カツオが房総半島沖まで北上してきたようで、勝浦漁港から届いたカツオが毎週末、陳列棚を席巻している。
スーパーで売られているカツオには若干懐疑的なんだが、「朝どれ」「直送」という言葉に惹かれて、ダメ元でひと柵買ってみた。
柵をしっかりとキッチンペーパーに包んで、しばらく冷蔵庫に放置したのち、研いだばかりの包丁で切っていく。色があまりよくない。やはり失敗したか!? どよーんとした気分になりながら、皿に敷いた新玉ねぎの上に並べ、ネギと生姜を散らした。食卓に運んで、一同驚愕することになる。
空気に触れた切り口がすっかりピンク色に変わっているではないか! あまりの美しさに息をのんだ。やっぱりカツオは柵で買うべきなのだ。刺身用に加工してあるカツオではこんな色は出ない。もっと赤黒いというか、時には虹のような膜がはっている。
期待を堪えて一口食べてみると、ふんわりと軟らかく、苦手とする鉄臭さもまったくない。背身のためかなりあっさりしているので、薬味も最低限でよかったのかもしれない。うっかりカツオが好きになってしまいそうだ。いまさらながら「目には青葉山ほととぎす初鰹」という山口素堂の句に胃袋から納得。
そこで翌週もカツオの刺身。次は腹身だ。
薬味は、紫蘇、ミョウガ、ネギ、ニンニク、ニンジン。カツオはそぎ切り気味の薄切りにして皿に並べ、中央に薬味を山盛りにして、カツオで巻ながら好き好きで食べられるようにした。
個人的な嗜好いえば背身のほうが好きだったが、薬味はこちらのほうが好み。おそらく、さっぱりした初カツオに生姜は強すぎるのかもしれない。
柵をひとつ買うと、二人暮らしだと少し残ってしまう。なので1/3ほどは漬けて翌日に持ち越した。醤油とみりんと酒を1:1:0.5で合わせて、薄切りにしたカツオを丸一日漬けた。薬味は紫蘇、ミョウガ、胡麻だ。
「冷酒カモン!」な出来映え。しこしことした歯ごたえで、昨晩のカツオとはまた別物。濃いめの味付けが日本酒を後押する。
こうなるともう我慢できない。飯が食いたくなった。
飯にのっけて、熱い出汁をかける。海苔をひとふり。色がさっと変わったところをかきこむ。
思わず唸ったあと、黙り込んでしまう。うまい。何杯でもいける。
そぎ切りにしたことが功を奏したらしく、茶漬けにはぴったりだ。
1/3と言わず、もっと漬けておけばよかったと激しく後悔。「女房を質に入れてでも食え」という江戸っ子の心意気が胃の中で狂喜乱舞しているのだった。