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時速1kmの思考

ミノカサゴの焼き霜と骨せんべい

ミノカサゴ, みのかさご
朝どれミノカサゴ

伊豆山は魚久で気まぐれに陳列される本日の宝箱、いやトロ箱鮮魚(重量換算で100g120円)で掘り出したのはミノカサゴ。小学校にあがる祝いとして祖父母がくれた魚図鑑ではド派手に裏表紙を飾っており、そのうえアンタッチャブルな毒持ちときてるから、なにより一番最初に覚えた、奴だ。
是が非でもほしいアイテムだが魚に関しては超タカ派の家人はあからさまに乗り気でない顔つきだ。というか目を合わせようとしない。魚屋の親父を味方につけて、ミノカサゴを買ってくれとごねる。諦めた家人、好物のカイワリアジも買うことでディール。

ミノカサゴミノカサゴ
ヒレだけでなく顔に生えている棘もけっこう危険

まずは毒があると言われてるヒレをハサミで落とす。顎のあたりから喉にかけて、昭和の氷カップのような乳白色が美しい。つぶらな出目は透き通っている。目の上に小さな棘あり、気をつけたし。ウロコは薄く、なでるだけで簡単にとれるし、内蔵は腹からポロリとキモ離れよい。血合いもキレイなもんだ。さい先良しと頭を落とすべく腹びれから頭に包丁をいれたが、ここでつまづいた。頭蓋骨が屈強なのか、文字通り刃が立たず難航を極める。

ミノカサゴ
ヒレと落とすと滋味なミノカサゴ

三枚におろす際も不明な骨に遮られるが、力尽くでやれば緩い身が崩れてしまいそうだ。滅多にみせない集中力を集結し、慎重に刃先をすすめることになる。
おろし身は水っぽい。中華風に蒸すか、揚げるか、煮つけるか、アクアパッツァにするかと迷走したが、これだけ鮮度のいいミノカサゴと次いつ会えるというのか。やはり刺身で食べてみようと腹くくる。

端っこを食べてみたがやはり無味に近いので、脱水したのち刺身に切り分け、皮を炙って焼き霜にした。

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ミノカサゴ焼き霜

透き通る身は歯ごたえよし。炙ったせいかふんわりと控えめな甘みを感じる。確実に日本酒案件だ。オススメは塩とワサビ。醤油だと醤油の味しかしなくなるし、ポン酢だとあっさりしすぎた。

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ミノカサゴの骨煎餅

中骨と頭は、骨せんべいにする。さっと塩をふり、片栗粉をまぶして160度で20分揚げた。歯の治療中の家人にはやや試練だったようで、もう10分揚げてもよかったかもしれない。自分はバリバリと頭からいった。塩味もいいが、ポン酢がオススメ。やはりこちらも日本酒案件。

内蔵以外はすべて腹に収まった。翌日ポックリいってはしないかと懸念しつつ床についたが、両名健やかに早起きする。なにかしらの毒が効いたのかもしれない。
以上、現場の熱海からでした。


後日、国会図書館のサイトで見事なミノカサゴを見つけた。伊藤熊太郎というイラストレーターが描いたもので、紙面を泳いでいるかのように美しい。

【ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著【ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著
ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著)

日本魚介図譜 第1輯 - 国立国会図書館デジタルコレクション

漁師たちはミノカサゴを「山の神」と恐れて手を出さないとある。海に住まう者が山の神を恐れる理由はわからないが、日本における山の神は、一般的に女性だ。舞泳ぐ美麗な姿を女神として崇めるがいいが、うっかりお触りしようものなら痛い目みるよ、という戒めめいた民話調の説明も魅力の図鑑で気に入った。

そして肝心の味の評価は「その風味も佳良」とある。佳良、つまり「かなり、良い」ということだ。
しかしながら、「近代魚類分類学の父」である田中茂穂先生は、どの著書においても「不味い」と一刀両断している。
味覚というのはそれぞれである。