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時速1kmの思考

便器大国ニッポンの、奥深き便器の世界

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By 浪速丹治 - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=43882203

三軒茶屋にあるタイ料理店で呑むことになった。メンバーは一人をのぞいて初対面だったので、やや緊張気味で挑むが、話は盛りあがり、くいくいと酒がすすんでいた。

一人がトイレに立ったので、隣に座っていた自分もついでにいっておくことにした。トイレは男女共用で、長方形の狭いスペースに無駄なく水洗洋式便所が設置してあった。

早く会話に戻らねばと、必要最低限の動きで用を足し、トイレのレバーを引いた。
ざーーーー。
大音量とともに勢いよく水が流れていく。手を洗い、髪の毛を整え、さて出ようと足もとを見ると、履いていた革のパンツがびしょ濡れではないか。
 
ガッデム!(と心の声)
 
トイレットペーパーでふきとっていると、タンク側に貼ってある手書きの紙に目がとまる。
 
「水が跳ねるので、便座を閉めてから流してください!」
 
本場タイのぼっとん便所(ちなみにトイレには紙がなく、桶に水がはってあり、手で洗う)のほうがまだマシだ! とまではいかないが、くさくさしながら席に戻る。
しばらくすると、もう一人がトイレに立ちあがり、ほどなく戻ってきた。なぜかその顔は嬉しそう。相当な大物を出してきたのか・・・・・・と勘繰っていると、
 
「ここの便所、TOTO製のXXXX(型番)だよ! ずいぶん古いの使ってるな〜。あんなの久しぶりに見たよ」

 

聞けば、彼は某トイレメーカーに勤めたあと独立し、いまは法人や個人にトイレやクーラーなどを販売している経歴の持ち主だった。まさにトイレのプロが目の前にいたのだ。

トイレにはいると型番をチェックしてしまうのは、職業病だろう。以前、病院で便器の型番を確認していたら、看護師に「どうかされました?」といぶかしがられたという。型番は便器の背面に明記されているから、かがんでのぞき込む姿勢をとらねばならない。想像するに、かなり怪しい男である。

さて、話を戻そう。

そのタイ料理店に設置してある便器は「洗い落とし式」という洗浄方式で、水の落差を利用して汚物を流す、最もシンプルな構造のものらしい。日本でも古くからある安価なタイプだが、水の飛び散りがひどく、つまりは雑菌なども繁殖しやすいため、最近ではめったにお目にかかれない代物だ。

洗浄方式には、メーカーによっても異なるが、サイホン式やブローアウト式など、さまざまな種類があるそうだ。我が家はTOTOのC790だったので、サイホン式で、家庭用便器としては一般的なものだ。

両国国技館には力士専用の便器もある。強度はもちろんのこと、座ったときの肛門の位置などを緻密に計算しつくしたその便器は、メーカーの社員たちの涙ぐましい努力の結晶であり、業界では有名な話らしい。まったく、便器大国ニッポン万歳なのだ。

ちなみ、中国の観光客が爆買いしていくものひとつに、ウォシュレット付きトイレがある。「インバウンド効果を狙って、海外でも便器を売ったらどうですか?」と提案してみると、
「海外では使い物にならないよ」
と彼はいう。水質、電気、水量が、まったく日本と異なるからだ。もちろん、使えることは使えるらしいが、おそらく1年ほどで壊れてしまうだろうという話だ。もちろんそのメーカーの現地法人があれば修理してもらえるのだろうが・・・・・・。
奥深き便器の世界にどっぷりはまった三軒茶屋の夜。