未知との遭遇。熱海に移住してからは目を皿のようにして商店の棚をチェックしている。
目新しい食材に出会うのは楽しいものだ。「地物」シールが貼ってある魚と出会ったときのあの胸のときめき。時間も忘れて観察するのが移住後の新たな趣味となっている。
マンボウもそのひとつだ。都内では見かけたことがない。「格付チェック」でマンボウが登場したときから気になる存在ではあった。この番組は高級食材とそれを模した食材を目隠しをさせた芸能人に食べさせて、本物を当てるという趣旨だ。もちろんマンボウは「選んだらあかん」偽物食材なわけだが、見事に騙されていく芸能人をみて、「もしかしてすごくうまいんじゃないか」と睨んでいた。
最近気に入っているのはマンボウの腸、略してマン腸だ。腸が100尋(1尋=人が両腕を広げた長さで約1.5m)あるところから巷では「ヒャクシロ」と呼ぶのが正式らしい。
台湾では「龍腸」と呼ばれ、炒め物や和え物なんかに重宝されているうえに、マンボウ祭も催されているというから、並々ならぬマンボウへの本気度が伝わってくる。
試しにバターでソテーしたところ、「このイカおいしいね」とすっかりマンボウに騙されている家人はなぜかご機嫌だ。
腸はイカのような食感の部分と、牛ミノよろしくシャクシャクした歯触りの部分があったりと、一様ではない。畜産系ホルモンが苦手な家人にとっては、マンボウのホルモンは救世主であったらしい。「すごくおいしい」部類に認定されたのだ。
ところで、マンボウの捕り方、捌き方を紹介する『漁師の知恵袋 魚の捌き方食い方』が手元にあったので紹介しておこう。
物によっては1畳ほどの大きさのあるマンボウだから、その捌き方も特殊かつ豪快だ。
マンボウの横腹に、四角い窓を開けるような案配に、外皮を切り出す。マンボウは堤防に放り投げても平気な顔をしているほど頑丈な外皮で覆われており、その皮が5センチから10センチにもなることがあるから、鋭い大包丁と、かなりの力を必要とする。また、右側の腹には黒い臓物があり、それを破いてしまうとイヤな臭いが肉にまわってしまうので、マンボウは左側から捌くものだと言われている。
皮は、配緑色の表皮と違って、白蝋のようなきれいな色をしているが、こちらには要はない。この皮の蓋をヨッコラショと剥がすと、その下に、白い半透明の肉と、薄ピンクの肝と、黄褐色の腸が表れる。
それをバケツにとりわけ、普通の捌き方ならここで体をひっくり返すところだが、マンボウの場合は、そのまま軟骨のような柔らかい中骨を切り取って、反対側の肉も取り出して終わる。
マンボウが海にぷかぷか浮いていたからといって、むやみやたらと手を出してはいけない代物だということだけは理解できた。
煮付け、唐揚げ、軟骨の酢味噌和えなどの調理法も紹介されており、ますますマンボウ料理に励まねばならぬと心に誓っているところだ。
ちなみに、マンボウとアカマンボウ(マンダイ)はまったく別物で、後者は刺身が絶品だそう。出会える日を心待ちにしている。
マン腸のペペロンチーノ
材料
マンボウの腸 | 120g | 塩もみをしてきれいに洗い流し、一口大にカット |
パスタ | 150g | ディチェコNO. 11 |
ニンニク | 1片 | みじん切り |
鷹の爪 | 1本 | 半分に割って種をとる。辛いのがOKならさらに細かく切る |
オリーブオイル | たっぷり | |
紫蘇 | 10枚 | 太めの千切り |
鍋はこちら。
つくりかた
- パスタは1%の湯で芯が少し残るくらいまで茹でる。(アルデンテ表示の30秒~1分前くらいを目安)
- 紫蘇は5分ほど水にさらしてアクをとり、水気を絞る。
- オリーブオイルを二回しくらい、ニンニク、鷹の爪、紫蘇の竺を加えた鍋を傾け、弱火でゆっくり加熱。香りが出てきたらマン腸を加え軽く炒める。
- パスタの茹で汁を60cc加えて、ソースを馴染ませる。
- 湯切りしたパスタを加えて、ソースがとろりとするまでかき混ぜる。好みで塩・胡椒、追いオリーブオイル。
- 紫蘇をほぐしながら和える。