春一番が吹く少し前、店頭ではサヨリ(細魚)が銀色に輝いていた。長く伸びた下顎が紅に染まり、「海の貴婦人」という別名が実にそれらしいが、「さよりのような人」と言われたら、見かけによらず「腹黒い人・女」という意味になってしまうから日本語は面白い。
品のいい見た目とは裏腹に、その腹の黒さは料理人も敬遠するほど。内臓を掃除していると爪や指が黒くなってしまうので、サヨリの出回る時期は、わざわざ割り箸に布を巻いたサヨリ専用の掃除棒が登場するそうだ。
とはいえ、その腹黒さに目をつぶるほどの美人を食べたい衝動はなかなか抑えられるものではなく、さっそく板長に捌き方を教えてもらった。細くて、小さめのサヨリだったので、最初は神経を使ったけれど、ようやく慣れてきたころだ。
サヨリをさばく
うろこをとる。
腹びれが硬いので取り除く。お尻のほうから包丁を滑らせて、引っかかったところを切りとる。
エラをとる。
腹から尻にかけて包丁を入れて、内臓をかき出す。
このように、サヨリはかなり腹が黒い。よく洗って、黒い被膜を取り除く。
きれいになったら、水気をしっかりふきとる。
大名おろしにしていくが、今回は頭を残すやりかたで(理由は後ほど・・・・・・)。頭から胸びれにかけて斜めに包丁を入れて、左手で押さえつつ尾まで骨に沿っておろしていく。
下身(裏側)も同様におろしていくが、なんせ身が薄いのでちょっとやりにくい。
右利きの場合、左手で腹骨のところをすこしめくり上げてやると包丁が入りやすい。
皮をとる。包丁でもいいけれど、意外と手でもするりとむける。たった3尾だと少なすぎるけど、大漁であれば皮を串に巻き付けて塩焼きするとよき酒のアテになるんだそう。
身を少しだけ重ねながら整列させて、端を切りそろえ、半分に切る。
さて、いよいよ盛りつけだが、頭を残したのでこんな遊びをしてみる。
尾をくるりと丸めて、エラがあったところに差し込むんで台座をつくる。
骨の台座に、紫蘇や大根などの薬味をのせて、刺身を盛るのだ。
普通に盛ってもいいんだけどね。その場合、頭と骨が残るわけだが、使い道は他にもある。
干して揚げると、頭ごと食べられる骨煎餅になるのだ! 板長いわく、「捨てるところ一切なし!」である。