板長が立派な鱧を仕入れてきた。
まだちゃんとした鱧を食べたことがない私に、驚きとなかば呆れ顔の板長が味見させてくれるという。
しかも目の前で調理してくれるというので、目を皿のようにして観察してきた。
鱧の骨切り
天板にごく薄塩をする。
いざ、骨切り。
鱧は小骨が多いので、皮のギリギリまで包丁を細かく入れて骨を切っておかねば食べられたものじゃない。
実際、九州なんかでは鱧なんかたいしてうまい魚ではないからと、スーパーでは格安らしい。ではなぜ料亭で食べる鱧は高級なのかといえば、これはもう料理人の技術を食べているようなものなのだ。
包丁は鱧専用のもので、切っ先の形状が独特である。
とにかくミリ単位で鱧の骨を切っていくのがプロの技。
素人でもできるものか? とひとつやってみたが異次元のむずかしさ。専用包丁は重たいし、骨が固いから切ろう切ろうと意識して無駄な力が入ってしまう。ここで包丁の重さを活かして切るという基本に立ちかえるわけだが、和包丁の使い方が未熟なことがモロバレで凹む。
巷には機械で骨切り処理をしてある鱧も売っているので、素人はそちらを買った方が無難かもしれない。両方食べてみたが、やはり食感は違う。
重ならないように天板に並べて骨切り終了。
鱧の落とし(鱧ちり)
穴の開いたお玉に鱧を皮面を下にして重ならないように並べていく。こんなに薄いものをちまちまと並べていくのか!
湯引きする。
皮はしっかり火を通し、身はほぼ生でなければならない。ここからがプロの技である。
皮を均等に加熱するためにお玉をゆっくりまわしながら湯につける。そして身は瞬きする間に湯につけ氷水へ放つ。身が縮れて白い花が咲いたようである。
素人代表としてひとつやらせてもらったが、あっという間に湯がきすぎでぼろぼろの身となってしまった。鱧、すまん。
水分をふきとりレタスで蓋をして保存。ほどよく水分を保ってくれるそうだ。
本来なら客から注文が入ってからすぐに提供するのがベストだが、人材不足のための苦肉の策。
ソースは梅肉にワサビをといたものだ。板長いわく梅肉とワサビは味が喧嘩しあってばっちりはまるという。独特な表現なんだが、食べてみるとわかるような気がする。
噛むと上品な脂が染みだして口の中で身がほろりと崩れていく。なんと爽快な食べ物なんだろう。
ビールより冷酒が合う。而今、鍋島、スーパーくどき上手を飲みつつ、仕事の疲れが吹っ飛ぶ深夜。