頭から尾までの長さは手の平サイズの鯵が特売だった。さっそく南蛮漬けにしようと意気込んでいたものの、帰宅した途端に膝からがっくりと崩れ落ちる。iPhoneの万歩計を見れば10000万歩越えである。ちょっと風邪っぽいときに不用意に熱を測ってしまい、予想以上に熱があったとわかると無条件に具合が悪くなってくるという症状に似ている。
そんなこんなで鯵に向き合う気力も体力も尻すぼみとなり、彼らは翌日に持ち越された。
筋肉痛を引きずった翌日。冷蔵庫から鯵を取り出したものの、すっかり南蛮漬けの気分ではなくなっていた。酸っぱい気分ではない。どちらかといえばこってり油モノを欲している。そうだ、アジフライにしよう。
ゼイゴと頭を落とすと、ただでさえ小さいアジは、極小アジとなってしまった。通常の大きさのアジならば、三枚おろしにしてささっと揚げてしまうところだが、このアジでそれをやってしまえばちょっと大きめの天かすだ。
今こそ、背開きをすべき時なのだ。せこいと言われようが、少しでもアジを大きく見せたい気運が高まる。
魚の背開きは、慣れるまではなかなかやっかいだ。ところどころ身が皮一枚でつながっている状態になり、穴が開いてしまったら最後、放り出したい気分になる。もう開くのやめてこのまま揚げてしまおうか・・・ため息をつきながらも「これは本来なら南蛮にする極小アジを、無理やりフライにする戯れなのだ」などと割り切って気軽に構えられるようになったころ、背開きは少しだけ上達していた。
ポイントは、頭をなるべく垂直に落とし、筒状にしてやるところにありそうだ。
軽く塩をして、水気をふきとったら刷毛で薄力粉をまぶし、卵液につけて、生パン粉をたっぷりつけて、揚げる。
揚げてしまえば、破けてしまった箇所も見事に補修されて、それなりのアジフライになった。ほっくりふわふわというよりも、ザグっと歯触りジャンクなアジフライ。
捌くのは面倒臭いが、一口サイズなので食べたい量を調整できるのはなかなかよい。フランスパンにのせればスペインのバルに並んでいそうなタパスにもなる。そして10尾で198円なのもなおよし。
タルタルには紫蘇の実の塩漬けを入れてプチプチとした食感を加える。ふりかけとしてしても、調味料として使える紫蘇の実はかなり重宝している。
皿は青物横丁の商店の店先で発掘したもので、なんと小アジよりお安い100円。Yamato stoneware という、70-80年代に海外向け輸出ように作られた物らしく、ぽってりしたフォルムと手描きの素朴さが昭和レトロ。ソウルフードなアジフライにレトロは欠かせない。