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時速1kmの思考

渾身の焼鮭

焼ジャケ

「鮭の皮の焼き方がいつも甘いんだよ」
イラッとしながら"いつも"聞こえないふりを貫いて数年は経過している。そもそも魚・肉全般の皮を苦手としている自分にとって、鮭の皮をパリパリに焼くこと自体、あまり興味のないの人生だった。


アイヌの人々は鮭を「カムイ・チェプ」とよび、神の魚のとして崇めている。鮭に捨てるところなし。皮は衣服やブーツに加工されている。鮭の皮をはぐ工程が難しく、身が残ると生臭い靴が出来上がるそうだ。(参考:サーモンミュージアム、Maruya Nichiro)。
「お前足くせぇなぁ」「こりゃ靴のせいだよ」なんて会話が繰り広げられていたかもしれないと思うと、なんだか香ばしい。

昭和17年に出版された『鮭鱒聚苑(けいそんじゅえん)』(水産社)は、鮭の皮で装丁されている珍本だ。(開高健最後の晩餐 (文春文庫)』より)
画像検索してみると、背と角の部分に鮭の皮が施されており、渋い。編集に携わっていた者として一度は拝んでおきたいが、国会図書館でも公開しておらず、復刊が望まれる。もちろん、装丁が鮭の皮なら齧ってみたい。

調べるほどますます鮭の皮を無理して食べることに疑問がわいてくるところだが、まぁいい。今日は鮭の皮をしっかりと焼くことに専念しよう。

焼ジャケ

使う道具はおなじみの「カンダのKan焼き上手」。
塩水に漬けておいた鮭の水気をしっかり拭き取り金串に刺すと、にわかに野外感が増し気分も底上げ。
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焼ジャケ

脂身の少ない切り身を中火で焼いていく。こちらは後日、お茶漬けかパスタかおにぎりになる予定だ。

焼ジャケ

やや火を落として、カマはじくじくと皮面から焼いていく。せっかちを封印し、心静かに鮭を見つめ、無の境地に至ろうとしたとき、したたった脂で煙がもうもうと立ちはじめ、慌ててうちわで仰ぐ。換気扇にガタがきてて、思うように吸ってくれず、いろいろと気忙しい。

焼ジャケ

満を持して裏返し、手で皮を触ってみる。念には念を入れて、もう少し、焼く。こうなりゃとことんだ。

焼ジャケ

渾身の焼鮭は合格ラインにのったらしく、あっという間にバリバリと食い終わる家人。北海道の熊もこんな風にかぶりついてるのかもしれない。つられて自分も皮を齧る。まぁ、悪くない。ブニョっとはしていない。
熊は足りなかったようで、保存用の鮭にも手をつけた。



kan 焼上手 両手

サイズ:29.5×20×2.5cm/本体重量:480g

生鮭を塩鮭に

鮭の塩水漬け

焼いた塩ジャケとご飯が食べたいという家人の要望を受け、近場のスーパーへ走る。

海洋深層水仕立てが売りの塩ジャケはペラっとした切り身二枚で600円。野菜も高騰するなか、青息吐息である。海洋深層水が塩ジャケにどのような作用を与えるのか不明のまま、ふらふらと生鮭のコーナーへ流れる。

昨今はチリ産が鮭売り場を占めており、それより高額でノルウェー産のアトランティックサーモンが並ぶ。
国産では宮城県の養殖が安パイ、時期によっては北海道のものもあるが見あたらず、決めてに欠けるラインナップだったのであえなく塩鮭コーナーに逆流。

海洋深層水鮭で手を打とうとした瞬間、山積みされた隅のコーナーに目が留まる。乱雑に積まれた魚たちはドリップが漏れそうなパックもあり、捌きがまずいのか鯛アラは緑に変色。屍臭漂う、ホラー映画顔負けの死体安置所。
もう少しきれいに並べたらいいのにと、やるせない気分になる。ジェンガよろしく慎重に山を崩すと、宮城県産の生鮭アラが埋もれているではないか。驚愕の300円、奇跡的に状態も悪くない。反射的にカゴに入れる。当たりが見えた福袋は最後のひとつだった。

鮭の塩水漬け

さっそく3%の塩水と砂糖を入れて鮭をつけ、一番だしをとった後の二番昆布で蓋をして冷蔵庫で一晩寝かせる。
この一連をSNSに投稿したところ、あるフォロワーから質問があった。
「なぜ砂糖を入れるのですか?」

ローストチキンも塩と砂糖をつかったブライン液につけてるんですが、塩分の入りすぎを防ぎ、焼いたときのメイラード反応(焦げ付き具合)もきれいになりつつ身はジューシーに仕上がります。

しめ鯖でも砂糖で締めてから塩で締めるやり方がありますが、おそらく砂糖と塩の分子の大きさの違いと、砂糖のほうが水に溶けやすく(親和性)、保水&脱水作用があるので、食品に適度な水分を保ち、焼いたときジューシーに仕上がります。

人間でもポカリスェットを飲むと吸収されやすいのと一緒かなぁ。専門家ではないので、こんな答えですみません。

あくまでこれは、科学に基づかない私見である。ちなみに、塩は粗塩を使い、砂糖はきびで、塩の半量を目安にしている。
3%の塩分だと、塩っ辛い鮭というより、はんなりとした塩加減になり、鮭の旨味がよくわかる。塩分がほしくなる真夏日なんかは、4〜5%くらいでもいいかもしれない。
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酒飲みによる、酒飲みのためのいなり寿司②

鳥牛蒡飯のいなり寿司

家人の会社で感染者がでた。数ヶ月ぶりの、二人目である。東京の感染者が200人を超えた時点で危ないとは思っていたが、予想を裏切らない事態である。

すっかり在宅勤務が板に付いた家人といえば、「7月いっぱい出社しない」という旨を会社にはっきり伝え、憑きものが落ちたような清々しい様子だが、7月いっぱい献立のやりくりのことを思えばこちらは白目をむく境地である。
ここ最近は、確実に献立企画能力が破綻しはじめているようで、ある日の夕飯は肉豆腐にボンゴレスパゲッティという甚だしくとっちらかった取り合わせとなり、もはや和洋折衷とかいう言葉の範疇を超えているため、ボンゴレに紫蘇を加えてむりやり和の方向へ向かわせることでつじつまを合わせる。
メンタルの疲れが食卓の情景に異変をもたらしており、「そうそう、この味が食べたかったんだよねぇ」とうそぶいてみたものの、やはり食い合わせが悪かったらしく、胃がしくしくとしている。


いきがかり上、昼食は先日大量に炊いた油揚げを消費することにする。
かわりばえしないきつねうどんだけでは足りないと判断し、例の「酒飲みによる、酒飲みのためのいなり寿司」でもって首尾良く丸め込む腹づもりだ。

といっても、寝起きで酢飯をつくる若さも計画性も持ち合わせておらず、数日前に炊いて冷凍しておいた鳥牛蒡飯を忍ばせて体裁を整えることになる。
一般的な大きさの、半分の半分の油揚げに入る米は、小指の第二関節くらいであった。目論見通り、ちょっとつまみたい酒飲みにとって理想型のいなり寿司である。

鳥牛蒡飯のいなり寿司

朱塗りの弁当箱に詰めてみると悪くない景色だったが、なにか足りない…冷蔵庫をあさってみると母の紅生姜が目に止まる。みじんにして、稲荷に載せる。口に含んでみると、紅生姜が抜群の仕事をしており、まぁ心配したってなるようにかならんわなと吹っ切れる。

鳥牛蒡飯のいなり寿司

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酒飲みによる、酒飲みのためのいなり寿司①

油揚げ

17歳という若さでタイトルをとった藤井棋聖。駒の動かしかたくらいしか知らないど素人でも、その時がくるのを手に汗にぎるほどの熱量で見守っていた。
いっぽうで、油揚げを盤に見立てニヤついている四十路は、もはや人生詰んでるのかもしれないな・・・・・・とぼんやりキーボードを叩いているところである。


さて、さほど好きでもなお稲荷さんを久々に作ってみようかと思い立ったのは、この正方形の油揚げを隣町のスーパーで見つけたからだ。
そもそもなぜ稲荷寿司を好まないのか、という話から始めなければいけないが、とどのつまりり、たったひとつで腹一杯になるからだ。

砂糖と油と炭水化物。成分的にはドーナッツであり、一つ食べれば十分なボリュームとカロリー。生モノが苦手な外国人が、寿司は食えないがいなり寿司だけは別格だというのもうなずける。両親が助六寿司を常用していたのでいなり寿司が親しみある食べ物であることには違いないが、幼子心にいなり寿司ひとつで腹を満たすのはなんだか損した気分だった。

酒を嗜むようになってからは、稲荷寿司との距離はさらに遠のくことになる。酒と飯を同時に摂ることに抵抗があった、というより罪悪感といったほうが正しいのかもしれない。

この小さな油揚げなら、使う飯も少量で足りるし、つまみ稲荷にすれば酒飲みでも3つくらい余裕でいけるんじゃないか、と思ったのだ。

さっそく12枚のハーフサイズの油揚げをさらに等分に切り、関西風に出汁、薄口醤油、みりん、砂糖で炊くことにする。

酒飲みのためのいなり寿司〜油揚げ編〜

いなり寿司用の油揚げ

材料

油揚げを煮る調味液の比率は、出汁:みりん:酒:薄口醤油を10:1.2:1:1+砂糖。油揚げの枚数と鍋の大きさに合わせて調整してほしい。

正方形の油揚げ 12枚
出汁 450cc
みりん 54cc
日本酒 45cc
薄口醤油 45cc
きび砂糖 50g

つくりかた

いなり寿司用の油揚げ

油抜きをするための湯を沸かしているあいだに、油揚げを半分に切り、袋状に開く。開きづらい場合は、まな板に油揚げをおき、細めの麺棒や菜箸を軽く転がしてやると剥がれやすくなる。
油揚げを熱湯に入れ、10分ほど煮る。

いなり寿司用の油揚げ

油揚げを引き上げて、水にさらす。

いなり寿司用の油揚げ

油揚げを両手ではさみ、水気をしっかり絞る。

いなり寿司用の油揚げ

調味液を沸かして、油揚げを強火で煮る。落とし蓋をしてだいたい10分くらいが目安だが、煮汁が半量ほどになれば火を消して、そのまま自然に冷やす。

いなり寿司用の油揚げ

冷えていく過程で味が入っていく。保存容器に並べて、煮汁もひたひたに注いだら、一晩冷蔵庫で寝かせる。


本日の作業はこれにておしまい。
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バスク風あさり飯

バスク風あさり飯

「シールがついている品はどれでも3つで1000円」
という文句に誘われて、引きよせられるように駆け寄った鮮魚コーナー。目を皿のようにして片っ端から高速で商品と価格をチェックしていく。
店側としても収益を確保すべく、たいしてお得でもない品もまんべんなくとり揃え、さらっとシールを貼るといった軽いトラップをしかけてくる。せっかくなら3品違う商品を選びたくなるところだが、どう考えても買うべきは「大粒アサリ」だと思われた。
通常なら1パック399円のものを333.333・・・・・・円なら悪くない。ということで、役牌アサリのポンで手を打つ。

さっそく砂抜きをして、「アサリ醤油漬け」の準備にとりかかる。これで数日の間は晩酌のお供になる。だが茹でたアサリを醤油に漬けながら思った。「いくらなんでも飽きるだろう」と。
自分のつくるアサリの醤油漬けは、アサリを茹でたときにでる出汁を使わない。残った出汁を濃縮させてソースに使う手もあるが、出汁で米を炊いてしまうのが手っ取り早い。醤油に漬ける手を止め、先日割れたカスエラの代わりに迎えた陶板の土鍋に舵を切る。

アサリ汁を漉して、吸い物よりややしょっぱく味付けし、米を炊きあげたのちにアサリを埋め込み、しばらく蓋をして蒸らすと、アサリのふっくら感が損なわない。仕上げにイタリアンパセリ・・・・・・がなかったので紫蘇をまき散らしてしまい、すっかりバスク感が吹っ飛んでしまったが、まぁ旨かったので良しとしよう。

ところで、今年こそバスクへ行くぞ! と算段していたのだが、この状況では諦めざる得ないようだ。Go to Travel は Go to Trouble の様相を呈しており、明らかに隠しきれないトラブル顔の政治家たちを見るのも飽き飽きしている今日このごろだ。

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バスク風あさり飯(Arroz con Almejas)

材料

100cc 洗わない
アサリの出汁 250cc 100ccのカップで米の2.5倍
アサリ 1パック
ニンニク 1片 みじん切り
タマネギ 1/4個 みじん切り
オリーブオイル たっぷり
紫蘇 たっぷり ごく細切り
塩・胡椒 少々

※内径17.8cmの土鍋を使用






陶のすき焼鍋 こぶり 茶

材質:耐熱陶器
備考:IH不可

つくりかた

バスク風あさり飯

アサリがぎりぎりかぶるくらいの水に酒を少々加えて、火を付ける。

バスク風あさり飯

アサリの口が開いたらすぐに引き上げておく。

バスク風あさり飯

殻が多すぎて土鍋に入らなそうだったので、半分はむき身にした。

バスク風あさり飯

アサリの湯がき汁を一煮立ちさせ、アクをしっかりとったら目の細かいザルで漉す。

バスク風あさり飯

漉した出汁を吸い物よりやや塩辛いくらいに調整して、米の2.5倍に計量する。オーブンを200度に余熱しておく。

バスク風あさり飯

土鍋にオリーブオイルをたっぷりしき、タマネギとニンニクを炒める。

バスク風あさり飯

米を加えて全体に油がまわるくらいに炒める。

バスク風あさり飯

アサリ出汁を加えて煮立たせる。

バスク風あさり飯

沸騰したら、オーブンで15分焼く。

バスク風あさり飯

炊けたらアサリを米に埋め込む。

バスク風あさり飯

蓋をして5分くらい蒸らす。

バスク風あさり飯

紫蘇を散らして食卓へ。