mogu mogu MOGGY

mogu mogu MOGGY

時速1kmの思考

セブ(SEB)の古い圧力鍋とその使い方

引っ越し直前にやってきたセブの古い圧力鍋

祖母の遺品を整理したときに発掘された圧力鍋をもらい受けた。
三人の男児を育てきった祖母は料理をするほうではあったが、この圧力鍋はほぼ新品に近い状態で、付属品すべてがそろう完品だ。

そもそも私は圧力鍋というものが嫌いだ。手持ちのステンレス製の一台も、家人が独身時代に保有していたもので滅多に使わない。あのシューシュー鳴り響く高音がうるさいし、ごてごてとした形状も好みじゃない。道具として、セクシーじゃない。

調べてみれば、祖母の圧力鍋はセブ社という仏企業が1953年に商品化したもので、74年には一家に2台という驚異的な数字をたたき出すほどフランスでは普及していたそうだ。日本に輸入されるようになったのは戦後で、いまはティファールと名を変え日本の家庭にも浸透している。


わけあって我が家にはいま2台のセブ圧力鍋がある。色や刻印に違いがあるものの、両者とも、ぶ厚いアルミニウム製で、重たく、装飾がわりかしすっきりして無骨、眺めているだけで一杯やりたい気分にさせてくれる。が、使ってみるとかなりクセが強い圧力鍋だ。

手持ちの圧力鍋はワンタッチ式で、ハンドルをぐるぐる手回しして圧力をかけるこの古代石器のようなセブ鍋はさっぱり使いかたがわからなかった。オークションサイトでも出品されているが、「どうやって使えばいいんですか?」というコメントには同意しかない。そこで、家人に説明書を要約してもらい、ようやく使えるようになってきたこのセブ鍋のすばらしさとその使い方のコツを書いていきたい。

セブの古い圧力鍋を眺める

色違いのセブ圧力鍋

2台のセブの圧力鍋は、アルミニウム製、6L、ネジ、安全規格の表記など基本構造はほぼ同じだが、プラスチック部分の色が違う。

セブの型番

支持金具の裏には型番が刻印されてあった。
「6L LA 0779 123」は祖母の形見の黒いセブ、「6L SERIE IA 175」は訳ありのあずき色のセブだ。

セブ圧力鍋のパッキン

パッキンの色も違い、黒は透明のゴム製、あずき色は茶色で、かなり固い。一部亀裂があるため、色の違いが経年劣化なのかは不明。情報がほしいところだ。

セブ圧力鍋の蓋の裏

あずき色の圧力鍋の蓋の裏には刻印があるが、黒にはなし。
モーツァルトのラブレターのような趣がある。


安全規格のマークからも、どちらも日本で販売された年代違いの圧力鍋だろうと推察するけれど、わざわざ鍋裏に刻印するあたりは使い込まれたあずき色のほうがビンテージなんじゃないかと睨んでいる。

セブの古い圧力鍋の使い方

セブの圧力鍋の説明書『セブしゅるしゅるクッキング』。和食、洋食、中華のレシピも掲載

ふだん説明書を読まない自分がよまざるを得ないほど、セブの圧力鍋は現代のそれとは違う。まず異様に部品が多い。A〜Rまであるが、使うときに重要なものだけに絞って紹介する(Jは誤植で掲載されていないが、左上の圧力調整装置)。

セブ圧力鍋の部品

まずつまづいたのは、鍋の蓋が閉まらないことだった。
鍋蓋の開閉において重要なのが、Cの支持具(アーム)、Oの支持金具である。

蓋の開けかた、閉めかた

セブの圧力鍋の閉めかた

セブの圧力鍋の蓋は、スライド式になっているが、ある一定方向からしかはまらない構造になっている。

Oの支持金具の構造とCの支持具(アーム)

支持具は手前がフラットで、奥は壁のある構造になっているため、支持具(アーム)はフラットな部分からスライドすることになる。

誤った閉め方
左(正)/右(誤)

次に私が間違えていたのが、蓋をしたときの圧力を調整するおもりの位置だ。(右)の状態で火にかけてしまったが、おもりがまったく動かず、しゅるしゅる音もしないので、なんだかおかしいぞ! と慌てて説明書をめくった次第である。

おもりの位置がCの支持具(アーム)と当たっているがために、まったく動かなかったのだ。危うく爆発するところである。
これを防ぐのが、Iのストッパーだ。

Cの支持具(アーム)とIのストッパー

Iのストッパーの真下にCの支持具(アーム)がくるように調整し、鍋本体を押さえながらBのしめ具(ハンドル)をひねっていくと、しっかり蓋が閉まる。

しっかり圧力をかけるには、しめ具がもう回らないと感じた時点から、さらに2〜3回ひねるのがコツだそう。


とにかく鍋の蓋さえしまれば、あとの調理は現代の圧力鍋と変わらない。
だがここまで読んでくれたみなさまは、「セブの圧力鍋、めんどくせー」と思ったに違いない。たしかに、クセがありすぎる。祖母がサジを投げたのも納得だ。
だがこの鍋、鍋としてはかなり上質なことが最近わかってきた。

というのも、この厚さである。定規で計ったので正確ではないが、ざっと5mmはあるんじゃなかろうか。

鍋としてのセブ

この鍋は、圧力鍋としてだけでなく、単なる鍋としても優秀だ。たとえばカレーをつくっても、いつもよりおいしくなったのはその厚さゆえなんじゃないかと推測している。

つい先日も、この鍋でチキンカレーをつくったが、いつもと同じレシピでつくっているにもかかわらず、どうやら香りが立っていたいう。

巷ではインド鍋(カダイ鍋)がコロナ禍でバカ売れしているという。なかでもアジアハンターのインド鍋は、厚さ5mmのアルミニウム製で、私もいま買うかいなか、悩んでいる最中だ。
www.asiahunter.com

底が丸いという点でインド鍋とは別物だが、カレーを大量に作る場合はセブ鍋のほうが有利である。油が多ければ、底が平たくてもテンパリングは余裕だし、煮込はさすがの得意分野だ。

セブの圧力鍋とパイ皿

軽い野菜スープや鶏ガラスープなんかも弱火で気長に煮ていればいい感じにしあがる。蓋は重たいからふだんはパイ皿をのせて蓋をしている。
話がそれるが、このパイ皿は、切った食材置きに、肉をのせてオーブンで焼くときにも、スープをつくったときにはその上にお玉をのせておくにも、ちょうどいいから便利。




210mm 大 ステンレス 日本製

持ち手のプラスチックの部分もネジを取れば外れるので、キャンプで直火も問題ないだろう。家で仕込んで重たい蓋で密閉すれば、持ち運びの際に車内でこぼすこともない。

使うほどによくできた鍋だと感心する。


古いセブ鍋を使って思ったのは、材料をケチってないな、ということだ。当時の価格は分からないが、質実剛健で日本人好みのものづくりをしている。

圧力鍋としては最先端のそれと比べれば機能は劣るだろうが、鍋としてはかなり高品質で、うまく使えばそれこそ一生もの。
どうやら長い付き合いになりそうな予感がしている。