北海道は池田町の阿部農場から送られてきた黒豚をたいらげるミッションは継続中。今回は、豚ばらブロック1kgを食べる。
いつもなら、角煮、東坡肉といった中華系に寄ってしまうのだが、今回は趣向を変えたい。なんせ新鮮な1kgのブロックなど、なかなか調理する機会もない。醤油味ではない、豚バラの新たな扉を開いきたいではないか!
ということで今回は、世界のトップシェフのひとり、ゴードン・ラムゼイ師を仰ぐことにする。その名も「豚ばら肉の低温ロースト(Slow-Roasted Pork Belly)」だ。
Slow Roasted Pork Belly---Ingredients © Gordon Ramsay
まずはゴードン師匠のレシピをざっと見てみよう。いくつか日本では手に入りずらい食材もありそうだ。
豚バラ肉 | 1kg | 皮付き |
---|---|---|
塩・胡椒 | 適量*1 | 海塩 |
フェンネル・バルブ | 1個 | |
ベイリーフ | 4枚 | フレッシュ |
ニンニク | 3片 | |
カルダモン | 小1 | 皮を剥いて叩きつぶす |
スターアニス(八角) | 4個 | |
フェンネルシード | 大1 | 二回に分けて使う |
オリーブオイル | 適量 | |
白ワイン | 325cc | |
鶏ガラスープ | 500〜750cc | オーブンで焼き上げるときの容器の大きさによる |
粒マスタード | 大1 | ソース用 |
フェンネル・バルブ
手に入りずらそうなものとして、フェンネル・バルブがある。これはセリ科の地中海植物、フェンネルの鱗茎の部分を指している。
アニスシードや八角と同じ芳香成分、アネトール(砂糖の13倍の甘さ)を含み、強いアニス臭がする。
はじめは、セロリで代用できるかとも思ったのだが、かなり糖度が高そうなので、セロリとタマネギを合わせて使うことにしよう。
フェンネルシードはその種子であり。インド料理などにもよく使われているので、手に入りやすい。
ベイリーフ
こちらも生は手に入らなかたので乾燥で我慢する。苗ごとかってもいいかもしれないな。
八角
次に、つくりかたを要約してみよう。冒頭の動画は、その工程をざっとつかめる。
Slow Roasted Pork Belly---method © Gordon Ramsay
- オーブンは180℃に余熱しておく。
- 豚バラ肉の皮面に、1.5cm間隔で格子状の切り込みをいれる。たっぷりの塩と胡椒を肉に塗り、皮にもよく擦りこむ。
- オリーブオイルにフェンネル、ベイリーフ、ニンニク、カルダモン、八角、フェンネルシードの半分をオーブントレイにいれ、香りが出るまで2分ほど炒める。
豚肉の皮の面を下にして、トレイにいれ、皮が黄金色になるまで少なくとも5分は焼きつける。
豚肉をひっくりかえし、塩と残りのフェンネルで調味する。
ワインを注ぎ、鍋底の旨みをこそげとる。このとき、皮が濡れないように注意する。沸騰したら、背脂の部分まで、鶏ガラスープを注ぎ、沸騰させる。 - ③をオーブンへ入れ、二時間半焼く。
- 焼き上がった肉を温かい皿にうつし、休ませる。
その合間に、オーブントレイに残った余計な豚バラの脂肪分をスプーンで取り除く、もしくは食パンをオーブントレイの表面に滑らせて調味液を吸収させる。残った調味液を混ぜ味見をし、必要なら香りを調整。八角とシナモンを取りだし、ソースをポットにいれておく。休ませた肉をソースとともに提供する。
以上である。
工程②の格子状の切り込みは、脂肪に火が入りやすくなり、ロースト中に脂が落ちて切り込みの表面が揚げたようにカリカリになって香ばしく仕上がる。羊肉などもこの手法を使うと、独特の脂の臭みが抜けてよい。
また工程⑤の、豚バラ肉の脂肪をとる作業では、食パンを使った方法を提案している。これは、動画(2:50あたりから)を見たほうがわかりやすいだろう。ゴードン氏は、「このたっぷりと脂を吸収させたパンを焼いて"フライドブレッド"にするとうまい(Trust me!!)」と述べている。
ここではたと気がついた。この料理、鶏肉のブレゼとそっくりではないか!?
ブレゼ(braiser*2)とはフランスの調理法で、あらかじめ肉を焼き付けて、素材がかぶる程度の液体(出汁や水、酒類)を加えて蓋をし、オーブンで時間をかけて加熱する方法で、ひと言でいうと「蒸し煮」だ。
ところで、最高にうまい蒸し煮をつくるには、どうしたらいいのだろう。ここでまた、ハロルド・マギー先生の登場だ。
蒸し煮および煮込みをジューシーに仕上げるポイント
- 鍋に肉と調理液を入れ、冷たいオーブンに入れる。水分が蒸発するように鍋のふたのすきまをわずかに開け、オーブン温度を95℃に設定する。鍋の中身はゆっくりと温まり、2時間ほどで約50℃になる。
- オーブン温度を120℃に上げ、中身が50℃から80℃にゆっくりと温まるようにする。
- 1時間経ったら、30分ごとに肉をチェックし、フォークの歯がすっと通るようになればオーブンから出す。
- そのままで肉を冷まし、液をある程度再吸収させる。
以上は、ポイントの抜粋である。あぁ、見なけりゃよかった。
角煮などもそうだが、肉をしっとり柔らかにするには、低温で長時間が原則だ。でも低温って、いったい何度なのか?
80℃前後に保つ必要がある
のだ。だから、一番簡単なのは、やはり肉を焼き付けたあと、香味野菜とともに真空調理すること、となるわけだ。設定温度を95℃にしておけば、それ以上火が通ることはない。大事なのは、外部からの温度ではなく、食材そのものの温度である。
檀一雄の東坡肉など、1kgの豚ばらを、とろ火で2時間加熱し、それをさましたあげくに脂身を焼き、さらに1〜24時間蒸すというのだ*3。「蒸す」ということは、確実に100℃以下で長時間、加熱しているわけである。
だが、ゴードン師匠は180℃のオーブンで二時間半。マギー先生は95℃〜120℃なのだが・・・・・・そこで出した結論は、
「180℃に余熱して、120℃で焼く」だ。
豚ばらは、脂肪を多いから、変性したしたアクチンによる肉の硬さを補ってくれるはずだから、まぁ多少焼きすぎたとしても問題ないだろう。
さて、肉を焼いていこう。
豚バラ肉の低温ロースト、いざ、実践!
1. 豚バラの下準備をする。
豚バラ肉の皮に1.5cm間隔で格子状の切れ目をいれて、塩をたっぷりと擦り込む。胡椒はあえて塗り込まなかった。というのは、胡椒が焦げるのはあまりうまいとは思わないからだ。香味スパイスを炒めるときに、胡椒を使う。
2. 香草やスパイスを炒める。
フェンネル・バルブは、セロリ1本、タマネギ1/2個で代用した。香りが立ってくるまでよく炒める。
3. 豚を焼く
豚の皮面を下にして、焼いていく。この容器だと、香草類が邪魔して皮がうまく焼けなかったので、いちど取り出してから焼いた。
豚肉をひっくり返したら、香草類を戻し、残りのフェンネルシードを入れる。
白ワインを注いで、旨みをこそげ落としてから、鶏ガラスープを背脂ぎりぎりまで注ぐ。
4. 180℃に余熱したオーブンに肉を入れ、120℃に落として3時間焼く。
当日は、友人が来る前に2時間半焼いて、そのままオーブンにいれたままじっくりと休ませておいた。提供する30分くらい前に、改めてオーブンで温めた。
ソースを添えて、食べる。
ほろほろでジューシーな肉が出来上がった。柔らかすぎて、包丁をいれるのさえ難しい。
ゴードン氏推奨のフライドブレッドも添えてみたが、これまたジャンクでうまい。カロリーオーバー覚悟でぜひ食べてみてほしい。それにしても、大人6人であっという間に肉はなくなるとはね。