ここ10年でクミンというスパイスは日本に深く浸透したように思う。
クミンを使い始めたきっかけはスパイスカレーだったが、当時は近くのスーパーでは売っておらず、専門の業者から取り寄せていた。ところが今やクミンは胡椒の隣に鎮座するほどの出世ぶりである。
そして最近、スーパーでは羊肉もよく目にするようになった。需要と供給のバランスだろうか、この5年ほどでみるみる価格も高騰。今日はいちばん安い、切り落とし肉をクミンと一緒に炒めることにした。いちばん安い肉のせいもあるのか、やや固めで羊独特の臭みも強い。そこでしっかりと下味をつけることでその臭みを旨みに変えていきたい。
中国5000年の技で肉に下味をつける
肉は一口大に切っておき下味をつける。これは中国料理における上漿「シャンジャン」という工程になるのだが、食材に下味をつけるとともに軟らかくし、臭みを和らげ、舌触りが滑らかになる効果がある。はっきり言って、安い肉、硬い肉、風味の少ない肉ほど効果絶大。かつて食材の保存や流通の確保に乏しかった中国ならではの食の知恵はすばらしい。逆に、質の良い肉はそのまま食べたほうがうまいだろう。
下味をつける順番は、酒、塩・胡椒、醤油といった調味料の後、卵、片栗粉、油でまとめていく。
食材100gに対して以下の分量を目安にしているが、料理や食材やその切り方、そして料理人によってもその分量は一定ではない。
食材100gに対する下味の調味料
酒 | 小さじ1 | 紹興酒や日本酒 |
塩 | ひとつまみ | 三本指でつまんだ分量 |
胡椒 | 少々 | |
醤油 | 小さじ1/2 | 色を白く保ちたい料理や食材、たとえば鳥ササミ肉やエビ、ホタテなどには使わない |
溶き卵 | 小さじ3 | 全卵 or 卵白 |
片栗粉 | 小さじ2 | |
油 | 小さじ1 |
① 調味料で味をつける
食材はキッチンペーパーなどで余計な水分をとっておくことが大前提。
まずは酒を加えて指先で揉み込む。食材から失われた水分を補うイメージなので、ボウルを傾けたときに流れないくらいの、かつ肉が自然に酒を吸収できる分量だ。
肉の場合は紹興酒、魚貝の場合は日本酒のほうが合う。
次に塩・胡椒を加える。ここでも優しく指先で揉み込む。
醤油はオプションと考える。赤身肉の場合は風味がよくなるが、たとえばササミはエビといった白い食材には加えないほうがいいだろう。
② 溶き卵を加える
溶き卵(全卵でも卵白でも)を加えたら、指先でリズミカルに、軽く叩きつけるような感じで揉み込む。卵が泡立ってとろりとしてくる。
③ 片栗粉を加える
片栗粉を加えて指先で揉み込む。卵と絡まって薄い糊状になればよし。衣がうっすらまとう感じだ。加熱するとこの衣が固まって、肉の水分や旨みの流出を防いでくれる。
入れすぎると唐揚げのようになってしまうので、様子をみながら加えること。
④ 油を加える
油を加えて指先でかるく揉み込んだら、落としラップをしてしばらく冷蔵庫で保存しておく。食材の乾燥を防ぐとともに、加熱したときに食材が剥がれやすくなる効果がある。
最初は計量して様子をみるのがいいが、慣れてくると感覚的な分量がわかってくるものだ。
たとえば紹興酒なんかは、蓋が約大さじ1弱の分量なので、それで量ってしまうし、最終的には糊のような状態にしたいのだから、ボウルに指をなぞってみて一瞬底が見えるくらい、とかそんな目安を覚えておけばいい。
長くなってきた・・・。これだけ別記事にしたほうがよさそうだな。
さて、羊肉のクミン炒めに戻ろう。
羊肉のクミン炒め
材料
羊肉(切り落とし) | 200g | 紹興酒小さじ2、塩ふたつまみ、胡椒少々、卵白大さじ2、片栗粉小さじ4、油小さじ2で下味をつける |
ピーマン | 2個 | 乱切り |
パプリカ | 1/2個 | 乱切り |
ネギ | 10cmほど | 千切り |
ニンニク | 3片 | みじん切り |
パクチー | 適量 | 乱切り |
クミン(ホール) | 小さじ1 | |
クミン(パウダー) | 小さじ1/2 | |
一味唐辛子 | 適量 | |
調味液 | ||
紹興酒 | 大さじ1 | |
醤油 | 大さじ1 | |
湯 | 大さじ2 | |
顆粒チキンスープ | 小さじ1/2 |
下ごしらえ①:クミンパウダーをつくる
クミンをから煎りして、ミルサーで粉状にひく。
フライパンでから煎りしてもいいし、写真のような胡麻炒り器も使い勝手がいい。今年亡くなった祖母の家から拝借したものだが、スパイスをいることになるとは祖母も思わなかったろう。捨てなくてよかった。
つくりかた
かんかんに空焼きした鍋に多めの油を加え、中火で熱する。羊肉を放り込み、中・弱火で7割火を通す。
まだ肉のピンク色が残るくらいでザルに引き上げて、油をしっかり切る。
鍋をさっと洗い、湯、塩ひとつかみと油を入れて(湯1リットルに対して塩小さじ1、油を大さじ1が目安)沸騰させたら、ピーマンとパプリカを茹でる。最終的に炒め合わせるので、完全に火を通す必要はない。だいたい20秒くらいだろうか。野菜の色が鮮やかになったらザルに引き上げる。
ここから一気に、肉と野菜を強火で炒めていく。
中華鍋に改めて油を加え、弱火でクミン(ホール)を炒める。
香りが出たらニンニクとネギを加える。
肉と野菜を加えて、強火で数回、大きくかき混ぜる。
調味液を加えて汁気がなくなるまで強火であおる。
中華料理を極めるオススメ書籍
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