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時速1kmの思考

【Amazon Prime】EAT THE WORLD ep3. モダニスト料理の巨匠たち

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モダニスト料理、前衛料理、あるいは分子ガストロノミーなどと呼ばれる分野がある。
なんと呼ぶにせよ、まっ先に思い浮かんだのが、世界を魅了したスペインのエル・ブジだ。というのも、「エル・ブリの秘密 世界」というドキュメンタリー番組を見ていたからだ。

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皿に載せられた料理は、もはやその食材そのものの原型はなりを潜め、料理というより、アートだ。すべてが緻密に計算されたあっと驚く仕掛けに、食事はエンターテイメントに昇華する。2011年、惜しまれつつも閉店したエル・ブジだが、モダニスト料理の父フェラン・アドリアの活動は続いていた。

スペイン出身の巨匠ホセ・アンドレスを案内役に、エメリル・ラガッセはフェラン・アドリアに会いにいく。

モダニスト料理は伝統の延長線上にある

アストゥリアス州の州都オビエドの大聖堂の前でホセと再会したエメリル。さっそく腹が減ったと意気投合する二人は、街へ散策にでかける。オビエドの歴史は中世初期にまで遡る。その影響はいまだ街に色濃く残り、チーズやモルシージャなど伝統食材を売る専門店が軒を連ねている。その様子を、ホセは「刺激的だ」と言う。

ここでは伝統が新しいものを生む。ルーツをたどることで今の自分がわかる。そして未来に向かう。モダニスト料理は伝統の延長線上にある。

まず案内されたのが、チョリソー、モルシージャをはじめ、さまざまな伝統食材を扱っているAramburuだ。漂うハモン・イベリコの空気を大きく吸い込む二人。

ハモン・イベリコは、ドングリを食べて育ったイベリコ種の黒豚を乾燥・熟成させた生ハムで、豚肉の王様とも呼ばれている。脂肪もたっぷりで、口の中でとろけるのが特徴だ。(ちなみに白豚でつくったハムはハモン・セラーノだ。) 店員が薄切りしているハモン・イベリコを見て思いついたホセ。即興で料理をつくりはじめる。

ハモン・イベリコの鶏卵素麺のせ

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鶏卵素麺(ウエボ・イラド)は、14世紀にこの土地伝わってきた食材だ。福岡にも同様の菓子があるが、その起源はお隣のポルトガルだ。卵黄を熱したシロップの中に糸状に流し入れると、髪の毛のように細い錦糸玉子になるのだ。

ハモン・イベリコにウエボ・イラードを載せて、ホセがエリメルに食べさせる。思わず抱き合う二人。

Aramburu

aramburu-asturias.es

アストゥリアス料理の女王

アストゥリアス州の郷土料理といえば、ファバダ・アストゥリアーナだ。豆と豚肉の煮込んだもので、古くから伝わる家庭料理だ。ホセがファバダの聖堂で法王に会わせると、車を郊外へ走らせる。

カーサ・ヘラルド(Casa Gerardo)ミシュランの星に輝く、135年の歴史を誇る名店だ。1970年代に流行したヌーベル・キュイジーヌに刺激されたオーナーのペドロ・モラン(Pedro Moran)は、伝統的なスペイン料理を現代風にアレンジすることに情熱を燃やす。父の情熱は息子マルコス・モラン(Marcos  Moran)にも引き継がれ、現在は彼が料理長だ。

ウナギの燻製

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厨房の大きな水槽には、無数の魚が泳いでる。ウナギの稚魚、アングーラだ。スペインでは、昔からウナギの稚魚を食べる習慣がある。一般的には、缶詰や冷凍で売られていて、オイルで煮た「angulas(アングラス)」が有名だ。

キャビア同様に稀少な食材であり、世界的にウナギの収穫量が減っていることも影響して、近年では高騰しているため、巷のバルではグーラ(gula)という代用品で調理されているほどだ。あの水槽一杯でいくらするのだろうと、震撼してしまう。

今回は、それを生きたまま調理するというマルコ。斬新な調理法で繊細な風味と食感を味わおうというのだ。ブランデーグラスの中を縦横無尽に泳ぎ回るウナギの稚魚。そこに燻製した大人のウナギを入れ、数種のエビでとった熱いコンソメを一気に注ぎ入れる。暴れ出すウナギの稚魚が、あっという間に白くなってしまう。

「まるで海を食べているようだ」とエメリル。そしてまたハグする二人。ホセはうまいものを食べるとハグとキスをする癖があるようだ。

ファバダ・デ・プレンデス

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伝統的な家庭料理であるファバダにも、モラン流のコツが満載だ。通常は乾燥した白いインゲン豆(ファバ・デ・ラ・グランハ)を使うのだが、モラン家の人々は、秋に収穫して冷凍保存しておいた生の豆を使う。これがポイントの一つだ。

大鍋に豆、水、オリーブオイル、パンチェッタ、そして別の鍋で5分茹でて余分な脂を落としたチョリソーとモルシージャを合わせて、15分煮る。その間、フライパンにオリーブオイルを熱してタマネギ、パプリカパウダーを炒める。

大鍋にはサフランを入れ、鍋をゆする。かき混ぜてはいけない。豆が割れてしまうからだ。赤ちゃんのように大事に扱うことがポイントだ。炒めたタマネギを大鍋に移し、また鍋ごとゆすり、蓋をしてごく弱火で40分ほど煮る。豆を舌の上にのせたら、舌と上あごの間で潰すことができるくらいに煮るのが最大のポイントのようだ。

アストゥリアス料理の女王と呼ばれるこの料理。伝統的には一緒に煮た肉を豆の中にいれて食べるが、今回は横に添えてある。自由に食べればいいのだ。

今の料理をつくっているんだ。昨日の料理は作れないし、明日の料理もムリだ。今日の料理を作る。明日も今日になる。

Casa Gerardo

Carretera AS-19, Km. 9, 33438 Prendes, Asturias,España

Restaurante Casa Gerardo | Uno de los restaurantes más prestigiosos del Principado

モダニスト料理の父に会う

バルセロナモダニスト料理を語るうえで重要な街である。1980年代、世界最高峰のシェフ、フェラン・アドリアが料理革命を起こし、前衛料理が誕生したのだ。フェランはエル・ブジでの食事を映画や絵画の鑑賞に喩え、食事を芸術の域にまで高める。

エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密

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 若かりし頃のホセも、フェランの影響を強く受け、門戸を叩いたシェフの一人だ。しかし2011年7月30日、エル・ブジは閉店する。

「CERRAMOS EL BULLI PARA ABRIR EL BULLI(私たちはエル・ブジをオープンするために、エル・ブジを閉店する)」

料理界に衝撃が走った。1日15時間働く生活を25年間も続けてきたフェラン。休業を宣言したのは、「創造性の枯渇を恐れたからだ」という。そして現在、フェランは「エル・ブジ ファウンデーション」なる料理の研究機関を開設し、再始動している。

地下鉄の通路のような暗い建物の扉を開けると、太陽が降りそそぐかのように対照的な光の下、小柄の男がで二人を迎える。フェラン・アドリアだ。その顔はとても穏やかで、あのドキュメンタリー番組で見られた鋭い眼差しとは別人のように見える。

白を基調とした室内は、まるで大学のセミナールームのようだ。平然と並ぶテーブル、パソコンの前で作業をしている人々は静かな熱気に包まれている。そこかしこに図表やアート、写真が飾られ、いわゆる調理道具といったものは見あたらない。

ここでは料理に関するすべてを研究している。料理人はもちろんのこと、哲学者、歴史家、生物学者社会学者など、さまざまなバックグラウンドを持った人々が集まり、創造性とはなにかについて解析しているのだ。研究の対象は料理ではあるものの、その多様性が可能性を広げるとフェランは言う。

フェランがエメリルに質問をする。

トマトとは? どう理解する? トマトは何だ?
どう新種をつくる? どうやって育てる? 
どう売る? インターネットか、それとも市場か? 
知識は調理を助ける。
すべてを知ることはできない。
3000種類のトマトがあるからだ。

このひとつひとつに、即座に答えられる人がいったい何人いるだろう? 飽くことない探求心にただ圧倒される。そしてその食に関するすべての情報を、惜しみなくみなと共有したいというのも、フェランの懐の深さだろう。

「ブジペディア(Bullipedia)」という史上最大の料理百科事典をつくろうというのだ。原始時代から現在まで、食と料理に関するすべてを分類・整理し、収集した情報を世界と共有して新しいアイデアや料理、料理人を育てるのが目的だ。

この研究所自体、彼の夢そのものなのだろう。エル・ブジは健在だ。感謝の言葉を述べながら涙を抑えるエメリルは、「ゼロからやり直したい気分だ」と声を詰まらせる。

ホセがフェランの言葉をなぞる。

彼は、目的があって店を閉めた。
彼は、多くを知ったと思っていた
いろんな技や料理も生み出した
― 無知だった(フェラン)
でも本当は何も知らないと気づいた
― 最高の発見だ(フェラン)

「もしも(What if)」の追求

エル・ブジを閉めた日、別の店はやらないと決めたフェラン・アドリア。ファンとしては少々残念なことではあるが、同店で23年間料理人を務めた実弟アルベルト・アドリア(Albert Adrià)がその革命の伝統を引き継ぎいでいる。

鉄製の門をくぐり抜けると、まるで秘密基地のような薄暗い空間が広がっている。ここがアルベルトが総料理長を務めるエニグマだ。エニグマとは、「謎」「なぞなぞ」「パズル」などを意味する言葉だ。

創造性というのは二割がひらめきで、六割が情熱だ
人生と同じだ

アルベルトがある実験を始める。イカスミに水、ゼラチンを加え、バットに流し込み、バーナーで炙り板状にする。そのイカスミの紙を切り、何かを巻いていく。詳しくは明かされないが、何か新しい食感を試しているようだが、これこそフェランの伝統だ。

アーモンドのムース

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卵とゼラチンを撹拌してつくるミルクムースに、香油を注入し、パルメザンチーズをかけたひと品。亜酸化窒素を使って食材をムースに加工するエスプーマの技術が使われているのだろう。軽くて手の中で溶けてしまいそうだというエメリルに、ホセの語るストーリーが面白い。

五番街を歩いていて、目の前に雲が現れたとする
腹が減っていたので、思わず口を開けて雲にかじりつく
それがパルメザン味だったら最高だ

誰もが考えそうで考えない。というよりも、純真な子供のような発想である。パルメザンが子供受けするかどうかは疑問だが。モダニスト料理のカギは「もしも(What if)」の追求にあるのだ。

モダニスト料理は、創造性とアイデアの蓄積だ。実験を繰り返し、限界に挑戦するシェフたちに感銘を受けるエメリル。

技術を磨くだけでは不充分だ
努力が必要だと再確認したよ

そう旅を振り返り、エメリルとホセは乾杯する。

Enigma

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