「モデルになってくれ!」と依頼され、我が家にやってきたのはフォトグラファーの和田剛氏と、YouTube「MINI_LIFE」を主宰している動画クリエーターの北村氏だった。
撮らせてくれといっても、モデルは私「moggy」ではなく、「moggyの料理」のほうである。和田氏はいま、オンラインによる写真教室「good! studio」立ち上げ、写真の魅力とその手法について教えている。
今回のテーマは「おいしい。を伝える料理写真のテクニック」。
撮影するのは「ラーメン」「紫蘇のペペロンチーノ」「チキンカレー」「ステーキ」の4品だが、これを昼と夜のシチュエーションで撮影するというので、合計8品をつくることになる。
デカい機材が運び込まれた部屋はちょっとしたスタジオとなり、いつも通りを心がけるも動画カメラと目が合い念仏を唱えてやり過ごし、我が子を見送るような気持ちで料理を出す。
当日は和田氏のレクチャーを受けながら自分でも撮影してみたり、レフ板をDIYするなど、実践編も交えながらの撮影だったが、ちょっとしたひと手間で見違えるように自分の料理が美味そうに見えてくるから目からウロコがぼろぼろと剥がれ落ちた。
やっぱりプロはすごい! もう毎日君の食事をつくるから、毎日わたしの料理写真を撮ってくれませんか? と分の悪い交渉に踏み切るところだった。
現像されてきた写真はどれも、自分がつくったとは思えないほど美味そうな料理だったのでここで紹介したい。せっかくなので、ミニレシピもつけた。
動画は月末にYouTubeにアップされるそうで、正直、吐きそうなほど心拍数が上昇中。
動画がアップされました! とれ高がよかったみたいで、前後編(昼と夜)になったそうです。夜編には我が家の新入り黒猫のBONAもちょろっと登場しているので、よかったらご覧くださいませ。(2020.03.31更新)
マルタイの棒ラーメン
【昼編】目指すは健康そうな朝ラー
在宅勤務がはじまってそろそろ一年。ラーメンは我が家の定番ブランチとなった。最近はもっぱらマルタイの棒ラーメン一択だ。味のバランス、調理の簡便さ、省スペースなパッケージ、コスパ、すべてにおいてすっかりマルタイの沼にどっぷりはまっている。
具はチャーシュー(つくりかたはこちら)、半熟ゆで玉子(沸騰した湯で7分半)、小ネギ、海苔が安パイだが、そこに紅生姜を入れると、まるで口紅をひいたように顔色がよくなった。
やっぱり料理に色気は大事である。
【夜編】飲んだあとの〆ラー
麺も具もまったく同じだが、白濁したスープの濃厚さが際立って、昼よりも高級感がただよっている。室内が暗いにもかかわらず黒い海苔もしっかりと質感があり、罪悪感を背負ってでも食べたくなる深夜のラーメンとなった。
器はARABIA アラビア /Harlekin ハレキン のボウルを使用。
即席棒 状めんのパイオニア商品です。めんはノンフライ・ノンスチーム製法で仕上げた、生めんに近い風味のストレートめんです。スープはポークとチキンをベースにした風味豊かなあっさりしょうゆ味です。(公式HPより引用)
紫蘇のペペロンチーノ
【昼】南イタリアの風そよぐペペロンチーノ
軽いランチでよくつくるのがペペロンチーノ。紫蘇がもさもさ生える夏は特に出番が多い。
コツは、紫蘇をあまり細かく切りすぎないことと、香りが飛ばないように仕上げに加えることだ。
材料とつくりかた
パスタ | 80g | ディチェコ11番 |
ニンニク | 1片 | みじん切り |
紫蘇 | 10枚 | 太めの千切り。飾りようもとっておく |
オリーブオイル | たっぷり | |
鷹の爪 | 小1本 | 二つに割って種をとる |
- パスタは1%の湯で芯が少し残るくらいまで茹でる。
- 紫蘇は5分ほど水にさらしてアクをとり、水気を絞る。
- オリーブオイルを二回しくらい、ニンニク、鷹の爪を加えたフライパンを弱火で加熱。香りが出てきたらパスタの茹で汁を60cc加えて、よくかき混ぜながらもったりするまで馴染ませる。
- パスタは水を切りすぎないように加えて、ソースがとろりとするまでトングでかき混ぜまくる。好みで塩・胡椒、追いオリーブオイル。
- 紫蘇をほぐしながら和えたら皿に盛りつけ、追い紫蘇を飾る。
部屋の電気を消し、まずは俯瞰で撮影。パスタより切っただけのトマトがむちゃくちゃ美味そうに見える。
そこで麺をフォークでもちあげて、横から撮影してみると……あぁ、ここは南イタリアですか? と錯覚するようなまぶいパスタになった。
ここではレフ板の使い方も教えてもらいながら、東戸塚の光を南イタリアの光に偽装…ではなく演出する技術を学ぶ。
器はビレロイ&ボッホのリム皿を使用。
【夜】富豪のお夜食ペペロンチーノ
私が特に悩んでいるのが、夕飯の撮影である。家の照明ではどうも「美味そうに」撮れず、悶々としながら8年はたっている。
そこで和田氏が取り出したのがソフトボックスなる機材。フラッシュの光をいい感じにしてくれる箱みたいなものだ。
ともすれば「貧乏人のパスタ」と呼ばれてしまうペペロンチーノ(正確にはスパゲッティ・アーリオ・オーリオーだが)であるが、実際に撮れた夜のペペロンチーノは、完璧にレストラン仕様だし、もはや「富豪のお夜食パスタ」に改称してほしいくらいのポテンシャルを叩き出した。
スパイスたっぷりチキンカレー
【昼】カフェ風チキンカレー
カレーをはじめとする液体物の撮影に苦労するのは、なんだかのっぺりとスライム化して謎の物体となってしまうことだ。
和田氏が撮影した3枚のカレーは、食卓にのせる位置を変えただけにもかかわらず、それぞれ趣きが異なる。
サイド光で撮ったもの(写真左)は、カレーの色合いがいちばん見た目に近く、ふんわりした優しいイメージだ。
残りの二枚は液体に照りがあり、洗練されたラウンジ的な雰囲気を醸しだす。これらは逆光で撮影したもだが、ここからさらにひと手間加えることになる。
プロの撮影では白、銀、つや消し銀、黒という4つのレフ板を駆使しており、カレー皿の手前にレフ板を立たせることによって米粒の質感が際立ってくる。
ライスが手前という、自分では思いもつかない構図で、たしかにカレーの液体なんてどこ撮ってもたいして変わらんものなぁ、と納得。惜しむらくは、パクチーの位置だよな。
つくりかた
カレーはいつものチキンカレーなので、レシピは過去記事からどうぞ。
konpeito.hatenablog.jp
撮影を効率よくこなすべく、煮込みは前日までに行い、食べる直前にガラムマサラを加えてある。
付け合わせはラディッシュの塩もみ。以前紹介した和食の技法で、3%の塩水にひとかけらの昆布を加え、薄切りしたラディッシュを一晩漬け込んだ。
konpeito.hatenablog.jp
器はマンゴーシャワーのリムつきオーバルプレートL。
【夜】野菜たっぷりご機嫌カレー
夜のカレーは、付け合わせ野菜をがっつり増やした。これは単に、健康のため、にほかならない。
左から、ラディッシュの塩もみ、うどの皮のきんぴら、トマトと甘唐辛子のアチャール、山うどのヨーグルト和え、ほうれん草とジャガイモのサブジ。
カレーが十分スパイシーなので、付け合わせはスパイスを多用しなくてもいいというのが個人的見解である。もとい、このカレーには日本の総菜や漬物がとても合う。
撮影は例のソフトボックスを使う。室内が薄暗いにもかかわらず、写真がちゃんと撮れていることに驚愕。昼に比べて液体の艶っぽさが引き立っており、手前味噌にも「うっまそ〜」とつぶやくほどだった。
器は波佐見焼のAZTECA アステカ シリーズ。
ステーキ
【昼】ご褒美ステーキランチ
昼のステーキに用意したのは100gの和牛モモ肉。いい感じでさしが入っており、厚みは1cmもないので、火入れは強火でさっと手早く、アルミホイルに包んで休ませた。
和牛に関しては塩・胡椒もしくはワサビ醤油が鉄板なんだが、今回は生胡椒を添え、バルサミコソースで洋皿に盛る。
konpeito.hatenablog.jp
付け合わせはクレソンと紫芋のマッシュポテト。蒸かした紫芋を熱いうちに裏ごしし、たっぷりのバターと牛乳で練り上げた。
ここではレフ板に加えて、レースのカーテンが活躍する。二枚を並べて比較してみると、右の写真のほうが肉のテクスチャーがよりはっきりと出てるし、皿もやや温かみを感じる風合いだ。
器はALESSI アレッシィ/HIKURI ヒクリシリーズの大皿。
【夜】ビストロ風がっつりステーキ
ようやく8品目、ラストの撮影だ。
夜は200gの豪州産肩ロースを焼く。昼の国産よりも厚みがあるので、フライパンで焼いてはアルミホイルで包んでを繰り返し、完璧な火入れを目指す。肉を休ませているあいだに、付け合わせ(紫芋、本しめじ、パプリカ、パクチョイ)を焼いておこう。
肉汁にバターとワインを加えてソースとし、ガリッと黒胡椒を散らす。
満を持して、ナイフを入れる。
きた〜!赤身カモン!
一発勝負だったので、緊張通り越して吐く寸前だったが、まずまずの出来である。というか、美味そうである。これ、自分が焼いたのか? という疑念すらわいてきた。
昼に比べて、よりがっつり、よりわんぱくに、よりビストロ風な写真に仕上がっている。写真を眺めているだけで今、赤ワインに手を伸ばしている自分が恐ろしい。
器はSyuRoの炻器の大皿。
8時間におよぶ収録が無事おわり、大団円! とはまだならない。むしろ、ここからが本番、つくった料理をすべて食べるのだ。
料理写真は、食べ終わるまでが撮影です。