近所の魚屋で見つけたのは島根県産のノドグロ。普段は手がだせない高級魚が、あろうことか4尾で400円だ。ラスト2パックだったが、残っていたことがミラクルである。
それにしてもなんだか既視感があるノドグロだ。
はるか遠い夏祭りのある日、友人の娘と金魚すくいに興じた。たくさんは飼えないからと、吟味した赤くかわいらしい小指ほどの金魚を彼女は大事そうに連れ帰っていった。
数年後にその友人宅へお邪魔すると、玄関先の水槽で不明な物体がやおら浮遊している。
「育ちすぎちゃったんだよね・・・・・・」あの時の金魚だった。元気そうでなによりだが、可憐な面影は消え去り、友人が水槽を横切るたびに金魚はこちらを凝視して口をぱくつかせている。まさにいま目の前にいるノドグロのサイズだった。
金魚サイズの隣に陳列された大人のノドグロは1860円である。白身の王様といわれるだけあって、価格もキングである。迷わず金魚サイズをカートに入れる。
ノドグロ飯
材料
ノドグロ | 4尾 | 三枚おろしにする |
米 | 2合 | 洗って水をきっておく |
昆布出汁 | 400cc | |
・薄口醤油 | 大さじ1 | |
・酒 | 大さじ2 | |
・塩 | ひとつまみ | |
薬味 | 適量 | 海苔、小口ネギ、山椒などお好みで |
頭をとったノドグロは完全に金魚化してしまった。ただここは腐っても鯛、ではなく金魚サイズでもノドグロ。捌いている時点でぬらぬらと指に脂がはりつく。
頭と骨は軽く塩をして脱水し、こんがり焼く。
昆布出汁に調味料を加えてさっと沸かし、塩少々で調整。吸い物よりしょっぱいくらいが目安。脂がのっていたのでみりんは省く。
土鍋に米、調味液、焼いた頭と骨をのせて炊飯開始。長谷園の土鍋だと強火で10分程度。その後火を止めて15分ほど蒸らす。
三枚におろした身は小骨を取り除き、皮が縮まぬよう浅く切れ目を入れ、軽く塩をしたら網にのせて炙る。バチバチと脂のはぜる音が食欲を刺激する。このまま食べてもきっと旨いはずだ。裏はさっとで半生に仕上げたら、炊きあがった飯に並べる。
ご飯をさっくりと混ぜ、ノドグロを一枚のせ、海苔とネギを添えるどんぶりスタイルで臨む。
「このご飯、鰻みたいな脂だね」
「白身のトロって言われてるんだよ」
ついさっき仕入れたばかりの浅知識を披露しつつ、米一粒一粒にまとった良質の脂特有の甘さを鼻腔で堪能する。
「ちょっとさ、山椒とってくれない?」
これが大正解だった。鰻につきものの山椒だが、ノドグロ飯にも完璧に合う。というか爽やかさがプラスされて飯をかきこむスピードが倍速となる。もしかしたら木の芽もいけるんじゃないか? がぜん春が待ち遠しい。
惜しむらくは、〆の茶漬けまで碗がすすめられなかったことだが、うまいものほどほどほどにしておいた方が身のためだ。肥大化した金魚がゆらゆらと脳裏を霞む。
非常に満足しきって箸をおく。
追記:
腹が減った数日後の深夜、冷凍したのどぐろ飯をあたため、熱い湯をかけて出汁醤油を少々、海苔をのせてかきこんだ。
一度冷えたせいもあるのか、旨みの凝縮がすさまじく、人生最高の茶漬け経験のひとつになった。
追記②:2021年11月17日
ちなみに、魚をさっと炙りたいとき、こちらの商品がたいへん便利です。