入るとはいっても、正直あまり料理しないふき。たいていはお浸しにするくらいなんだけど、ふきを下ごしらえするのはけっこう楽しいし、ちょっとした集まりに持っていくと、箸休めになるせいか、珍しいのか、喜んでくれる人がいるので、新春から春にかけては積極的につくるようになった。
一説によれば花粉症の症状を和らげる効果もあるそうなので、家人にも食べるよう、すすめている。
ふきの下処理
板ずりをする
「板ずり」は野菜に塩をふってまな板の上でこすりつける和食の技法だ。キュウリはフキは発色がよくなると同時に、硬い表面を傷つけることで皮が柔らかくなる。
まな板にフキを並べて、塩をひとつかみ塗したら、手の平でごろごろ転がして5分ほどおく。
キュウリの場合はこちらを参考に。
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筋をとる
フキの切り口から、スジをひっぱるようにしてとる。バナナの皮のように、筋を途中まで引いて、何本かをまとめて剥くと気持ちが良い。
左がスジをとる前で、右がスジをとった後のフキ。垢すり前後くらいに艶が違うじゃないの。
ここまで下処理できたら、水につけたまま冷蔵庫にいれておけばしばらくは日持ちするが、モノによってはアクがまわって黒く変色してしまうこともあるので、さっさと料理をしてしまおう。
今回は、ふきのお浸しをつくる。
つくりかたは二通りあって、ひとつは、調味液で短時間さっと煮たのち、フキと調味液を別々にして冷やして、最後に合体するやりかた。
もうひとつは、多めに調味液をつくって、ふきを二度漬けするやりかた。今回は後者でやっていく。
ふきのお浸し
調味液の比率は、出汁:薄口醤油:みりんを10:1:0.5の割合に塩を加える。キリッとした味わいにしたかったので、みりんを減らしたが、10:1:1でもいいだろう。あらかじめ、フキを保存する容器にふきを並べてみて、ふきがしっかり浸かる水分量を計っておくといい。
下処理したフキ | 好きなだけ | |
出汁 | 500cc | 出汁のとりかた |
薄口醤油 | 50cc | |
みりん | 25cc | |
塩 | 小2/1〜1 |
つくりかた
- 出汁〜塩を鍋にいれて一煮立ちさせてて、鍋ごと大きめのボウルにつけて冷やしておく。これが調味液になる。
- ふきを適当な長さに揃えて切る。太すぎるふきは縦に2〜3等分。
- 浸し液の半分をふきに注いで、30分くらいおく。
- ふきから水分がでて、調味液が薄まるので、一度調味液を捨てて、残りの浸し液を改めて注ぎ、数時間おく。
- 皿に盛って、鰹節をのせる。