これほど野球に夢中になったのはいつぶりだろう。
侍JAPANは快調に駒を進めていたものの、気がかりだったのは日本の三冠王・村上選手のことだった。
絶不調のど真ん中。顔つきはどんどん暗くなっていくなか、絞り出すような笑顔がまた見ていて辛い。「日本の四番」という重圧を背負って、次こそはと打席に立ち、どうにもうまくいかない現実と向き合うのはどれほど苦しいことだろう。
Twitter上には心ない言葉が溢れていた。このまま打たずに終わってしまったら、この若者が戦犯になってしまうような、嫌な空気が漂っていた。普通の社会人ならまだ新卒くらいの青年が、取引先で商談がまとまらなかったからといって、ここまで責められることはなかろうに。
WBCの日本vsメキシコ戦の朝。
相変わらず村神様は本調子ではない。打順も4番から5番にひとつ落とした。この日も消極性が目立ち、第4打席までに3三振。
しかもメキシコが有利に試合を進めていた。「あぁ、もうだめかも」と思わず口に出してしまうと、家人が怒った。「スポーツを見る資格なし! まだまだ終わってないし、観戦中ネガティブなことは言うな。気分が悪い」
たしかに、そうだ。できることは黙って、祈って、応援するくらい。それにしたって、いても立ってもいられないヒリヒリした試合である。
9回裏、日本が1点のビハインド。大谷、吉田が出塁して村上に打席がまわってきた。
もしかしたらメキシコ側にも「今の村上なら打ち取れる」と踏んだうえでの、吉田へのフォアボールなんじゃないかと邪推が止まらない。あと1点が遠い。
1球目。ファール。惜しい!
2球目。ボール。ふぅ~。
そして3球目。打った! どこまでいった!? いった?
鳥肌が総立ちしたその瞬間、ランナーが二人とも帰ってきた!
なんて男だろう。嬉しいやら安堵やらで感情がジェットコースターである。
メキシコの選手の一人が、がくっと膝から崩れ落ちたのが印象的だった。「劇的」という言葉をこれほど身をもって感じたことはない。
サヨナラヒットは何度リプレイしても泣けるシーンだった。
そして急激に、腹が減った。そういえば、野球に夢中のあまり朝から何も食べていなかった。
昼飯は簡単に済ませるつもりだったが、興奮さめやらず、花巻蕎麦をかき揚げ蕎麦に格上げ。このかき揚げは、村神様に捧げよう。
タマネギ、人参、桜海老、彩りに朝市で仕入れたイタリアンパセリを少々。たいへんワイルドな味のするパセリだった。
本題に戻ろう。かき揚げの話だった。
かき揚げは揚げ物のなかでも難易度が高いと思う。しかも惣菜コーナーで気軽に手に入る安さだし、どうせ揚げるなら天ぷらだろうという気もするし、苦労の割には報われない食い物な気もする。
でもこれほど経済的で栄養満点な食い物もない。有り余りの野菜で十分。原価数十円だ。熱々はやはりうまい。夜なら天ぷらだが、昼ならかき揚げ。そんな棲み分けがやんわりとある。
以前、師匠がかき揚げのコツを教えてくれた。
「一度バラバラにしちゃったほうがいいんだよ」と言いながら、揚げ油に箸を突っ込んで具を散らしていく。一家離散した具たちをまた集めていくと、あら不思議。ちゃんと丸いかき揚げになっている。まるで手品だ。原価は安いが、こういう技があるから店で出せるかき揚げになるのだなと知った。
ただ言うは易く行うは難し。真似しようたって、そうそう出来るもんじゃなかった。
あまりにうまくいかなくて、かき揚げリングに手を出そうとした反抗期もあったが、師匠の教えを反芻して多少、マシなかき揚げができるようになってきた。
なんど失敗したって家で食べるのだからいいじゃないと、気楽に試行錯誤する毎日だ。
かき揚げの心得四箇条
薄力粉をかき揚げの具材にまぶす
余計な水分をあらかじめとっておくことで、油はねが防止できる。さらに水っぽくならずにカラッと揚がる。
衣は混ぜない
粉と水は、菜箸やホイッパーで叩くようにして、溶かすように馴染ませる。市販の天ぷら粉の場合はそこまで神経質にならなくてもいいけれど、おまじないと思ってやっている。
分量を一定にする
菜箸1回か2回でつまめる具材を基準とする。
野菜とサクラエビのかき揚げ
まず前提として以下のような環境でつくっていることをお断りしておく。
- ベースはタマネギ。そのほか微妙に余っている野菜を掻き集めて登板。
- 使用しているのは昭和の天ぷら粉。我が家ではかき揚げはランチの定番。2人分の衣をつくるとなると不経済なため、天ぷら粉を積極的に利用している。
- 調理器具は岩鋳の揚げ鍋だ。これは蓄熱性が高いものの、口径が小さいので、かき揚げはひとつづつ揚げることをオススメしたい。
材料(かき揚げ3個分)
タマネギ | 2/1個 | 繊維にそって薄切り |
サクラエビ | 大さじ1 | |
その他野菜 | 水菜、春菊、人参の葉や皮、三つ葉、イタリアンパセリ、紅ショウガetc | 冷蔵庫の残りと彩りを考えてお好きなものを |
天ぷら粉 | 大さじ4 | |
冷水 | 大さじ5 |
つくりかた
具材を整える
ベースはタマネギ半個。それに好きな具材を加えていく。
ボウルに入れて馴染ませる。
薄力粉を大さじ1〜(具材の水分量による)まぶす。
粉がボウルの底にたまらないくらいの分量がベスト。
天ぷら粉と冷水を合わせる。水と粉は容量比で1:1が基本とされているが、すでに具材に薄力粉をまぶしているので、ややゆるめの衣にしている。1:1.2くらいであれば無難に揚げられる。
1:1.5だと衣はかなり水っぽいため、揚げるときに整形するのが難しいものの、軽くてさくさくのかき揚げになる。
揚げる
一定量の具材をとりわける。最近はシェラカップがマイブームである。
衣を大さじ2ほどからませる。全体がしっとりすればいい。
具材を滑らせるようにして油に投入。余裕があれば箸で具を広げる。水分で油はぼこぼことしている。
やや固まってきたら、具材を寄せ、鍋肌に沿わせながら丸く整形する。
表裏ひっくり返しながら揚げる。数分で揚げ油の気泡が小さくなってきたら出来上がり。
a. 右が、粉:水が1:1.5。160度で揚げたかき揚げ。
b. 中央は(a)に粉を少々足して170度で揚げたかき揚げ。
c. 右は’(a)に粉を少々足して160度で揚げたかき揚げ。
試食してもらったところ、(a)は上品、工場で揚げたような均一性、かき揚げ然としている。
(b)と(c)はフライドオニオンのような強い風味、食べ応えがあり。
最後は好みの問題になってくるとは思う。
かき揚げってのは一筋縄じゃいかないところに魅力があるのかもなぁ。
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