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時速1kmの思考

三ツ星『シェフ』を目指せ! キューバサンドイッチへの道②


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究極のしっとり柔らか目指した
ローストポーク

前回に引き続き、究極のしっとり柔らかなローストポークのつくりかたについて考えてみる。まずはジョン・ファブローによる、キューバサンドイッチのつくりかたを要約してみよう。

ジョン・ファヴローキューバサンドイッチのつくりかた

  1. 豚肩ロースをブライン液に12時間漬ける。
  2. マリネ液(Mojo Marinade)を準備する。
  3. ブライン液から取り出した豚肉の水気をとり、マリネ液に少なくとも2時間、漬ける。
  4. 中心温度が76.6℃になるまでゆっくりと肉を焼いていく(中はピンク色になるはずだ)。焼いているあいだ、マリネ液を豚肉にかける。
  5. 焼き上がった豚肉を手で触れるくらいに冷ます。冷蔵庫で冷やすと薄切りにしやすい。
  6. 薄切りした肉を焼く。
  7. 半分に割ったバケットの内側にバターを塗り、黄金色になるまでトーストする。
  8. バケットに、ハム、ローストポーク、スイスチーズ、ピクルスを載せ、バケットでサンドイッチを閉じる。
  9. たっぷりのバターをバケットの外側に塗り、鉄板を押し当て焼き色をつける。

ざっと工程はこんな感じだ。冒頭の動画を見るとつかみやすいだろう。まずは、ローストポークの工程①〜⑤までを考察していく。

ローストポーク
温度設定と時間

ジョン・ファブロー氏がいったい何度で肉をローストしたのかは、redditの投稿には言及されていないが、2014年10月のPeopleによれば、1.6kg(3.5ポンド)の肉に対して、218℃に余熱したオーブンで30分、その後190℃に落として1時間半焼き、中心温度を71℃にするとある。

TIMEでは、ジョン・ファブロー氏のつくったキューバサンドを見ることができるが(2019.03.26削除)、個人的には少し焼きすぎのような気がする。

中心温度71℃とは、豚肉でいえば焼き加減はウェルダンの域(71〜74℃)にはいる。おそらく、USDA(米国農務省)のガイドラインに沿った温度設定だったのではないだろうかと想像する。

フライパンで焼き目をつけたあと65℃前後で真空湯煎したローストポークはもっと淡いピンク色をしている。だが今回は肉の大きさからして、この方法は使えない。

time.com

次の写真は、ブライン液に漬け込んだ約600gの豚肉を、230度に余熱したオーブンに入れ、170度に下げて30分焼き、アルミホイルにくるんで30分放置したものだ。中心温度は測っていないが、おそらくミディアムレア(55℃)からミディアム(60℃)のはずだ。

https://40.media.tumblr.com/cdaa2a0f82cedd3c23ff0cf8633dc1b8/tumblr_inline_nzp5671roX1qbouyg_1280.jpg

FSIS(米国農務省食品安全検査局)のガイドラインによれば、豚肉を60℃で1分以上保てば低温殺菌(パスチャライズ)できるという(『Cooking for Geeks』p175の図表より)。

と、ここまで思案ばかりしてきたが、そろそろ決めよう。

240℃で10分、100℃で54分、アルミホイルにくるんで54分、中心温度は63℃を目指したいとおもう

ハロルド・マギー氏は「ローストする時間」についてこう述べている。

肉をローストするのにかかる時間を決めるために、さまざまな指標が提案されている。よくあるのは、肉1インチ(約2.5cm)当たり何分とか、1ポンド(約450g)当たり何分とかで換算する方法である。

しかし、熱伝導の計算式からみれば、実際には加熱時間は厚さの2乗、あるいは重さの2/3乗に比例する。

その上、ほかの多くの要因も調理時間に影響する。それぞれの家庭で違った肉を調理するために必要な時間を、簡単かつ正確に割り出せる計算式などないのである。

結局は、調理を実際に行いながら、肉の中心温度の上がり具合を見つつ、火を止めるタイミングを決めるしかない。

 まったくもって、おっしゃる通りである。上達するには、肉を焼いて、焼いて、焼きまくるしかないのだ。そろそろ考えるのはやめにして、肉を焼くことにしよう。

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参考書籍

Cooking for Geek 料理の科学と実践レシピ

食と科学に目覚めさせてくれた一冊。食のプロではない、いわば素人の食オタクたちが、科学とその技法を駆使して、試行錯誤しながら料理する姿に心を打たれる(もちろんプロの料理人も登場するが)。また同書を出版するオライリーの創業者ティム・オライリー氏も、自らスコーンを紹介している。やはり、食は人生を豊かにしてくれるのだ。

マギーキッチンサイエンス

食物と調理の化学の権威ハロルド・マギーによる食のバイブル。上製、850ページ超という恐るべき大著である。6804円と一瞬その価格に怯んだが、その情報量たるや、薄っぺらい食の科学の本を何冊も買うよりもよっぽど費用対効果は高い。だが枕にするにはちと高すぎる。