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時速1kmの思考

暮らしの道具 銅製の玉子焼き鍋でつくるだし巻き玉子は本当にうまいのか?

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安物の代償

最後の晩餐で何を食べたいか。数十年前から答えは変わっていない。玉子だ。調理法は問わず、玉子ほど多才な食材はないし、あらゆる点で完全食である。なかでもだし巻き玉子は、世界中あまたの玉子料理のなかでも異質な存在だ。調理は家庭料理とは言えないほど複雑だし、そもそも四角い鍋など他でお目にかかれない。それがおよそ各家庭に一台あるというのだから、日本人の玉子焼きに対するこだわりは執念に近いものを感じる。

私がかつて使っていた玉子焼き鍋は、量販店で手に入れたテフロンの安物である。テフロン自体にはなんの不満もなかったが、問題は、軽すぎたことだ。卵液を流し込まないとコンロの上で安定しないのだ。実際、これは恐ろしく危険な代物だった。事故は起こるべくして起こる。ついには鍋の柄が腕にひっかかり、玉子は床に飛び散った。力任せに床を拭きながら悟った。もうこの鍋は使えない。

玉子焼き鍋を買い替える

ストレスがたまる道具は道具とはいえない。反省点を踏まえ、まずはある程度の重さがある玉子焼き鍋を探した。いくつかの選択肢から浮かんできたのは銅製の鍋だ。使いこなす自信はさっぱりないが、なんだかとてつもない玉子焼きが食べられるんじゃないかという期待が指先をくすぶり今にもポチりそう。値段はピンキリだったが、いつ匙を投げるかもわからないので、ひとまずリーズナブルなものを購入する。

銅製の鍋でだし巻き玉子の味は変わったのか?

断言しよう。確実に「外で食べるだし巻き」に変貌した。なによりも食感が別物だ。語弊があるかもしれないが、感覚的には羊羹とパンケーキほどの差がある。出汁をしっかりと貯えた玉子はみずみずしく軽やか。だがそこまでたどり着くにはそれなりの時間がかかった。

こびりつきやすい

予想はしていたものの、やはり銅製の鍋は扱いにくかった。油をしっかり馴染ませたはずが、使い始めは何度となくこびりつかせてしまう。こればかりは数をこなすしかない。ひたすらだし巻きを焼く日々が続く。そして鍋を洗剤で洗わなくてよいという利点も知った。

火加減

弱火だと羊羹のような食感になってしまう。だし巻き玉子は弱火で焼くと提唱するものもあるが、火加減は中強火を保ち、鍋を火から近づけたり離したりすることで調整するのがよいとわかった。皮肉にも思い鍋を常に左手に持つことになってしまったのだ。

出汁と玉子の割合

出汁が多すぎても玉子が巻きづらいし、少なすぎてもみずみずしさが損なわれる。ネットや本にのっているレシピを片っ端から試作してみるものの、しっくりこない日が続き、しまいには何をもってうまいだし巻きなのかもわからなくなってしまった。完全に泥沼にはまったのだ。

プロのだし巻き玉子

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馴染みの飲み屋ではいつもカウンターに座る。カウンターからは板場から煮方までを俯瞰することができる。板前の所作をみながら日本酒をちびちびやる時間は至福だ。泥沼にどっぷり浸かっていたある日、だし巻き玉子の話を切り出した。もはや自分ではにっちもさっちもいかなかったのだ。

僕が最初に覚えた基本のだし巻きは、玉子5個に対して出汁が八斥だよ

外国文学を読んでいるとマイルやポンドといった独自の計量表記につまづき、先に進めないことがある。似たような状況に陥った。つまりは、和食のプロが使うお玉は八斥(144cc)と決まっており、そのお玉に対する割合で他の調味料を計量しているということだった。ちなみに一合(180cc)の8割だから八斥だ。そして玉子はSサイズ、46〜52g未満のものを取り寄せるという。

次の日、玉子3個で試してみる。計算上では玉子1個に対して出汁は28.8cc、3個だと86.4ccとなる。中途半端な数字なので、丸めて90ccとした。だいぶ腰のない卵液に動揺したが、理想のだし巻き玉子に仕上がった。

よくよく考えたら、茶碗蒸しは玉子の4倍の出汁でも固まってくれるではないか。玉子焼き鍋に卵液を入れると、ジューっという音とともに、出汁が蒸発しているのが分かる。その熱い水蒸気で玉子にふんわりと火がはいるのだとすれば、だし巻きとは一種の蒸し料理と言ってもいいのかもしれない。つくづく妙な玉子料理だ。

銅製の玉子焼き鍋でだし巻き玉子をつくる

材料

玉子 3個 Mサイズを使用
出汁 90CC 鰹と昆布でとった出汁を使っているが、アゴ出汁もなかなか
白醤油 小さじ1 もしくは薄口醤油か出汁醤油
ひとつまみ  

※出汁をとる時間がないときの裏技として、水に昆布茶を匙1杯入れる場合もある。
※サンドイッチや弁当にいれる場合は、水溶き片栗粉を小さじ1杯入れることで、出汁の流出が抑えられる。味重視ならいれないほうがいい。

つくりかた

  1. ボウルに玉子を割り入れ、白身を切るように菜箸でかき混ぜる。
  2. 出汁、調味料も入れて、かき混ぜる。味見をして、塩っ気をはほとんど感じないくらいでいい。
  3. 卵液を漉す。
  4. キッチンペーパーと油を入れる容器を準備する。
  5. 玉子焼き鍋はしっかり熱して多めの油を入れ馴染ませる。油をいったん容器に移し、冷ましてから改めて油をしいて中強火にする。箸の先につけた卵液を鍋肌につけ、玉子がさっと白くなれば適温。
  6. 煙が出る手前で鍋を火から離し、お玉一杯の卵液を流し込む。手首を大きく動かして、卵液を玉子焼き鍋全体にいき渡らせる。火は中強火を保ち、火加減は火から近づけたり離したりをくり返して調節する。
  7. 玉子が半熟の状態になったら端から巻いていく。奥からでも手前からでも、やりやすい方法でいい。私は奥からの大阪巻派だ。このとき、鍋を火から離しておけば、落ち着いて巻くことができる。
  8. 手前まで玉子が巻けたら、卵焼き鍋のあいたところにキッチンペーパーで油をひき直し、玉子を奥へ滑らせる。手前のあいたところも油を塗る。
  9. 卵液を流し込む。奥にある巻いた玉子焼きを箸で持ち上げ、その下にも卵液を流し入れる。ぷくぷくと玉子が膨らんできたら菜箸で潰し、半熟になったらまた奥から巻く。
  10. ⑧と⑨を、卵液がなくなるまでくり返す。
  11. 巻きすにって軽く巻き、形を整えたら適当な大きさに切って、大根おろしなど薬味を添える。f:id:Xphi:20170404221815j:plain