週に一度は、新聞やペットボトルといったリサイクル系のゴミを捨てに、湯河原のスーパーを訪れることにしている。ゴミを捨てるだけでポイントが溜まるというシステムが、自称ポイント乞食である家人のガッツに火をつけてしまったのだ。
通常運転なので諦めつつも、車で引率してくれるのはありがたい。このスーパーは魚屋も肉屋もたいへん充実しており、我が家の生命線ともいえる存在になっている。だが残念ながら、その日はめぼしい魚に出会えず、ボウズで店をあとにした。伊豆山の魚屋・魚久ならきっとなにかあるだろうと、車を走らせる。
閉店間際にもかかわらず、魚久は混んでいる。仕事帰りであろう面々が立ち寄るのであろう。逆に執行猶予が与えられるため、じっくりと魚を観察できるこちらとしてはありがたい。惣菜はほぼ売り切れだ。
悩んだ末に鯵を3尾、塩鯖、豆腐を購入する。そういえばアジフライが食べたかったのだ。
家につくやいなや鯵を三枚おろしにする。
驚いた。臭いがまったくないのだ。魚を触ればもれなく手に臭いが移るものだと思っていたが、それがない。そして薄いピンク色をした身はどこまでも清らかだ。すべて油に投入してしまうには乱暴すぎやしないか。
急遽、1尾だけ刺身へと梶をきる。
頭とアラも使ってしまおう。火を通してしまったほうが、ゴミ収集日の関係上なにかとよい。
霜降りしたアラは酒と昆布ひとかけらを加えて、20分ほど煮出す。船場汁にすべきか、味噌仕立てにすべきか岐路に立たされるが、今日は後者で手を打った。具は大根とネギ。
刺身は薄切りにしてネギとショウガを添え、アジフライは天ぷら粉をバッター液にして揚げる。卵高騰のおり、そうやすやすとは使えない。
「全部刺身でもよかったなぁ」と家人は口惜しがった。「これは揚げるにはもったいないヤツ」という評だ。たしかに脂のノリは最高潮だし、薬味が邪魔になるほど爽やかだし、熱々の白米にバウンドさせて口に運べばおもわず鼻息が漏れてしまう、そんな鯵だった。
少ないからとお互い遠慮がちに箸をうごかしていたが、きっとこれぐらいが適量だろう。「もうちょっと食べたい」それくらいがちょうどいいのだ。
庭の柑橘の花びらが落ち始め、甘い香りをふりまいている。この時期の鯵は少々値が張っても買うべきだということがわかっただけで、人生の具合は少々よくなる。