パスタの定番カルボナーラ。書籍はもちろん、いまやネットで検索すればスクロールする指が麻痺するほど次々とレシピが表れるものの、いったい自分が食べたいカルボナーラはどんなものなのか、ずいぶん長いこと考えてきた。
生クリームの可否、玉子の数、卵黄と卵白のバランス、チーズの種類…カルボナーラを巡る諸問題は数知れず、そろそろ決着をつけてしまいたいと思う。
IDIC(International Day of italian cuisines:国際イタリア料理デイ)によれば、カルボナーラにはかなり厳格な決まり事がある。使うベーコンは、フラットタイプのパンチェッタかグワンチャーレ。チーズについてはペコリーノロマーノもしくはグラナチーズ、しかもイタリアのPDO(原産地名称保護)に認定されたものではいけないとか、とにかく制約が細かいのが真のカルボナーラである。
IDIC公式:真のカルボナーラのレシピ
IDICが公開しているカルボナーラのレシピは次のようなものである。詳しいつくりかたなどは、ぜひホームページを参照してほしい。
60 to 80gm spaghetti freshly cooked al dente/アルデンテに茹でたスパゲッティ 60〜80g
1 tablespoon Extra virgin olive oil/エクストラバージンオイル 大さじ1
30gm flat pancetta or guanciale/フラットタイプのパンチェッタ、もしくはグワンチャーレ 30g
1 or 2 beaten eggs /溶き卵 1〜2個
25 gm freshly grated Pecorino Romano and/or aged Italian Grana Cheese (Grana Padano or Parmigiano Reggiano)/ペコリーノロマーノ、もしくは熟成させたパルミジャーノかグラナパダーノ
freshly grounded black pepper/挽きたての胡椒
素材が命、そして伝統に基づいた本物のひと皿を世界中のイタリア料理愛好家に届けるというのがIDICの使命なのかもしれないが、読んでいるうちに眩暈すらしてきた。そしてさらに格言は続く。
- You cannot make a Carbonara with pre-cooked pasta/「pre-cooked pasta」でカルボナーラはつくれない。
- Do not add cream/クリーム加えてはいけない。
- If you like, you can mix the two cheeses/好みで二種類のチーズを使う。
- Timing is important when you serve this dish/料理を提供するタイミングが命。
- Make sure the plate or bowl is hot/皿とボウルは温めておく。
- Do not overcook the egg/玉子に火を通しすぎるな。
不思議でならないのは、ラテンのりでどちらかといえばケセラセラ的大らかな気質のイメージが強いイタリア人だけれど、こと食に関しては超保守的なことだ。世界中の料理をあの手この手で新たな食文化として取り入れてしまう日本人こそマイノリティなのだろうか。とにかくカルボナーラという料理はすっかり日本に根付いてしまった。温泉玉子をのせてみたり、豆乳や牛乳を加えたりと、オリジナルのカルボナーラをつくろうと日本人は熱心だ。だから、基本を知ったうえでいろいろなカルボナーラを追求するのは悪い事じゃない。
カルボナーラをどう加熱するか?
さて、カルボナーラつくるうえでいちばん難しいのは、パスタと卵を絡めながら、パサパサにならないようなめらかに加熱するところだろう。
卵黄は65〜70℃でタンパク質が変性し、卵白については62〜65℃である。玉子が固まるギリギリの温度で加熱していけば、ならめらかなソースとなるわけだが、IDICによれば玉子が凝固しはじめる70〜72℃ですばやく調理しろとある。さて、この温度を保つにはどうしたらいいのか、というのが問題だ。
湯煎だろうが、直接火にかけようが、この温度さえ実現できれば手段はなんでもいい。
カルボナーラをつくりはじめた当初は、湯煎式でパスタと卵液を合わせていた。使っていたのは、石黒智子の重ね鍋だ。実際このやり方は有効で、火の通り方が穏やかなので失敗することはほとんどない。唯一の問題は、洗い物が増えるのと、工程が煩雑になることだろうか。
いまはステップアップして直火式でカルボナーラをつくるようになり、幾度となく失敗もくり返してきたけれど、カルボナーラは次のふたつの道具があれば、素人でも案外うまくいくということがわかってきた。
カルボナーラに便利な調理道具
アルミの鍋
イタリアンのシェフがアルミパンを使ってパスタをつくるのは、単にミーハーな理由ではない。ひとつには、ソースの色がわかりやすいこと。次に軽いので煽りやすいこと。一番重要なのが、熱の伝導率がよいアルミニウムの性質上、その逆もしかりで冷えるのも早いので、加熱のコントロールがしやすい点である。
カルボナーラでいえば、加熱により卵液が凝固しそうになったらガス火から遠ざけたり、濡れた布巾の上にでものせてしまえば、早急にソースが固まることはない。もしこれが鉄のフライパンだったとしたら、保温力が高い鉄の性質によって、火からおろしてもしばらく凝固反応は続いてしまうだろう。
さて、ではどんなアルミパンを選ぶべきか。私は30cmのアルミパンを所有しているが、これでパスタをつくるのはけっこう難しい。パスタを入れるとかなりの重量になり、片手でアルミパンを振ることができないのだ。これでは意味がない。なのでパスタとアルミパンを合わせた重量で、自身の腕力と相談する必要がある。
そこで私がオススメしたいのは、ヤットコ鍋だ。
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もちろんアルミニウム製。ヤットコバサミで持ち上げるので、テコの原理で比較的軽々と鍋を持ち上げられるし、深さもあるため多少荒々しく鍋をふってもパスタやソースが飛び散ることがない。プロのシェフのようにフライパンを華麗に煽ることができない自分にはうってつけの鍋なのだ。
moggy流・濃厚カルボナーラ
目指すのは、フルボディの赤ワインにも負けない濃厚なカルボナーラ。
これまで全卵のみ、卵黄のみ、全卵+卵黄、その個数を複数組み合わせて試作を重ねてきたけれど、全卵のみよりは卵黄を加えたほうがコクがあってうまい。さらにIDICの真のカルボナーラでは、「生クリームは使うな!」とあるが、卵液とパスタを合わせる際、火の通りすぎを和らげてくれるのでほんの少々加えることにした。
材料
パンチェッタ | 40g | パンチェッタのブロックを使用。使わない分は密閉して冷凍庫で保存しておけば凍ることもなく日持ちする |
全卵(小玉) | 1個 | |
卵黄(小玉) | 2個 | |
生クリーム | 大さじ1 | |
ペコリーノロマーノ | 30g | |
胡椒 | たっぷり | |
白ワイン | 大さじ2 | |
パスタ | 160g | |
茹で汁 | 60cc |
つくりかた
- パスタを1%の湯(1Lの湯で小さじ2の塩)でパッケージの表示通りの時間茹でる。
- 溶き卵とすり下ろしたチーズ、生クリーム、ひいた黒胡椒をよく混ぜる。
- パンチェッタは7〜10ミリの厚さに切り、2cmくらいの拍子切りにする。
- オリーブオイル少々をアルミ鍋に加え、パンチェッタを入れて点火。パンチェッタの脂肪分がおおければ、オイルを加えなくてもいい。弱火でじっくりと脂を引き出す。
- パンチェッタが香ばしくなってきたら、白ワイン、パスタの茹で汁を加えて軽く煮込む。
- パスタを湯から引き上げ、パンチェッタを煮込んでいたアルミ鍋に加えて、パンチェッタの香りがパスタに移るよう、全体をトングで軽く混ぜ、火からおろす。
- トングでパスタをかき混ぜながら、鍋の中央から卵液を加える(鍋肌からいれると玉子がかたまってしまう)。もし不安であれば、かるく水分を含んだ布巾などを敷いておくと鍋の温度が下がるので、焦ることなくかき混ぜられる。
- この時点ではまだ玉子が半生の状態なので、鍋を火にかけたり、遠ざけたりしながら、卵液がとろりとするまでかき混ぜつづける。
- 温めておいた皿に盛り、好みで追いチーズと胡椒。
自家製パスタとも相性ばっちり。
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