11月の引っ越し、それによる腰痛の悪化、整骨院通いなどが続き、精根尽き果て泥のように寝込んでいた2020年の年末。今年はもう、おせちをつくるのはやめておこうと諦めていた折に、一本のメールが届く。
「よかったら一緒におせちつくらない?」
いま失業中の元板長H氏からだった。通年なら年末ぎりぎりまで営業で忙しくしているはずだが、今年は暇をもてあましているという。プロからおせちを学ぶ機会なんてそうそうあることじゃないし、それも自宅で手ほどきを受けるなど贅沢この上ない話なので、「いいんですか?」と遠慮するふりをしつつ、ほいほい話に乗ってしまった。
2021年のおせちづくりに立ちはだかったのは、やはりコロナだった。例年なら重箱やタッパーに料理を詰め込んで親戚宅で盛りつけるのが定番だったが、感染者が日に日に増え、飲食の仕方までもがセンシティブな問題になっているなか、はたして重箱をつつき合うのは大丈夫なのだろうか!? 悶々と考えを巡らせたのち、やはり別盛りこそ感染防止対策になるのではないか、という結論に至る。
そこでまず、100円ショップに足を運ぶ。小さなプラスチック製の重箱が150円だ。安いし、一人分として大きさも手ごろ。問題は、おせちを食べ終えたあとに、この食器をどう保管するかである。正直、来年まで大事にとっておきたい代物ではなく、かといって使い捨てるのも気がひける。数回かよって眺めてみたが、「きっとゴミになるに違いない」し、家人も「風情がない」と顔をしかめるので、プランBに舵を切る。
竹製の使い捨て弁当箱はどうだろう? その昔、母がおにぎりを竹の皮に包んでもたせてくれた。「にほん昔話みたい」と友人にはバカにされたが、竹の皮ならおせちの雰囲気も壊さないし、コロナには勝てないだろうが殺菌効果も期待できる。
12月28日に筑地へ食材の調達。折り詰め屋にも立ち寄り、ひとつ270円の竹皮の弁当箱を7つ買い求めた。
おせちづくり当日。
結局のところ、H氏は調理場という台所に立ったとたんに職人スイッチが入ってしまい、おせちづくりは思い描いていたほのぼの料理教室とはほど遠いものだった。「おせちは段取りとスピードだ! メモなんかとってる場合じゃない」と言い放たれ、私はただただ野菜の皮を剥きまくり、がむしゃらに鍋や皿を洗いまくっている横目で、怒濤のように煮たり焼いたりされていく食材たち。これはこれでなかなかよい経験だったが、全てが終わったときには立てないほど腰が逝っていた。
一人用おせちは家族の評判もすこぶるよく、「年一度と言わず、季節ごとにこういう食事がしたいなぁ」とリクエストされるものの、「いやいや、こんなもの一人じゃつくれませんから」とネタ晴らしをしてお茶を濁すほかなかった。
来年は重箱に詰める通常の正月が迎えられることを願いつつ、今年のおせちを振り返ってみたい。メモをとれないどころか、写真もほとんどなく、記憶を辿りながらつらつら書いてみたい。
2021年おせちの献立
2021年お節の記録
12月28日:筑地で買い出し&献立の整理
筑地へ繰り出し、買い出し。海老、あわび、はまぐりなど海産物をはじめ、いつも足りなくなる鰹節(秋山商店)や昆布(有限会社フナミ)、粒西京味噌などの調味料(北島商店)、正月らしく「寿」の焼き印がはいった干し椎茸やケシの実(つきじ味幸堂)、蒲鉾や田作り(野田屋)などを巡る。海老芋や百合根などの野菜を豊吉で仕入れたころには、布製のスーツケースはパンパンに膨れあがってしまった。
帰宅後、海産物は次のように処理。
- 鮑: 海水を浸した新聞紙に包んで冷蔵庫で保存。
- 海老: 背わたをとり、サランラップを敷いたバットに並べ、さらにラップを空気を抜くようにしてかぶせる。(背わたをとって冷凍しないと色が悪くなる)
- ハマグリ: ラップを敷いたバットに並べてぴっちり上からラップをかけて冷凍。
- 生椎茸 :軸をとり、笠を菜箸で叩いくようにしてゴミを落としたら、ヒダの部分を天にして、なるべく重ならないようにして寒い所に保管する。
12月29日:筑地で買いそびれた食材の調達
- 干し椎茸: たっぷりの水に砂糖少々を加えて一晩戻す。
12月30〜31日:お節づくり
浜吸い
一人分の吸い物は8せき、144cc。人数分より多めの水(10人分)に、昆布、ハマグリを入れて口を開ける。ハマグリが少なかったのか、水が多すぎたのか、味が薄くなってしまったので、追い鰹して、漉す。塩と10人分に対して薄口一滴で調味。塩は水の量から割り出してスプーンで入れる。
菜の花は湯がいて、地につけておく。
元旦当日、ハマグリの貝を合わせてお椀におく。地につけた菜の花とともに出汁で温め、柚子を添えて、汁をはる。
日の出蒲鉾(市販の小袖蒲鉾を使用)
刃先を蒲鉾の奥から半分くらい入れて、刃先が蒲鉾板に届いたら、刃先を押さえて(固定させて)左右に震わせるようにして切ると、日の出模様になる。
おつまみ風パリパリ田作り
フライパンで焦がさないよう魚を煎って、パリパリになったら火から下ろし、砂糖を二つまみほどパラパラふって馴染ませる。
銀杏酒煎り
あらかじめ殻をとってある、薄皮つきを購入。銀杏を重曹水に入れて火にかけて、常にお玉の背で転がすようにして薄皮を取り除く。力を入れすぎると実が潰れてしまうので注意。
水にさらして、取り切れなかった薄皮も取り除く。
炊いた米一握りと水を火にかけて、銀杏を加えてもちっと柔らかくなるまで煮たら、また水にさらす。
酒ひたひたに海水くらいの塩を加えて、銀杏を加えて、水分が蒸発するまで炒る。
冷めたら、串に刺す。
海老艶煮
背腸をとって、爪楊枝で「つ」文字にとめる。
薄口:みりん:酒を1:2:3で合わせて、沸騰したところに海老を加えて火を通したら、ザルにひきあげて余熱で火を入れる。煮汁をややにつめて、海老にからませる。
アワビ酒蒸しからの西京漬
アワビを洗って、昆布、水、酒、大根とその皮で煮る。鍋肌に灰汁がつくので、常に布巾で拭う。小さめの鮑だったので、2〜3時間で柔らかく戻った。
貝から身を外して、肝と口をとり、
さざなみ切りする(タコやアワビに使える切り方。刃先を寝かせて削ぎ切り→刃先を立てるを繰り返し)。
粒西京味噌に同量の酒とみりんでマヨネーズくらいの固さにのばす。バットに塗って、キッチンペーパーをしき、アワビを重ならないよう載せてペーパーで蓋をしてさらに味噌をのっけて1日冷蔵庫で寝かせる。
アワビの殻に盛りつける。
裏白椎茸
海老真薯をつくる(芝海老の冷凍むき身を購入)。
玉ねぎ1/2個ほどを少量のバターで炒めて粗熱をとる。
芝海老を水にさらして解凍し、背腸をひとつづつとる。水分をとったら、包丁の腹で叩き、すり鉢に移して腰が出るまで摩る。卵白を加えてすり、塩、薄口、かくしみりんを加えてさらにする。
卵の素(卵黄1個につき油36ccをゆっくりと注ぎつつ乳化させたもの)を加える。
玉ねぎを加えて混ぜたら、ラップに挟んで冷蔵庫へ。
椎茸の笠はごく細かい鹿の子に隠し包丁を入れる。
笠のうちがわに刷毛で薄力粉を薄くまぶして、真薯をたっぷりと詰め、蒸す。
粗熱が取れたら、2個ずつ串に刺して、表に幽庵地を塗りながら、直火で焼く。
半分に切って、表と裏を合わせて盛り付ける。
時間があればパン粉で揚げるバージョンもやりたかった。
がめ煮
干し椎茸 :たっぷりの水に少量の砂糖を加え、一晩椎茸をもどす。 椎茸の戻し汁の上澄、昆布、酒、砂糖、濃口醤油で強火で煮詰めていく。
京にんじん:梅にんじんと乱切りのにんじんを用意。 出汁、薄口、みりんで煮て、火が通ったら味を含ませる。 12:1:1くらいか。
ごぼう:乱切りにして、ぬかをいれた湯で茹でて、柔らかくなったら水にさらしてぬかをきれいに取り除く。
蓮根:花蓮根に切る。蓮根の穴と穴の間を包丁でVの字に切れ目を入れる。穴の周りを皮の中心から切れ目に向かって、穴に沿うよう、かつ丸みを帯びるように皮をむき、輪切りにする。
歯応えが残るようした茹でする。
タケノコ:水煮を購入したので、臭味をとるためにさっと下茹でし、乱切り。
タケノコ と蓮根は白さが残るよう、出汁、薄口醤油、みりんで煮る。
こんにゃく:縦三等分に切って、蛇腹こんにゃくに包丁を入れ、一口大にそろえ、茹でる。
鶏肉 :一口大にきる。 鶏肉を少量の油でいためて、こんにゃく、ごぼうも加え、出汁、醤油、みりん、酒で味を整える。12:1:1くらいから、10:1:1くらいに煮詰めるイメージか。
きぬさや :さやを取り除いて、熱湯でさっと茹でて、熱いうちに塩をひとつまみふる。
きぬさや以外のすべての煮物は、31日にもう一度火入れしてから常温に戻し、弁当箱に詰める。
焼き豆腐含ませ
出汁:みりん:濃口醤油を8:1:1の割合で沸かし、適当に包丁を入れた焼き豆腐を強火で煮ていく。ちょうどいい味付けまで煮詰まったら、火を止めて含ませる。
海老芋松風焼き
天地を切り落とし、六方に皮を剥き、縦に二つ割りにし、面取りする。繊維が残ると食感が悪くなるので、切り口に艶がでるよう、厚めに、尻のほうからひと息でしっかりむくこと。
米のとぎ汁で芋を湯がき、柔らかくなったら水に晒す。
ごく薄い味付け(出汁20 薄口0.1 みりん1 酒1 に塩と砂糖を少々くらいか?)で煮て、落としラップをして一晩味を含ませる。
酒、みりん、濃口醤油の三同割を合わせたたれに、地から引き揚げた芋がすっかり隠れるまで1時間つける。
金串に末広がりに刺して、松の実を表面に振りかけ、直火であぶる。
花びら百合根
百合根を花びらの形に包丁し、食紅を加えた水につけて色をつける。包丁を入れたところに赤い色がはいっていく仕組みである。茹でると色が褪せるので、なるべく強めにいれる。
熱湯でさっと茹でて、甘酢につける。
★甘酢は
水14 穀物酢7 砂糖522g 塩38g 昆布少々を加えて、さっと沸騰させる。
紅白酢蓮根
花蓮根に包丁して、縦半分に切る。花びらのほうに細かく隠し包丁をいれながら、適当な厚さに切って、食紅を加えた水に逆さに並べる。包丁をいれたところが赤く染まる。 歯応えがのこるようにゆがいて、甘酢につける。