春がきそうでまだ冬。そんなときに店にいったら、メニューの黒板にひときわ気になる文字が・・・・・・春子鯛。
「しゅんこだい? ください」
「冗談でしょ? かすごだよ〜!」と他の客たちの前で大恥をかいて、目の前にでてきたのがこちらの一品である。
この淡い色にため息ひとつ。まだ桜は咲いてないけど、それを思わせる天然のピンク。
春子鯛はいわゆる真鯛や黄鯛の幼魚で、全長は10cmくらいだ。名前と色味からして旬は春かとおもいきや、日本では年中どこかしらでとれるらしい。
軽く酢で締めてあって、ほんのり甘く、優しく、うまいなぁと思わず唸る。小ぶりだから寿司種としても人気で、ひな祭りなどには手まり寿司にすると喜ばれるという。
手間のかかる料理なんだろうと覚悟していたが、教えてもらいながらつくってみると、意外と簡単。酢で締めてしまえば保存もきくのでむしろ家庭料理にはぴったりなことがわかった。
こんなにうまいのに、なかなか注文がこないと板長がこぼしていたが、それは単にみな、漢字が読めないだけなんじゃないか? と勘繰っている。
春子鯛の酢〆
つくりかた
春子鯛を三枚におろし、薄塩をしてしばらくおいておくが、伝統的なやりかたは紙塩というやりかただそうだ。身が薄いので、直接塩をふりかけると塩が入りすぎてしまうのだ。
紙塩は、天板に塩をふりかけて、湿らせた和紙をおき、その上に鯛を並べて、さらに和紙をおいて塩をふるという恐ろしく慇懃なやりかたである。天紙とかキッチンペーパーでも問題ないそう。
単にうすい塩水(2%くらい)につけておく(立塩)やり方もある。
ちなみに今回は、築地の魚屋がここまでの処理をしてくれているので、かなりお手軽。
血合い骨を取り除いたら、2枚の春子鯛の皮を合わせて、バットに並べるのもポイントだ。
次にメインの作業、「酢で締める」にとりかかるが、ここからがちょっと変わっている。
酢締めは、どのくらいの酸味の酢に、どれくらいの時間つけるかで、作り手の個性が出やすい。
一般的には、酢にそのままつけるか、酢を水で薄めた割り酢を使うが、板長がこの時期に使っているのは「あら酢」というものだ。
あら酢とは?
あら酢とは、穀物酢(ミツカン)と濃口醤油(ヤマサ)にけっこうな白砂糖(スプーン印)を加えたものである。板長は目分量でボウルに合わせていくから、分量を確認できなかったが、あら酢を持ち帰って再現してみると、穀物酢大さじ5、濃口大さじ1、きび砂糖小さじ5くらいの塩梅だった。きび砂糖は甘味が控え目なので、白砂糖を使ったら、およそ5:1:1の割合でなかろうか。
しめ鯖にも使えるこのあら酢の利点はなにかといえば、「しまりすぎないこと」だそうだ。一人で店を切り盛りしている場合、あれやこれやと仕込みをしているうちに「あっ、忘れてた!」なんてこと誰にだってあるはず。生酢を使えば時間が経つほど締まりすぎてしまうので、締める時間に関してはかなりセンシティブに管理しなくてはならない。あら酢だと数十分の誤差はカバーしてくれるというのだ。
科学的には砂糖と塩の分子の大きさを利用した酢の使い方だと推察しているんだが、職人からしてみれば、「高い千鳥酢よりもおいしくできたし、最近忘れっぽいし〜」と笑っている。
さて、話を戻そう。ボウルに「あら酢」の材料を合わせて砂糖が溶けたら、春子鯛にかぶるくらいになみなみと注ぐ。
落としラップをしたら、そのまま15〜20分浸けておく。
身が白くなったらあら酢からあげて、水分をふきとり、保存容器に並べる。
付け合わせは早摘みワカメ。春子鯛は食べやすいよう皮に飾り包丁を入れて、皿に盛る。土佐酢をかけて出来上がり。
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あえて白い洋食器に盛ってみたが、なかなか悪くないと自己満足。
春子鯛を使ってアレンジ
酢でしめた春子鯛は一枚ずつラップでくるんで、冷凍保存できる。
解凍してそのまま食べてもおいしいが、土佐酢に飽きたらちょっとアレンジしてみるのもいい。