すっかり秋も深まって、いつのまにやらカボスの季節。毎年思うことなんだが、あと数ヶ月で一年が終わるなんて震撼する。今年はいったい何をやってきたんだろうと。
さらに参ってしまうのは、毎年のように「これはカボス? それともスダチ」と同じ会話をくり返していることだ。
ざっくり言うと、実が大きくて大分県産がカボス、小さいのが徳島産のスダチなわけだが、これを取り違えるとカボス県民もスダチ県民も大変マッドな状態になるので、両県民を前にしてどちらか判然としなければ細心の注意を払いたい。余談だが、『日本食材百科事典』によるとスダチは「酢を絶つ」が語源とされ、スダチが出回る頃になると酢が必要なくなることからこの名前になったという。
さて、カボスに戻ろう。カボスはふぐ料理には欠かせない柑橘なわけだが、ふぐの免許を持っている我が心の師匠は、カボスの季節になるとある作業をするという。調理場でひたすら作業。これをするとカボスが断然ジューシーに、口当たりもよくなるから欠かせないのだという。
「板長、教えてください!」
カボスをジューシーにする裏技
作業手順は簡単。カボスを地球に見立てるとすると、赤道あたりの皮をぐるっと一周むくのである。名付けて世界一周。実を削らないように、白い皮を残してほしい。
そして、干す。
どれくらい干すのかというと、白い皮の部分がカチカチに固くなるまでだ。
半信半疑のままカチカチになった白い皮にナイフを入れると、果汁がぴゅっと勢いよく飛びだした。乾燥させたのに、不思議な現象だ。科学的にどう説明できるのかはわからないけれど、想像以上に切り口から果汁が溢れてくるのだ。
そして板長のいうとおり、たしかに酸味がまろやかになっている。酸っぱいものを食べたときに耳の下に走る痛みがない、食べやすいカボスだ。
まずは鯵で大分名物りゅうきゅう風に。
「りゅうきゅう」は、アジ、サバ、ブリ、カンパチといった魚を一口大に切り、調味料(醤油やみりん)と薬味(紫蘇、胡麻、ショウガ、ネギなど)を合わせたタレに漬け込んだものだが、大分だけの名物にしておくにはもったいないほど美味い代物だ。
今回は細かくした鯵に薬味を混ぜ、カボスをぎゅっと絞って醤油で食べる。
左手に持つのが日本酒だろうが白飯だろうが、止まらなくなる美味さである。