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時速1kmの思考

報われない穴子ざく

穴子ざく

やる気が一ミリも出ない週末。台所に立ちたいとは思っているものの、体がまったく言うことをきいてくれない。居間にヨガマットをしき、枕で首を固定して毛布にくるまりながらKindleと携帯を交互に眺めては目をつぶり、無為に時間だけが流れていく。

だがしかし、そろそろ起きなければならない。というのも、先日買ってしまった穴子が末期を迎えているであろう臭いを放ち始めている。旬八の特売で二尾350円だった穴子は、頭つきですでに骨切りもしてある。「煮穴子にして鮨にでもしてやろう」とノリノリでビニールに詰めたあのときの自分はどこへ行ったのか。そろそろ何かしらの処置をしなければ、ゴミ箱いき決定だろう。このまま忘れたふりをしてそうなってしまってもいいとさえ思いはじめた。

穴子

重い腰をあげて、ビニール袋に入った穴子を引っ掴んでボウルに放り込み、塩を振り入れて穴子をしごく。ぬるぬるした体液は罰ゲームさながらで、より気を滅入らせる。ざっと洗ってもう一度塩でしごいてやると、ようやくすっきりした穴子になった。心なしか穴子の目も生き返ったように感じる。

穴子

穴子にする気力は、ない。とりあえず、焼いとけばなんとかなる。そういえば、板長からゆずってもらった魚用の照り焼きのタレがあるから、蒲焼きにしてやっつけよう。

板長の魚用照り焼きのタレは、焼いた鯛6尾分の骨に酒+みりん、水を同割で鍋に入れ、半分まで煮詰めて濃口醤油で仕上げた手の込んだモノである。これさえ塗っておけば、うまくなるのだと確信する。

穴子

焼くにしても、魚焼き器を出すのも億劫だ。ここは直火で焼いてやろう。串もはずれなきゃいいから無遠慮にぐさぐさと突き刺す。






AG 18-8 魚串 φ2.0mm 30cm

サイズ:φ2.0x300mm
本体重量:約145g
素材・材質:18-8ステンレス(SUS304)
原産国:日本/燕市
入数:20本入

穴子

酷い串打ちである。これが手品師ならすでに数人死んでいる。よい子のみんなは真似しちゃいけない代物だ。この雑な仕事を見て慌てた板長の顔が脳内でちらちらと見え隠れするものの、もう手遅れ。
焼いときゃなんとかなるだろ的な意識低すぎなモノになってしまい、タレにも穴子にも申しわけない気持ちになる。

穴子

このまま食卓にだしてはあまりに無残すぎる。せめて棺桶だけは美しいもので送り出してやりたいと、気に入りの京焼の抹茶碗を取り出す。義母からもらったこの茶碗、どんな残念なものでも三割増しくらいにみえる優秀な碗である。

穴子を一口大に切り、蛇腹キュウリを立て塩と昆布につけておいたものを軽く絞って添え、土佐酢をかけて「穴子ざく」とする。

マイナスのメンタルでとりかかった料理にしてはそれなりになったことに満足していたので、一口食べた家人に感想を求めたところ、返ってきたひと言がこれだ。

「鱧のほうがうまいな」

最後の最後まで報われない穴子であった。