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時速1kmの思考

サンノジとタカノハダイ

梅雨まっさかりの熱海。初島も大島も白く靄がかかったようで、冴えない日が続いている。
伊豆山の魚屋・魚久のトロ箱鮮魚はサンノジとタカノハダイ。そういえば魚久に通い始めて一年がたち、店主がトロ箱の魚を説明しにわざわざ店の奥から顔を出してくれるのが心強い。
2尾ともすでに〆てあったので、尾なし。朝どれだからどっちもイケルよと太鼓判をいただく。帰りがけにググってみると、両者とも「臭い」「不味い」などネガティブな記事が散見される。思わずアクセルをふかして家路につく。

サンノジ(ニザダイ


サンノジは尾のあたりに3本線があるから「サンノジ」だと呼ばれているんだろうが、一般的には「ニザダイ」が正式なようだ。皮はざらりとしたカワハギ系で、鱗はほとんどない。頭に切り込み入れて手で割くと、頭に内蔵がついてきれいに剥がれた。内臓はふれこみどおり臭く、腸は長い。骨は太くて硬く、腹骨なんて立派なもんだった。

皮をひくと赤い筋の模様が現れ、一見すれば鯛のようだ。脂ものっていてなめらかな白身の味わい。あの磯臭さがどこへいったのか?

サンノジ, ニザダイ
サンノジの刺身

タカノハダイ


タカノハダイはヌラヌラしたボディ。鱗が固くびっしりと並んでいるから、あちこちに飛び散るのでここが一番の難関だった。ヒレははじめに切っておいた方が、鱗がひきやすかったかもしれない。内臓はこちらもやはり、臭かった。新聞紙に包んで即刻ゴミ箱へ。
透明感のある白身で、歯応え十分。醤油よりもワサビ塩で喰うと、噛み締めたときに旨味を感じる。酢飯が欲しくなる味だった。

タカノハダイ
タカノハダイの刺身

釣り師の友人には「どちらもお刺身で挑戦する気にならないお魚です」とコメントをもらったが、たしかに、獲れたらすぐに締めないと、みるみる腐乱しそうではあった。魚屋のお墨付きがあってこその刺身なのかもしれない。


アラは湯通ししてから昆布、生姜の切れ端を放り込んで潮汁に。こちらも大変美味。

サンノジとタカノハダイの素麺


サンノジとタカノハダイのあら汁が残ったので、チマチマ身をほぐしておき、昼に素麺をぶち込む。
アラ由来とは思えぬ上品なスープ。味変で梅干しひとつ。
湿気を蓄えた生温い風吹く熱海。満足のいく昼食だった。

【24年度版】柴漬け in 熱海はキュウリを増量

スーパーで見つけた紫蘇を260円で求め、その足で八百屋に出向き、柴漬け用にナスとキュウリを買ったところで、「なんだよ、紫蘇ならたくさん余っていたのに」と店主は口惜しそうだ。
八百屋によれば、今年は和歌山の南紅梅を筆頭に全国的に梅が不作だったそうだ。そうなると赤紫蘇は二束三文で取引されてしまう。赤紫蘇のほとんどは梅干し用というわけだ。

柴漬け柴漬け
熱海産柴漬け

6/14。3年ぶりに柴漬けの仕込み。熱海に移住してからは初めてとなる。
柴漬けはナスが基本なんだが、家人はキュウリのほうが歯触りがあって好きだというので、24年度版はナスとキュウリの逆転現象が起きている。とはいえ柴漬けはナスについてる菌が大事なので、うまく発酵するかはちょっと心配ではある。

ナス3本、キュウリ9本で1160g、新生姜は去年アホほど漬けた甘酢を千切りにして再利用したものを150g。
つくりかたはいつもと同じ。ただし、紫蘇はそのまま漬けると絡まって食べにくいことを学んだので、ざく切りカットに変更した。

konpeito.hatenablog.jp
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6/23。漬けあがった柴漬けをビニールに小分けして空気をしっかりぬいて冷蔵庫にいれる。発酵が進んでいたようでしっかり酸味あり。もう少し早めにあげてもよかったが、腰痛で立ち上がるのもやっとの時期だったのでこればかりは仕方ない。

ジメッとした暑さを吹き飛ばしてくれる柴漬けは米泥棒と言わざるを得ない。キュウリ嫌いの自分が言うのもなんだが、キュウリが旨い。増量して正解だった。熱海の気候がバッチリハマったのかもしれない。

ウツボの唐揚げ

ウツボの唐揚げ, うつぼ
ウツボの唐揚げ

一昨日から腰痛がぶり返した。一歩足を踏み出すと腰から砕け落ちそうななか、這うようにして買い出しにでる。湯河原のスーパーをまわり、最後の力を振り絞って伊豆山の魚屋・魚久へ到着。ウツボ1つ50円!あの海のギャングが50円!一瞬腰の痛みさえ忘れてしまう。

「いまどき50円じゃなんも買えないわなぁ。あっ、うまい棒買えるか!」と店主は子どものようにケタケタ笑う。駄菓子と捉えればウツボは立派なもんだ。

構造的にはアナゴ系だと思うんだが、既に頭を落としてぶつ切りにしてあるので目打ちは出来ない。ひとまず粗塩でこすり洗いをして、よくすすいでから三枚おろしに挑むが、ぬるぬるした粘液に阻まれ包丁がまったく入らない。そういえばウツボが名物といわれる地域ではウツボ専用の洗濯機で丸洗いするとテレビで見たことがあり、そこまでして喰うかと驚いたものだ。手でちょっと洗ったくらいでは歯が立たないってことだろうか。

腰の踏ん張りがきかないから包丁にうまく力が伝わらない。直感的に「こりゃ怪我するな」と観念し、ブツをブツに切って揚げてしまった。塩、醤油、酒、生姜で下味をつけ、片栗粉と薄力粉混ぜて揚げる。

奇跡的に味付けバッチリハマった。なるほど、ウツボには背のあたりにエンガワのような細かい、でもしっかりした骨が縦に入っていて、かなり食べづらい。だがからりと揚がった皮のあたりはもっちりしてて、とても旨い。コラーゲンもさぞたっぷりであろう。骨のない腹側の白身なんて、フグのような味わいである。
うまく捌けたらいい食材なんだが・・・・・・こればかりは自分の未熟さを呪うしかない。といっても次回いつウツボに会えるかもわからないレア食材なので、なかなか難しいかもしれない。

後日、『漁師の知恵袋 魚の捌き方と食い方』をめくると、ウツボのとりかた、捌き方、食い方を紹介していた。次回のために、ここに記しておこう。

ウツボの捌き方】
ウナギの捌き方と同じである。まな板に横に載せて、目に千枚通しを打って固定し、背から開く。ただし、ウナギみたいにスンナリとはいかない。ウツボの皮は憎ったらしいほど厚くて丈夫だからだ。戦時中の物資がなかった時代には、ゾウリの上張りにウツボの皮をなめして使っていたほどなのだ。そうやって作ったウツボのゾウリは猫がくわえて持っていってしまう、という笑い話までオマケに付いている。
だから、まず、背の皮に包丁で切れ目を入れておいてから、身に包丁を入れて、ゆっくり広げながら開いていく。開いたら、ワタを取り除いて中骨を削ぎ取る。皮はそのまま。


余談になるが、魚久では手作り惣菜が日々店頭を賑やかしているが、あると必ず買ってしまうのが海老マカロニサラダだ。海老はこれいじょうないほどプリプリで、こってりしたマヨネーズが海老と固めにゆがいたスパイラルのマカロニに絡まって、なんだか家では出せない絶妙の味かげんだ。

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豚肉とナスの発酵青唐辛子味噌炒め

青唐辛子の旬は7月頃から始まる。
去年大人買いした青唐辛子は瓶に詰めて、5%の塩水で発酵させた。そろそろ一年がたち、すっかり退色してこなれた味になっているものの、想定以上に辛さは抜けず、我が家ではウェポン(兵器)という不名誉なあだ名がついている。どの料理に使っても「半本で十分だ」「殺す気か」などと手厳しい言われようで、なかなか減らない。まもなく青唐辛子の季節が巡ってくることを思い出し、夏休みの宿題よろしくあわてて追い込みをかけているところだ。

アラビアータ、ペペロンチーノ、インドカレーなどに混入させることしばしばの発酵青唐辛子。先日は豚肉とナスの味噌炒めに忍ばせてみたんだが、これがなかなか塩梅よしだった。
「青唐辛子味噌」というご飯のお供があるのだから、そもそもの相性はいいだろう。甘みが加わることで、舌に鞭打つ痛さが、知覚過敏くらいマイルドに感じられる。とはいえ辛味成分の含有量は同じなのだから、調子にのると危険ではある。

「町の定食屋っぽい味つけだね」と、家人は白米を3割増しでかきこんでいた。八百屋に並ぶナスも上等になってきたから、今月は頻繁につくっていきたい。

豚肉とナスの発酵青唐辛子味噌炒め

材料

豚こま肉 100g できるだけ脂身が多いところ。一口に切り、塩と酒少々で下味をつける
ナス 2本 斜めに隠し包丁をいれて、一口大に切る
パプリカ 1/4個 ナスに大きさをそろえて切る
ネギ 5cm ネギを回しながら斜めに細切り
合わせ調味料
味噌 大さじ2
砂糖 小さじ3
豆板醤 小さじ1/2
鶏ガラスープもしくは水 60cc
発酵青唐辛子 1本 種をとって細切り
ニンニク(option) 少々 すりおろしてお好みで

つくりかた

  1. 調味料を合わせてよく混ぜる。
  2. ナスとパプリカを油通しして、油をよく切っておく。
  3. 大さじ1の油でネギ、豚肉を炒める。
  4. 野菜をもどして合わせ調味料を加えて炒める。味噌だれがとろりとしたら出来上がり。

ミノカサゴの焼き霜と骨せんべい

ミノカサゴ, みのかさご
朝どれミノカサゴ

伊豆山は魚久で気まぐれに陳列される本日の宝箱、いやトロ箱鮮魚(重量換算で100g120円)で掘り出したのはミノカサゴ。小学校にあがる祝いとして祖父母がくれた魚図鑑ではド派手に裏表紙を飾っており、そのうえアンタッチャブルな毒持ちときてるから、なにより一番最初に覚えた、奴だ。
是が非でもほしいアイテムだが魚に関しては超タカ派の家人はあからさまに乗り気でない顔つきだ。というか目を合わせようとしない。魚屋の親父を味方につけて、ミノカサゴを買ってくれとごねる。諦めた家人、好物のカイワリアジも買うことでディール。

ミノカサゴミノカサゴ
ヒレだけでなく顔に生えている棘もけっこう危険

まずは毒があると言われてるヒレをハサミで落とす。顎のあたりから喉にかけて、昭和の氷カップのような乳白色が美しい。つぶらな出目は透き通っている。目の上に小さな棘あり、気をつけたし。ウロコは薄く、なでるだけで簡単にとれるし、内蔵は腹からポロリとキモ離れよい。血合いもキレイなもんだ。さい先良しと頭を落とすべく腹びれから頭に包丁をいれたが、ここでつまずいた。頭蓋骨が屈強なのか、文字通り刃が立たず難航を極める。

ミノカサゴ
ヒレと落とすと滋味なミノカサゴ

三枚におろす際も不明な骨に遮られるが、力尽くでやれば緩い身が崩れてしまいそうだ。滅多にみせない集中力を集結し、慎重に刃先をすすめることになる。
おろし身は水っぽい。中華風に蒸すか、揚げるか、煮つけるか、アクアパッツァにするかと迷走したが、これだけ鮮度のいいミノカサゴと次いつ会えるというのか。やはり刺身で食べてみようと腹くくる。

端っこを食べてみたがやはり無味に近いので、脱水したのち刺身に切り分け、皮を炙って焼き霜にした。

ミノカサゴミノカサゴミノカサゴ
ミノカサゴ焼き霜

透き通る身は歯ごたえよし。炙ったせいかふんわりと控えめな甘みを感じる。確実に日本酒案件だ。オススメは塩とワサビ。醤油だと醤油の味しかしなくなるし、ポン酢だとあっさりしすぎた。

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ミノカサゴの骨煎餅

中骨と頭は、骨せんべいにする。さっと塩をふり、片栗粉をまぶして160度で20分揚げた。歯の治療中の家人にはやや試練だったようで、もう10分揚げてもよかったかもしれない。自分はバリバリと頭からいった。塩味もいいが、ポン酢がオススメ。やはりこちらも日本酒案件。

内蔵以外はすべて腹に収まった。翌日ポックリいってはしないかと懸念しつつ床についたが、両名健やかに早起きする。なにかしらの毒が効いたのかもしれない。
以上、現場の熱海からでした。


後日、国会図書館のサイトで見事なミノカサゴを見つけた。伊藤熊太郎というイラストレーターが描いたもので、紙面を泳いでいるかのように美しい。

【ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著【ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著
ミノカサゴ】『日本魚介図譜 第1輯』伊藤熊太郎(画) 田子勝弥(編著)

日本魚介図譜 第1輯 - 国立国会図書館デジタルコレクション

漁師たちはミノカサゴを「山の神」と恐れて手を出さないとある。海に住まう者が山の神を恐れる理由はわからないが、日本における山の神は、一般的に女性だ。舞泳ぐ美麗な姿を女神として崇めるがいいが、うっかりお触りしようものなら痛い目みるよ、という戒めめいた民話調の説明も魅力の図鑑で気に入った。

そして肝心の味の評価は「その風味も佳良」とある。佳良、つまり「かなり、良い」ということだ。
しかしながら、「近代魚類分類学の父」である田中茂穂先生は、どの著書においても「不味い」と一刀両断している。
味覚というのはそれぞれである。
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